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 スティラート家のジュリアはマリアンヌの記憶でも意地の悪い人物だった。確か王子の婚約者にしろと王家に迫っているらしいが、こんなに品のない人間に何故育てたのだろう。王族に相応しい人物になるよう教育しなかったのだろうか。

「お父様」

 ジュリアはマリアンヌより3歳年上である。スティラート家ではジュリアを王子の婚約者にするよう王家に求めていたが、マリアンヌが生まれてしまい婚約者候補が増えてしまった。いくつかある公爵家の令嬢を婚約者にすることがこの国の習わしだったためである。ジュリアはいつもマリアンヌと比較される事になってしまった。それで意地悪になった、とマリアンヌは思っていたようだし私自身もそう考えていた。

 しかしマリアンヌや他の令嬢に対して意地悪なのは仕方がないにしても、国の一大事でたくさんの被害者を出したこの状態で他者を思いやる余裕や気持ちがないのは違うのではないか。それが私は許せなかった。

「お父様、エイアール家の方々をこちらにお呼びすることはできませんか」

 私はお父様に向かって言った。メアリが驚いたように顔を上げた。ベルナルト様もライアンも一様に私を見ている。

「困っている人を助けずにどうして公爵を名乗れますか。ご先祖さまに申し訳が立ちません!」

 言った後の雰囲気に私は思った。マズイ、また何かしでかした。部屋の空気の様子が明らかにおかしい。しかし言ってしまったことは仕方がない。私はなおも言葉を続けた。

「今我が家も人手不足です。セバスチャンもマーサもメアリも毎日休む事なく働いてくれています。このままだと3人は倒れてしまいます。エイアール家の使用人の方々に助けていただけたら、こちらも助かると思うのです」

 私の提案にセバスチャンは天を仰ぐ。マーサは崩れ落ち泣き出す。メアリは茫然自失となり、ぼんやりと視線を彷徨わせる。

「お嬢様、我々のことを・・・」
「私どものことなど心配くださらなくても」
「て、天使様、女神様・・・。お嬢様はどこまでお気持ちがお優しいのですか」
「うちの使用人に対して、助けて頂くなんてお言葉を賜れるなんて」

 使用人の3人プラスベルナルト様まで加わり、全員が泣き出した。もはや手がつけられない。私は恐る恐るお父様を見た。

「よく言った。マリアンヌ」
「兄様は感激したよ、リリン。さすが我が妹」
「お嬢様、今のお言葉、我が父にも知らせとうございます。思えば我が父もこちらでお仕えし、引退直後にマリアンヌ様ご誕生のお知らせをいただきました。旅立ってしまった父もマリアンヌ様のご成長を天から喜んでおりますでしょう」

 また茶番が始まりそうになる。

「し、しかし   よ、よろしいのですか?」

 ベルナルト様が遠慮がちに言うが、その声はかき消されてしまった。

「先々代の奥方様に孤児院を建設された方がいらっしゃいましたわ。きっとその方の血を引いておられるのでしょう」
「そもそもサーキス家様は代々慈善活動を基本に考える家系でございますわ。領民のために、というご精神でいらっしゃるのです。どちらかの公爵家様とは土台が違いますのよ」
「ではすぐに馬車を出しましょう」
「すぐにでも準備に取り掛かりませんと」

 全員が思い思いに話し出す。とにかく、私はすぐにでもキッチンに行きたい。早く全員持ち場につけ。

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