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2章

俊くんの企み

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「いやあ漫才カップルいいわあ。入部希望者いたら彼らまで問い合わせてねん!!はいじゃあ三年生からお待ちかね、カメラの用意をしといてねーー!!おらお前ら出てこーい!!」

三年生ともなると出ているのは学と俊くんのはずだ。食券ガチ勢の大人気ないクラスメイトが、後輩に辛酸なめさせてやると意気込んで祭り上げられた二人である。理由が酷すぎて笑うが、毎年こんなもんだった。

「あ!?なんで出演者側!?!?」

素っ頓狂な益子の声が響く。まさかの学の腰を抱いた番になったばかりの末永が、ニコニコした笑みで登場してきたのだ。柿畠の疲れた顔はこれらしい。審査員枠じゃねえじゃんときいちはおもった。

「うむ、学の隣に立つのが桑原だと腹が立つからな。俺が出た。」
「ええ!?なにやってんだまじで。まあいいけど、俊くん誰と歩くんだ?」
「きいちとあるけばいいだろう。そこに都合良くいるし。」
「ええ!?!?まさかそのためにここに座らせたのぉ!?」

ぴしりと指をさす末永に若干殺意が芽生えたが、末永の後ろに隠れる学はまじで美少女だ。おい肩口になんか噛み跡あるけどお前の仕業か。きいちは引きつり笑顔を浮かべながら学をみると、誠に申し訳ないとジェスチャーで謝られた。

「えーと、突然の元生徒会長の乱入に取り乱しちゃったぜぇ。みんな枠増やしてもいいかな?きいちー!!俊くんとこいってこーい!」

いいよー!!と会場から返事が帰ってくると、益子はにこにことご機嫌な様子できいちへいけと指示する。まじで取り仕切っておる、渋々凪を葵に託すと覚えてろよと吐き捨ててから駆け足で裏に引っ込む。会場からはそこもネタだと思われているようだが殺意はマジだ。後で葵さんに許可もらって助走つけて殴る。そう決めた。

「えー、この二人はこの間番になったばっかりだよー!!3年食券ガチ勢が後輩の出る杭を打つというなんとも大人気ない理由から選ばれたんだけど、隣に立つ予定の俊くんはあとできいちがつれてきまーす!!」

イエーイ!と会場と掛け声一つで一体感をつくる。コミュニケーションスキルは高いほうだと思っていたが、ここまで来るともはや天職なのではと葵が思うくらいにはノリノリだ。

「んでアピールだけど、お前ら二人はもはやその見た目がすでに宣伝だよなあ。もうあれだな、学が読経するしかねえな。」
「おいいつまで引きずってんだてめぇ!もういいわ!!」
「知らない人が多いから補足するが、学は去年自己アピールで読経したんだったか。」
「補足もええがな!!きれいに終わらせろよぉ!!!」

取っ付きにくそうな金髪美少女の姿の学が、番と益子に誂われている親しみやすいようすに、会場からはクスクス笑いとともに、読経姫ー!!と知っているクラスメイトからは掛け声まで飛んでくる始末だった。

きいちはというと、賑わっている会場の声を聞きながらベンチに座ってスマホをいじっていた俊くんのそばに駆け寄ると、見上げるようにしてしゃがみ込む。

「来ちゃった。」
「可愛い俺のオメガがきた。」
「おいやめろぉ!でれるな照れるわ!」
「くく、凪は?」
「葵さんが見ててくれるって。」

きいちの腰を引き寄せた俊くんは、己の片足に腰掛けさせるように座らせると、長くなった髪を横に流して噛み跡を撫でた。俊くんの手首に、同じ痕が残っている。普段は時計で隠しているそこも、今日は珍しくさらされていた。

「…その服みたことない。」
「ん?変か?」
「んーん、若社長ってかんじ。」

似合っているよ。といって俊くんの耳に溢れた毛を流すと、その手をとられて指先に口づけられる。
嫌味なくらいに様になっている。白いワイシャツに白のデニム、薄い水色のジャケットを肩に引っ掛けた俊くんは、いつも片側に流している髪をオールバックにして形のいい額を晒していた。
後れ毛が色っぽい。やっぱり誰が俊くんの真似をしようとも、本人に変わることはできない。くふりと笑うとぎゅうと抱きついて、肺に俊くんの香りを満たす。

「ん、行くか。」
「目指せ食券!!って、わあ!」
「てっぺんとるぞ、きいち。」
「おおお、おろしてぇー!!」

立ち上がるつもりが、膝裏を軽々と掬い上げられて抱き上げられる。俊くんは重さを感じさせない軽々とした足取りでカーテンを抜けると、呆れた顔の益子はやれやれと肩を竦めた。

「はーいみなさ~ん、このマウントのとり方が雑なのが桑原俊くんでぇす!死にそうな顔で抱きかかえられてるのはご存知番のきいちくんでぇす。おら!!ドヤ顔してんじゃねえ、愛想振りまかねえと退場させんぞ!」
「急に奴隷商みたいなこというじゃん。」

きいちの益子へのツッコミを拾った俊くんは、楽しそうに笑いながらそっと下ろすと、益子から渡されたマイクを持って会場を見渡した。

後ろの方で和葉が古参のオタクよろしく壁際で腕を組んで笑っている。まるで今から何をするのかわかっているようで少しだけ腹がたつ。

「おいきいち、」
「んえ?」

葵から凪を受け取ったきいちは、口元のヨダレをスタイで拭いながらなんの気無しに返事をする。
ふわふわになったきいちの髪をひとなでした。この綺麗な番は俺のものだと、俊くんは自慢をしたかった。

「食券とかは別にいらねえんだけどさ、」

そっときいちの腰を引き寄せる。きいちはなんだか俊くんがご機嫌で、楽しそうで可愛いなあと思いながら引き寄せられるままにそばに行く。

ちらりと見つめた会場は、手前にはクラスメイトや友達やらが陣取っていて三馬鹿は何故か泣いている。よくわからないけど、きっと学が取られたことがショックなんだろう。

「ここに、もういっこ。印つけていい?」
「しるし?」

凪の小さい手が俊くんのジャケットの生地を握れるくらいそばに身を寄せた。こんな公衆の面前で、なんだか少しだけ恥ずかしい。じっと見つめてくるその様子をおずおずと見つめ返すと、俊くんの指先が左手の薬指を擦る。

「益子、この場借りていいんだよな?」
「根回ししといたくせによく言うぜー、トリなんだから好きにしな。」
「え、まってなんのはなし…」

わけがわからなくて益子を見ると、親指を建てられた。食券はどうなるのか、もしや俊くんで優勝?きょときょとと周りを見ていると、俊くんの体がゆっくり離れた。

なにかをごくりと飲み込んだ音だけが耳に残る。
それは、誰だったのか。




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