君に取り憑くラブ・ゴースト -黒髪男子に“幽霊さん”と間違われました-

りぃ

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【完】幽霊さんは恋をする -智生の話-

第15話:恋する俺にできること

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(って言ったはいいけど、どうする……)

 その日の帰り道。
 慣れに任せてかろうじて家へと足を動かしているが、俺の頭の中は夕木のことでいっぱいだった。
「今日は帰る」と言った夕木を見送ってからずっと、さっき知った情報で頭がパンクしそうになっている。

 夕木に無理に文化祭で幽霊役をしなくていい、と言うことはできた。
 でも、それって根本的な解決じゃない。

(もうこれ以上夕木を傷つけたくない)

 この気持ちはもう揺るがない。
 ただ、自分が思うよりずっと夕木の現実は残酷だった。
 一体どうしたらいい。
 考えすぎて頭が熱を持っている気すらする。

(というか、絶対俺が幽霊じゃないってバレたよな)

 思わず夕木を抱きしめてしまっただけでなく、勢いで撫でたりもしてしまった。
 夕木は最後まで何も言わなかったけど、少し動揺していた気もした。
 どう考えても実体のある普通の人間だってバレているに違いない。

(夕木は、俺が“いい幽霊”だったから拠り所にしていてくれたのに)

 夕木の“幽霊さん”でなくなった俺に何ができる?
 じわじわと無力感が込み上げてきて震える。
「結局何にもなれない」と過去の俺の声が頭のどこかでする。

(でも)

 前に、田口が“好き”が俺を作っている、って教えてくれた。
 何にもなれないんじゃない。もう何かになっている。……そうなのだとしたら。

(今の俺は、夕木への好きで出来ている)

 ……なんて。ちょっと……いや、だいぶ恥ずいけど。
 秋めいてきた夜風が火照った頬にちょうどいい。

(何はともあれ、俺が“幽霊さん”なんかじゃないって、いつかは絶対バレたことだ)

 むしろ今まで追及されなかったことのほうが奇跡みたいなもんだ。
 俺は頭を振って思考を切り替える。
 どうしたら夕木がこれ以上泣かずに済むか――

 考え込みながら黙々と足を動かす。
 風が家の近くの橋を渡っていると。
 ふと、ポケットに入れたスマホが通知音を鳴らした。

「……金本?」

 そういえば、夕木に会う前に話したきりだった。
 すっかり忘れていたことを反省して、すぐに金本からのメッセージを開く。

『進捗!
 どう説明すればいいかわかんなくて「智生が優勝したいって燃えてた」って伝えたらめっちゃ盛り上がった!
 クラスみんなやる気! これならいける!!
 打倒B組! いや! 優勝!!!』

「や、どういうことだよ……」

 金本らしい勢いのあるメッセージに吹き出してしまう。
 少し気持ちが緩んで、俺は笑いながら返信した。

『優勝までは狙ってなかったんですけど』
『でも智生が燃えてたのはほんとじゃん』

「それはそうだけど」

 クラスの奴らに一体俺はどうしたんだって思われなかっただろうか。

(ま、思われたからこそ盛り上がったんだろうけど)

 まあ、B組だけを標的にして、夕木の置かれてる現状がうちのクラスにまで伝わって大ごとになるのは本意じゃないし。
 これは金本なりの気遣いだとわかるから、まあ許すとする。

『俺たちだけじゃどうもできないかもだけど、クラスみんなでやったら優勝だって夢じゃないし!』

 どうやら金本は熱血スイッチが入ったらしく、やたらグイグイくる。
 普段ならうっとおしい勢いも、今の俺にはありがたかった。

『まあ焚きつけてくれてありがとな』
『いいよ!』
『軽』
『そんでさっそく作業増えた! 智生がやること☆ついてる! ノルマね!』

 添付された画像を見て俺は目を丸くする。

「え、重」

 思った数倍、クラスは盛り上がったらしい。
 作業が明らかに増えていて驚く。

(……よし、やるか)

 こんなの僅かかもしれない。
 でも、何かできるなら全部やりたい。
 いくら”あのやる気のなかったはずの智生が”と不思議がられても、面白がられても構わなかった。
 金本からの連絡はさっきの俺の無力感を完全に拭い去ってくれた。
 ノルマでもなんでもこなしてやる。

(でもまだ足りない……)

 まだできることがあるはずだ。
 そう思うとまた考え込んでしまう。

(俺がもし大人だったら、夕木を連れて夕木を傷つかないところに連れ去るのに)

 今、夕木の親や夕木のまわりの大人はむしろ敵だ。
 俺は一介の高校生でしかなく、できることには限りがあるのが悔しい。
 そう、もどかしく俯いた時だった。

(大人……)

 閃くものがあった。

(……田口に相談してみようか)

 そうだ、さっき金本も言っていた。
 俺だけじゃどうすることもできなくても、誰かがいればできることは増えるかもしれない。
 夕木のことを勝手に話していいのか。正解とは限らないかもしれない。
 でも、少しでも夕木が助かるなら俺はそれに縋りたかった。

 俺の周りで1番信用できて頼りになる大人といえば田口だった。
 俺のこともずっと気にかけてまっすぐ見ていてくれた人。

(明日、すぐ相談しよう)

 そうと決めたら、少し胸が軽くなる。
 俺はたくさんの“やること”と戦うためにダッシュで家に帰った。

 ◆

 次の日、俺は早速田口に相談しに行った。
 最初にまずはここだけの話にしてほしいことを約束してもらい、俺は昨日聞いたすべてを説明した。

「そうか……」

 話を聞きながら田口は顔がどんどん険しくなり、最後のほうは考え込むように腕を組んでいた。
 俺は藁にもすがるような心地でさらに言い募る。

「俺一人じゃどうしようもできないことはわかってる。でも……」

 田口はしばらく黙り込み、深く息を吐いた。

「俺たち教師がもっと早く気づくべきだったな……」
「……」
「前に教員たちの間でも話題に上がったことはあったんだ」
「……あまりクラスになじんでなさそう、みたいな?」
「いや。主には親御さんの話だな。三者面談であまりにも興味がなさそうだって。ただあのときは“放任主義なのかも”ってくらいの話でとどまっていたが……」

 そう言って眉間にしわを寄せる。

「……とにかくわかった。クラスの状況だけでも夕木の担任の耳に入れておいてもいいか?」
「うん……お願いします」

 俺は頭を下げる。
 しかし田口は言いづらそうに口を開いた。

「……ただ、どうしても『怖がられている』だけだとやれることが限られてくる」
「っ、どうにかならない?」
「どうにかしたいことはやまやまなんだが……長期戦になってしまうだろう。それにクラスはともかく、家庭には立ち入りづらいのが現実だ。授業や学校生活の範囲でしか、俺たちは守れない」

 田口の声には悔しさがにじんでいた。
 もどかしいが田口なりに誠心誠意考えてくれていることはわかるので俺も一緒になって考える。

「……せめて、夕木自身が声を上げてくれるともう少しどうにかなりそうなんだが」
「んー……夕木、自分が幽霊扱いされることは当然だって思ってたから……」
「……やるせないな」

 田口は頭を振る。
 俺も昨日の悔しさが再び顔をもたげてきて、唇を噛む。
 すると、田口はふいに俺のことをまっすぐ見つめた。

「でも、夕木の考えを変えることはできるんじゃないか?」
「え……」

 田口が真剣に言葉を紡ぐ。

「俺たち教師も夕木をサポートする。でもな、夕木が今一番心を開いているのはおそらく香住、お前だ」
「でも……」
「夕木のいいところを一番わかってるのはお前だろう」

 田口の目が優しく弧を描いている。

(そうだ、田口にはあの絵を見られているんだった……)

 恥ずかしくなってくるが、しかし、同時に納得もする。

「うん……俺は、夕木が幽霊みたいに不気味なやつじゃないってわかってる」

 不器用に笑うあの顔。
 猫について目をきらきらさせて話すところ。
 幽霊とかが怖いくせに、ただ『怖い』と遠ざけたくないと言った。

(この夏に俺は夕木のいろんなところを見た)

 花火を見てはしゃいでた。
 俺のあげた猫のお面を大事に抱きしめて、うれしそうに笑ってた。
 泣いてた顔、照れてた顔、拗ねた顔。
 今、俺だけが知っている夕木の姿。

(全部全部、大好きだ)

 この気持ちは揺らぎようがない。
 俺が田口をまっすぐ見返すと、田口はさらに優しくこう言った。

「お前が見ている夕木のいいところを、夕木にわかってもらえばいいんじゃないか?」
「――……」

 その瞬間、俺の頭にひらめくものがあった。

「先生、ちょっと頼みがあるんだけど」
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