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第一部

王家御用達

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 国王夫妻のためにジュースを作ってから五日後。
「――まさか、こんなことになるなんて、人生って何が起きるか本当にわからない……」

 薬学準備室のテーブルの上に置かれた契約書を読みながらメイリアはうめき声を漏らす。

 視線の先の契約書には『王家御用達ジュース独占販売権』と記されている。

 なんと、メイリアの特製ジュースが国王夫妻に気に入られ、王家御用達の品になったのだ。

 この契約書にサインをすれば、多額の契約金と定期的な収入が今後メイリアの元に入ってくることになる。

「もし条件に不満があれば君の言うとおりにするから遠慮せずに言ってくれ」

「まさか! 現時点でも破格の条件ですよコレ! ベルーセ家を三回再建したってお釣りがきます! 父の治療費だって、もうなんの心配もなくなる……っ」

「それなら良かった」

「本当に、ありがとうございますアルヴィオ様。もうすぐ卒業しちゃうけど、私アルヴィオ様と出会えたことがこの学園での一番の思い出です」

 涙ぐみながらメイリアが言うと、アルヴィオがその小さな手を両手で包む。

「それは俺も同じ気持ちだメイリア。……本当に、君ともっと早く出会えていたらと、何度思ったことか」

「アルヴィオ様も?」

「ああ。メイリアに出会うまで、兄と同じように完璧でいなければと、俺はいつも気を張りつめていたんだ」

 メイリアの手を包むアルヴィオの手は大きくて熱い。
 ギュッと力を込められると、胸がキュンと切なくなる。

 この気持ちはなんだろう?

「けれど、君と出会ったあの日。君は俺に『失敗など人間いくらでもする。大事なのはそのあと如何に挽回するか』だと言ってくれた。あのときから、俺はメイリアといると楽に息ができるんだ。心から安らげる」

「アルヴィオ様、もしかしてそれって……」

「――あぁ。そう受け取ってくれてかまわない」

「嬉しいですアルヴィオ様。それって私たちがマブダチ……親友ってことですよね!」

 メイリア・ベルーセ。
 学園での青春時代を勉学と労働に注ぎ込んだ少女は、色恋に関してどうしようもなく鈍かった。

 メイリアが弾んだ声で言った瞬間、アルヴィオがガンッ! とテーブルに突っ伏す。
 彼の頭がぶつかったのか、なんだかとても痛そうで派手な音がした。

「ええええ?! アルヴィオ様、大丈夫ですか?!」

「すまない、ちょっとあまりの話のすれ違いに目眩が」

「えっ、すれ違ってないです! 私もアルヴィオ様のことを一番の友人だと思ってますよ⁈」

「そういう鈍いところも可愛いと思ってしまう俺は末期なんだろうな……現時点で一番なら……いや、しかし……」

 アルヴィオは何やらワケのわからないことをブツブツと呟きながら遠い目をしている。

「……気を取り直して、ジュースのお礼として、君に卒業パーティーで着るドレスを贈りたいと思っているんだが、良いだろうか?」

「えっでも悪いですよ!」

「俺たちの友情の証でもあるんだ。是非受け取って欲しい」

「友情の証……そういうことなら……」

「やはりメイリアには恋愛面よりも友情から攻めたほうが良さそうだな……」

「アルヴィオ様、何かおっしゃいました?」

「気にしないでくれ。ドレスの色を決めるために、瞳の色を見せてもらっても?」

「はい。私の瞳はこんな感じの色です」

 色がわかりやすいよう、メイリアは瞳を覆っていた前髪を両手で上げる。
 その途端、メイリアの素顔を見たアルヴィオの動きが止まった。
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