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10話 突然のお誘い

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 食堂についた俺たちは適当に食事を頼んだ。

 査定結果が250万ゴールドだったのので俺がラウルにおごるよ、と申し出るとめちゃくちゃ喜んでいた。

 話を聞くと、彼らの冒険者料金のせいで貧乏生活を送っていたそうだ。



「それじゃ、お疲れ様~!」



「よっしゃー! ごちになります!」



 そして最初に運ばれてきたエール酒を片手に俺たちは乾杯をした。

 ラウルはぐびっ、ぐびっ、とエール酒を一気飲みした。



「ぷはぁ~っ! 痛めつけられた後の酒は美味いなぁ!」



「……それ本当に美味しいのか?」



「そりゃ痛めつけられてみないと分からないだろうな~!」



「うーむ、こればかりは共感したくないな」



 前世では怪我を負うことなんて日常茶飯事だったが、食べてた飯なんて大した味付けもされていないただ食えるだけのものが多かったからなぁ。



「ハッハッハ!」



「最初に会ったときよりも機嫌が良いな。あいつらの苦しんでる姿を見れたのがそんなに気持ち良かったのか?」



「へへっ、確かにそれもあるけどよ、俺が一番嬉しかったのはお前に友達って言われたことなんだぜ」



「おいおい、そんなこと言われたら照れるだろ」



「いやいや、こういうのはちゃんと相手に伝えておいた方が良いんだよ。俺の経験からするとな」



「なるほど……それは為になる」



 自分の気持ちを正直に相手に伝える、これは確かに大事なのかもしれない。







「……すみません、同席させてもらってもいいですか」



 抑揚のない声と共に俺たちの前に現れたのは、そう歳の変わらない女の子であった。

 水色の髪を肩ぐらいまで伸ばしており、目が大きくて吊り目。

 瞳の色は青色で髪の色と似てたような色をしていた。



「ど、同席⁉︎ き、君が⁉︎」



 ラウルは緊張気味なようで声が上擦っていた。



「いいんじゃないか? 何か話したいことがあるんだろう?」



 俺がそう言うと、彼女は驚いた表情をした後にコクリ、と頷いた。



「実は先ほどから貴方達……というよりも貴方を尾行させて貰っていた」



 そう言って彼女は俺を見た。



「ああ、気付いていたよ」



「……その事実に驚いている。気付いているような素振りも一切無かった」



「敵意は無かったようだから放っておいたんだ。それよりもラウルを助ける方が先決かなと思ってね」



「アルマァ……お前って奴はぁ……」



 ラウルは涙を浮かべた目を右腕で拭っていた。



「それで何で尾行していたの? 何か理由があるんだろう?」



 コクリ、と彼女は頷いた。

 そしてゆっくりと口を開いた。











「──私の領地に来てもらいたいの」











 まるで時が止まったようだった。









 ……この子、何を言っているんだ?



 そう思ったのは俺だけじゃ無かったようでラウルも同じようにポカーン、としていた。





「……待て、話が飛躍しすぎていないか?」



「だ、だよなぁ……」



「分かった。じゃあ順番に話す」



 そして彼女は今までの経緯を話し出した。



「私の名前はソニア。領地はファーミリア王国の辺境付近にある僻地で15歳になった私は王都にギフトを授かりに行った」



「ふむふむ」



「なるほどなるほど」



 俺とラウルは彼女の話を頷きながら聞いた。



「それで強力なギフトを授かった私は、貧しい我が家の為に出稼ぎにやってきた」



「親孝行者だなぁ」



「今時、中々いない良い子だな」



 彼女に対する俺とラウルの評価が少し上がった。



「地下迷宮があると聞いていたが、どこを探しても見当たらなかったので、私は領地開拓に使える人材を探すことに目的を変えた」



「「……地下迷宮?」」



 俺とラウルの声が重なった。

 地下迷宮とは、地下に何層もフロアがあり、魔物が自然発生する場所だ。

 地下迷宮は資源の宝庫とも呼ばれていて、その周辺には都市が形成される。

 つまり……だ。



「もしかして、訪れる都市を間違えたんじゃないか?」



「だよな。俺もそう思った」



 やはりラウルも同意見だったようだ。



「……都市を間違えた?」



 ソニアは首を傾げた。



「ここは商業都市で地下迷宮を目的にするなら、行くのは近隣にある迷宮都市だろう?」



「…………そ、そう」



 ソニアの表情にはあまり変化ないが、目が泳いでいる。

 若干分かりにくいけども動揺している様子だった。



「ハッハッハ、ソニアはドジなんだなぁ~」



「……そんなことはない。むしろ貴方達を見つけたという功績がある」



「しかし、どうして俺達を誘うんだ? 他に人はいっぱいいるだろう」



 俺はソニアを見つめて言った。



「それは貴方達が他の人よりも心が綺麗だったから」



「心が綺麗、ねぇ……怪しいなぁ。そんなことどうやったら分かるって言うんだ?」



 ラウルが言った。



「最初に驚いたのは貴方の行動」



「え、俺?」



 ラウルが自分に人差し指を向けると、ソニアはコクリ、と頷いた。



「ここのギルドの冒険者はあの時間に他人と必要以上に干渉しようとする者はいない。その中で貴方は見ず知らずの彼に話しかけられ、とても親切に対応していた。そこから私の尾行は始まった」



「……なるほど、みんな依頼を受けようと必死だからな」



 ラウルは腕を組み、納得した様子で頷いた。



「次に貴方は、初対面の人を助けようとする正義感の強さには目を疑った。それに能力もかなり高い。是非二人とも私の領地に来て欲しい」



 そう言って、ソニアはお辞儀をした。



 ……全く、急な展開だ。

 これが何かの物語だとすれば作者は三流もいいところだな。



 しかし、ファーミリア王国を目指していた俺にとって、ソニアの申し出は丁度いいものとも言える。





「──よし、決めたぞ」





 先に口を開いたのは、ラウルだった。





「アルマが行くって言うんなら俺も行くぜ!」





 ラウルの返事は俺にとって予想外のものだった。



「え、お前それでいいのか? ここで冒険者活動をしているんじゃ……」



「へへ、俺は何よりも友達を優先する主義なんでね。それにアルマはファーミリア王国を目指していたんだろ? 丁度いいと思ってな」



「お前……。でも、それだったらこの街の友達はどうするんだ?」



「ふ、そんなもんいねーよ」



 ラウルは笑顔でそう言った。

 ……お前、ぼっちだったのか。

 まさかこれだけ明るいラウルに友達がいなかったとは……。

 意外な共通点を見つけてしまった。



「──貴方はどうするの?」



 ソニアは俺を真剣な表情で見つめていた。



「そんなに不安そうにしなくても大丈夫だよ。行くよ、ソニアの領地」



 俺の返事を聞いたソニアは、ぱあっと表情を明るくした。



「よかった、嬉しい」



 その笑顔は犯罪的な可愛さを誇っていた。





 ……それにしても領地開拓か。



 もしかすると名を挙げるには絶好の機会かもしれない。







 よし、ちょっと本気で領地開拓に貢献してみようかな。
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