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第一王子

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「それはフェオードルの兄、私の一人目の息子が原因なの」

「フェオードルのお兄さん……ってつまり第一王子様ですよね」

 その人は確か、絵麻がウィンセント王国に召喚された時にその場にいた男たちが嘲笑っていた相手ではないだろうか。

 ――アノ『出来損ない王子』のせいで
 ――魔法をコントロールできないばかりか、自らの魔力に喰われる脆弱な肉体しか持たず
 ――ベッドの中で寝込んでばかり
 ――ここ数年はろくに公務にも出でいないじゃないか

 そんな男たちの言葉と共に、体が弱いという相手を馬鹿にする下卑た表情を思い出し気分が悪くなる。

(本人の努力で変えられない身体的なことを嗤うのって、小学生にでもわかるくらい失礼なことですけど……?!)

「そう、私の長男。この国の第一王子でアシュレイという名前なの。もうすぐ21歳になるわ。フェオードルとは2歳違いね」

「お兄さん、体が弱いんですよね……?」

「ええ。アシュレイは生まれつきとても強い魔力を持っていてね。……でもそれが逆にあの子を苦しめてるの。強すぎる魔力に肉体がついていかないのよ。外を駆け回ることもできずに、幼い頃から我慢をさせてしまっている」

 魔力を持たないことが当たり前の絵麻には想像もつかないが、魔力が強すぎるのもまた、この世界では大変なことらしい。
 魔力に肉体がついていかないというのは、どんな感覚なのだろうか。

「お医者さんには? 王子様なら、なんかすごい有名なお医者さんがついてくれたりしないんですか?」

「この国の最高位の魔法医師の治癒魔法すら効かなかったわ。あの子、アシュレイの魔力の方が強過ぎて他者からの魔法の干渉を受けないの」

「魔法が駄目でも、ほら、薬の方は効くとか」

 薬。と言った絵麻に、エメリアーノが不思議そうに瞳を瞬かせる。

「ちょっとした眠気覚ましや、擦り傷に貼るような薬はあるけれど、アシュレイのような症例に効く薬は存在しないわ。そもそも、治癒魔法があればなんでも治せてしまうのだから薬なんて必要ないでしょう? この国で治癒魔法の干渉を受けないのはアシュレイだけだもの」

「えぇ?! 解熱剤とか胃薬とかは?! 風邪ひいたり骨折とかした時は?!」

「全て治癒魔法で治るものよ」

 花壇への水やりの話を聞いて、日常の様々なことに魔法の浸透している国だとは思っていたが、まさかこれほどまでに魔法に頼っているとは。
 しかも、王子様という国にとって大事な存在が苦しんでいても、魔法で治らないからと諦めてしまうなんて。

(なんかそれって、諦めるの早くない……?!)

 絵麻の母方の祖母も病院と薬嫌いの人だったが、そのぶん自身の健康に気を使い、丁寧な食生活や毎日のウォーキングを心がけている人だった。
 この国の人たちは、魔法以外でもアシュレイの健康をどうにかしようと努力しないのだろうか?

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