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第10話 昔の恋敵は今日の親友
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「恵玲奈?」
寮へ帰ろうとする恵玲奈に声をかけたのは、佐伯雪絵だった。彼女は恵玲奈や叶美とは中等部入学の頃からの親友で、叶美と同じく菊花寮に住んでいる。
高等部の桜花寮へ帰ろうとすると、菊花寮の前を通る。そこにたまたま居合わせた雪絵が、恵玲奈に駆け寄る。
「泣きそうな顔してどうしたのよ!?」
雪絵に手を引かれ部屋に招かれた。どうしても抗えなかった。誰にも会いたくないのに、誰かに会って全てを打ち明けたい、そんな思いを抱えたまま雪絵の部屋でぽつりと言葉をこぼす。
「雪絵、実は私……今ね」
恵玲奈はさっき起きたことをゆっくりだけど雪絵に伝え始めた。叶美相手でなければ、多少は話しやすく、美海からの告白、文化祭でもう一度伝えると言われ、心が少しだけ動いたこと、全てを伝えた。
「叶美のこと好きじゃなかったら受け入れていたんだろうね、私」
「取り敢えずこれ飲んで落ち着いたら?」
温かいほうじ茶を淹れた雪絵は、目を閉じて溜息をつく。
「ごめんね、雪絵には本当に……ごめんなさい」
「それはもう過ぎたことじゃない。確かに、叶美と付き合うのは恵玲奈だと思ってたわよ。私だって……叶美のこと、好きだし。その、今でも多少は、恋心があると言ってもいいわ」
恵玲奈と雪絵は親友であり、叶美をめぐる恋敵でもあった。だが、それも今となっては過去の話。恵玲奈が足踏みしている間に、二人の後輩が叶美と結ばれたのだから。それについては互いに納得しているし、付き合い始める前はどちらが叶美と結ばれるのか、応援していたくらいなのだから。
「やっぱり私たち付き合う?」
「そうね……うん。恵玲奈、好きよ。あなたの明るさ、優しさに何度も救われたわ。どうして私がポニーテールにしているか知ってる? あなたの真似よ」
少し低い位置に結ったポニーテールをアピールしながら、雪絵はそう告げた。その内容に恵玲奈は動揺し、視線をさまよわせる。一日に二人から告白されるなんて、自分はどうしたらいいのかと、狼狽える恵玲奈は何かを言おうとして、言葉を詰まらせる。
「ほ、本気?」
ようやく口をついたのは、情けないほど震えた言葉だった。そんな姿に雪絵は微笑んで答えた。
「本気なわけないでしょ」
「……へ?」
一気に弛緩する恵玲奈に、雪絵はなおも言葉をかける。
「私と……その後輩さん、どちらの告白に心が動いたかしら?」
「そりゃ……なるほど、須川さんかな。今更雪絵と付き合うなんて、考えられないし」
「そうね。私もよ。いいんじゃない、告白されたから付き合うって。告白された側の特権みたいなものよ?」
それでいいのかと悩む恵玲奈に、雪絵はなんだかなぁと肩をすくめる。より悩ませてしまっただろうかと反省もするが、なんとか背中を押してあげたいという気持ちも本心だ。
「あのね、恵玲奈。さっき言ったこと、恵玲奈の優しさとか明るさに、救われたなんてのは大げさかもしれないけど、恵玲奈と仲良くなれて良かったなっていうのは本心よ。だから、そうね、悩んで暗ぼったい恵玲奈なんて、らしくないわよ」
「むぅ……ちなみに、ポニテの理由は?」
「そりゃあ、絵を描くときに邪魔にならないからよ」
「なるほど。うーん、もう少し考えてみるよ」
ほうじ茶を飲み干した恵玲奈が立ち上がる。その表情は晴れ晴れとはいかないが、少し落ち着いた様子だった。
「後悔のないようにね」
「難しいこと言ってくれるじゃん」
恵玲奈が去り一人になった自室で雪絵はぽつりと呟いた。
「私にとっての運命の出会いは、いったいいつになるのかしら」
寮へ帰ろうとする恵玲奈に声をかけたのは、佐伯雪絵だった。彼女は恵玲奈や叶美とは中等部入学の頃からの親友で、叶美と同じく菊花寮に住んでいる。
高等部の桜花寮へ帰ろうとすると、菊花寮の前を通る。そこにたまたま居合わせた雪絵が、恵玲奈に駆け寄る。
「泣きそうな顔してどうしたのよ!?」
雪絵に手を引かれ部屋に招かれた。どうしても抗えなかった。誰にも会いたくないのに、誰かに会って全てを打ち明けたい、そんな思いを抱えたまま雪絵の部屋でぽつりと言葉をこぼす。
「雪絵、実は私……今ね」
恵玲奈はさっき起きたことをゆっくりだけど雪絵に伝え始めた。叶美相手でなければ、多少は話しやすく、美海からの告白、文化祭でもう一度伝えると言われ、心が少しだけ動いたこと、全てを伝えた。
「叶美のこと好きじゃなかったら受け入れていたんだろうね、私」
「取り敢えずこれ飲んで落ち着いたら?」
温かいほうじ茶を淹れた雪絵は、目を閉じて溜息をつく。
「ごめんね、雪絵には本当に……ごめんなさい」
「それはもう過ぎたことじゃない。確かに、叶美と付き合うのは恵玲奈だと思ってたわよ。私だって……叶美のこと、好きだし。その、今でも多少は、恋心があると言ってもいいわ」
恵玲奈と雪絵は親友であり、叶美をめぐる恋敵でもあった。だが、それも今となっては過去の話。恵玲奈が足踏みしている間に、二人の後輩が叶美と結ばれたのだから。それについては互いに納得しているし、付き合い始める前はどちらが叶美と結ばれるのか、応援していたくらいなのだから。
「やっぱり私たち付き合う?」
「そうね……うん。恵玲奈、好きよ。あなたの明るさ、優しさに何度も救われたわ。どうして私がポニーテールにしているか知ってる? あなたの真似よ」
少し低い位置に結ったポニーテールをアピールしながら、雪絵はそう告げた。その内容に恵玲奈は動揺し、視線をさまよわせる。一日に二人から告白されるなんて、自分はどうしたらいいのかと、狼狽える恵玲奈は何かを言おうとして、言葉を詰まらせる。
「ほ、本気?」
ようやく口をついたのは、情けないほど震えた言葉だった。そんな姿に雪絵は微笑んで答えた。
「本気なわけないでしょ」
「……へ?」
一気に弛緩する恵玲奈に、雪絵はなおも言葉をかける。
「私と……その後輩さん、どちらの告白に心が動いたかしら?」
「そりゃ……なるほど、須川さんかな。今更雪絵と付き合うなんて、考えられないし」
「そうね。私もよ。いいんじゃない、告白されたから付き合うって。告白された側の特権みたいなものよ?」
それでいいのかと悩む恵玲奈に、雪絵はなんだかなぁと肩をすくめる。より悩ませてしまっただろうかと反省もするが、なんとか背中を押してあげたいという気持ちも本心だ。
「あのね、恵玲奈。さっき言ったこと、恵玲奈の優しさとか明るさに、救われたなんてのは大げさかもしれないけど、恵玲奈と仲良くなれて良かったなっていうのは本心よ。だから、そうね、悩んで暗ぼったい恵玲奈なんて、らしくないわよ」
「むぅ……ちなみに、ポニテの理由は?」
「そりゃあ、絵を描くときに邪魔にならないからよ」
「なるほど。うーん、もう少し考えてみるよ」
ほうじ茶を飲み干した恵玲奈が立ち上がる。その表情は晴れ晴れとはいかないが、少し落ち着いた様子だった。
「後悔のないようにね」
「難しいこと言ってくれるじゃん」
恵玲奈が去り一人になった自室で雪絵はぽつりと呟いた。
「私にとっての運命の出会いは、いったいいつになるのかしら」
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