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閉ざされた扉
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「ここがアシュレイ王子の住んでる離宮かぁ」
青々とした……を通り越し、鬱蒼とした緑の中。
王宮から離れた場所に、木々に囲まれて建つ白亜の宮殿。
そこがこの国の第一王子、アシュレイ=ウィンセントが暮らしている離宮だった。
「映画で見たお城みたいって言うか、美術館みたいって言うか」
フェオードルに召喚された当日こそ神殿の中にいたが、その後すぐに追い出され、使用人たちの暮らす区域に狭い部屋を与えられた絵麻にとっては、目の前の建物は人が住んでいる場所というより何かの公共施設と言われた方がしっくり来る。
それほどまでに大きく広いこの城の中には衛兵も執事もメイドもいない。アシュレイが自分の魔力の暴走を恐れ、巻き込まないように人を遠ざけているからだ。
「ウィンセント王国って魔法のバリアか何かでずっと春みたいな気候に保たれてるんだよね? なのに人がいないと寒く感じる……。空気が冷えてるみたい」
シンっとした廊下は豪華な調度品が飾られているが、どこか寂しげで薄暗い雰囲気を漂わせている。
「――そしてアシュレイ王子の私室に到着っと。あなたたち案内してくれてありがとう。エメリアーノ様にもありがとうって伝えてね」
光の粒を振り撒きながら飛ぶ七色の蝶。
その幻視の蝶は、絵麻を案内するためにエメリアーノが呼び出した魔法の蝶だ。
まるで絵麻の言葉に応えるかのようにひらひらと舞い、王宮の方へと帰って行く。
「すみませーんアシュレイさーん! 私、絵麻って言いますー! つい先日まで、地球の日本って国で女子高生やってましたー! アシュレイさんは二十歳なんですよね? 私18歳だから歳も近いし、話が合うんじゃないかなーって。もし良かったらお話ししませんかー? 日本の、私の住んでた国の健康法ならアシュレイさんの体質に合うのもあるかもしれないし! 私、動画でバズるのが趣味だったから、JKのわりに授業で教わる以外のジャンルにも詳しいんですよ~。あ、卒業したから正確にはもうJKではないんですけど!」
蔦に似た模様の彫られた重厚な扉をノックし、そう声をかけるが、中からは何の反応もない。
「もしもーし! あ、もしかして寝ちゃってたり? じゃあまた後でもう一回来ますねー!」
アシュレイはあまりに強すぎる魔力に肉体がついていかず、寝込みがちだという。もしかしたら陽の高いうちでも、眠ってしまっているのかもしれない。
「畑のお世話とカーサさんのお手伝いしてからまた来ようっと」
――しかし。カーサの手伝いが終わった後でもその後でも。更には翌日の朝でも昼でも夜でも。
扉の向こうのアシュレイから反応が返ってくることはなかった。
「アシュレイさーん! おはようございます、を通り越してこんにちはー!」
「カーサさんに教わってケーキ焼いてみたんですけど食べてみませんかー?」
「あ、今すごい綺麗な鳥が飛んでた!」
「おーい、お母さん心配してましたよー!」
「少しでも良いから開けてくれませんかーっ?」
「雪だるまを作る雪はないけどドアを開けてー?!」
あの手この手で。
扉の向こうにいるはずのアシュレイの反応を引き出そうとするが、扉が開くどころかアシュレイの声を聞くことすらできない。
そして三日目。元来、気の長い方でない絵麻はキレた。
青々とした……を通り越し、鬱蒼とした緑の中。
王宮から離れた場所に、木々に囲まれて建つ白亜の宮殿。
そこがこの国の第一王子、アシュレイ=ウィンセントが暮らしている離宮だった。
「映画で見たお城みたいって言うか、美術館みたいって言うか」
フェオードルに召喚された当日こそ神殿の中にいたが、その後すぐに追い出され、使用人たちの暮らす区域に狭い部屋を与えられた絵麻にとっては、目の前の建物は人が住んでいる場所というより何かの公共施設と言われた方がしっくり来る。
それほどまでに大きく広いこの城の中には衛兵も執事もメイドもいない。アシュレイが自分の魔力の暴走を恐れ、巻き込まないように人を遠ざけているからだ。
「ウィンセント王国って魔法のバリアか何かでずっと春みたいな気候に保たれてるんだよね? なのに人がいないと寒く感じる……。空気が冷えてるみたい」
シンっとした廊下は豪華な調度品が飾られているが、どこか寂しげで薄暗い雰囲気を漂わせている。
「――そしてアシュレイ王子の私室に到着っと。あなたたち案内してくれてありがとう。エメリアーノ様にもありがとうって伝えてね」
光の粒を振り撒きながら飛ぶ七色の蝶。
その幻視の蝶は、絵麻を案内するためにエメリアーノが呼び出した魔法の蝶だ。
まるで絵麻の言葉に応えるかのようにひらひらと舞い、王宮の方へと帰って行く。
「すみませーんアシュレイさーん! 私、絵麻って言いますー! つい先日まで、地球の日本って国で女子高生やってましたー! アシュレイさんは二十歳なんですよね? 私18歳だから歳も近いし、話が合うんじゃないかなーって。もし良かったらお話ししませんかー? 日本の、私の住んでた国の健康法ならアシュレイさんの体質に合うのもあるかもしれないし! 私、動画でバズるのが趣味だったから、JKのわりに授業で教わる以外のジャンルにも詳しいんですよ~。あ、卒業したから正確にはもうJKではないんですけど!」
蔦に似た模様の彫られた重厚な扉をノックし、そう声をかけるが、中からは何の反応もない。
「もしもーし! あ、もしかして寝ちゃってたり? じゃあまた後でもう一回来ますねー!」
アシュレイはあまりに強すぎる魔力に肉体がついていかず、寝込みがちだという。もしかしたら陽の高いうちでも、眠ってしまっているのかもしれない。
「畑のお世話とカーサさんのお手伝いしてからまた来ようっと」
――しかし。カーサの手伝いが終わった後でもその後でも。更には翌日の朝でも昼でも夜でも。
扉の向こうのアシュレイから反応が返ってくることはなかった。
「アシュレイさーん! おはようございます、を通り越してこんにちはー!」
「カーサさんに教わってケーキ焼いてみたんですけど食べてみませんかー?」
「あ、今すごい綺麗な鳥が飛んでた!」
「おーい、お母さん心配してましたよー!」
「少しでも良いから開けてくれませんかーっ?」
「雪だるまを作る雪はないけどドアを開けてー?!」
あの手この手で。
扉の向こうにいるはずのアシュレイの反応を引き出そうとするが、扉が開くどころかアシュレイの声を聞くことすらできない。
そして三日目。元来、気の長い方でない絵麻はキレた。
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とても面白く一気読みしてしまいました!
更新楽しみにしております♡