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【完】幽霊さんは恋をする -智生の話-
第17話:もしもし俺の大好きな人
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■第17話:もしもし俺の大好きな人
夕木を連れ出して廊下を駆け抜けて。
向かった先は、俺たちのいつものとっておきの場所。
旧美術室に駆け込んで、俺たちはやっと二人きりになった。
文化祭前日の校舎はどこも全体的にせわしなくにぎわっていたけど、この部屋はいつもと同じように静かだ。
まるで世界に置き去りにされたみたいな空間。
でも、夕木と二人でいられるここはやっぱり俺にとって特別な場所だった。
夕木が肩で息をしている。
「も、階段、駆け上がるの、きつかった……」
俺がそんなに息を乱していないのを見てか、照れたようにそう言う。
(かわいい)
今日もずっと新鮮にかわいくて、俺はとろけてしまう。
俺だってそう体力自慢とかじゃないけど、夕木を連れて走っているというだけで、普段と違うアドレナリンが出てた。
今、俺は無敵な気分だった。
「ごめんね、走らせて」
「う、ううん……あそこにいるのは、恥ずかしかったから……」
思い出したのかさらに赤くなり俯く夕木。
俺がほっぺをつついてしまうと、夕木がぱっと顔を上げた。
(目、きらきら……)
もう涙は見えない。でも、さっき泣いたからか、どこか潤んでいて綺麗だった。
「な、なに!?」
「ははは、そんなびっくりする?」
「す、する……した」
「そっか。ごめんな。……俺さっきから謝ることがありすぎるな」
「え?」
夕木が目を瞬く。
そして俺の謝罪の数々を反芻してか、次第に困ったように眉が下がった。
「幽霊じゃなかったこと、勝手に夕木を絵に描いたこと、泣かしちゃったこと……」
「……」
「本当にごめん」
列挙しながら、俺は本当に申し訳なくなってくる。
思えば、俺は夕木のことが好きなあまりに、暴走気味かもしれない。
絵に描く以外にも、抱きしめちゃったりほっぺを触ってしまったり。
そこそこやりたい放題かも。
そう思うと、ちょっと焦ってくる。
「そ、その……ほっぺ触っちゃったりとかも。嫌だなってことがあったら、ほんと、容赦なく言って」
夕木に嫌われたくない。
その一心で顔を覗き込んだのに、夕木は目の前ではにかんだ。
「び、びっくりしただけ。嫌じゃない……」
「……ほんと? 調子に乗るよ?」
「……? はは、調子に乗っちゃうの?」
俺の言葉を繰り返す夕木は天使に見える。
こんなことで俺は簡単に舞い上がってしまう。
うれしい。かわいい。大好きだ。
そう思ったら、もう俺は止まらなかった。
「うん、夕木のことが好きだから調子に乗っちゃう」
「えー……」
「いや?」
「ん、ううん……?」
照れるのもかわいい。
でもいまいち伝わっている気がしない。
(いや、好きだってことは伝わっている気がするんだけど)
俺が夕木のことを大切にしていることもわかってくれていると思う。
でも、それがどういう種類の好意かが伝わっていない。
(伝える? 伝えない……? でも……)
少し悩む。
が、目の前でかわいいを更新していく夕木を見ていると、ひとり占めしたいとか、この先もずっとそばにいていい理由が欲しいとか、そういう欲求が湧いてきてしまう。
だから。
俺は少し息を吸って、夕木の手をそっと握り直した。
「……夕木、好きだよ」
俺のトーンが変わったからか、夕木も息を止めた。
俺を目を丸くして見つめている。
「……人としても、もちろん。でも俺は……」
もう一度息を吸うと覚悟を決める。
「ぎゅってしたいな、とか。手をつなぎたいな、とか。……夕木の一番になりたいな、とか」
「ぁ……」
「彼氏になりたいなって、思う。そういう、好き」
夕木が一気に赤くなって、視線をうろうろさせる。
そうだよな、急だよな。ごめんな。
そう心の中では思うのに、俺は止まれない。
混乱している夕木が小さく口を開く。
「でも、俺……男で、いや……せ、性別はどうでもいいんだけど、その……こんな、いいとこなんかない……」
「夕木はいいとこ尽くしだよ」
「えっ、でも」
「さっき言わなかった? 夕木の笑顔はきらきらしてる」
勢いづいた俺はそのまま夕木の手を強く握った。
「ちょっと抜けてるところもかわいい」
「か、かわ……」
「どんなにひどいことされても、それでも人の気持ちのことを一生懸命考えてる優しい人」
「あ、わ……」
「花火にも猫にも、それから俺にも……たくさん素直な感情を見せてくれて。とってもとっても素敵な人だよ」
素敵、なんて、人生で初めて口にしたけれど。
夕木を褒めるためなら、いくらでも照れることを言えそうだった。
「それに……」
「も、もう! いい、いいよ、わかったよ」
焦った夕木に繋いでいない方の手で口をふさがれる。
そのしぐさもかわいい。
なんて、本当に恋に浮かれた頭はだいぶ馬鹿な感想ばかりを出力する。
(でも、きっと。伝わったな……)
夕木がどういう風に思うかはわからない。
夕木の過去のことを思えば、言わないほうがよかったかもしれない。
でも、伝えたかった。
(夕木の返事がどうであれ……俺は言えてよかった)
再びきゅっと夕木の手を握ると、夕木はそっと俺に視線を合わせた。
「……そ、その……俺、れ、恋愛とかちょっと、わ、わからなくて」
「……うん」
「おんなじ気持ちなのか、とか期待に応えられるか、とかその……わかんない」
夕木は見る見るうちにしょぼしょぼとしおれてしまった。
(そうだよな、突然だもんな)
「……びっくり、したよな?」
「うっ、……うん」
「そうだよな。ごめん。……俺も、夕木に嫌われたかなって心臓バクバクしてる」
「え」
夕木がびっくりして俺を見つめる。
冗談抜きに、さっきから俺の心臓は忙しい。
走ったときよりもずっとドキドキして、緊張している。
自分で言ったくせにそれがバレるのは恥ずかしくて苦笑すると、夕木が慌てて口を開いた。
「きっ! 嫌いになんてなってない! ならない、ならないよ、絶対」
「え……?」
「ゆうれ、っ、あ、あなたのこと、嫌いになるなんてない。れ、恋愛のことはわからなくても、でも今までで一番! 大切な人だから」
そう言ってじっとすがるように見つめてくるから。
「もー……そんなこと言っちゃだめ」
俺が赤くなってしまう。
分かってる、夕木のは恋とかじゃなく純粋な好意だ。
そんなのは百も承知で、でも、俺はやっぱり恋で馬鹿になってるから。
「調子に乗っちゃうよって、言っただろ」
「で、でも……」
「夕木が困ってるな、ってわかってるのに、好きなのやめられない」
そう言えば、夕木がまた赤くなる。
そのほっぺにそっと手を添えた。
「ごめんね」
「……う、ううん」
そう言って、夕木は俺をうるうるの目で見つめた。
どうしよう、と書いてあるような表情に笑ってしまう。
好きだ。どうしようもなく。
(絶対、諦められない……絶対、離してあげられない)
そう思ったら再び勢いがつく。
「じゃあ……人間同士の友達から。まずはそこからならいい?」
「え……?」
「今まで、幽霊さんと夕木、だったでしょ? そうじゃなくて、生きてる者同士として……」
言いながら、笑ってしまう。
生きてる者同士ってなんだ。
でも、俺も、そして夕木も“幽霊なんかじゃない”。
それが伝わるようにしっかり目を合わせた。
「幽霊みたいに、じゃなくて。普通の同級生同士みたいに、いろんなところでいっぱい話して遊んで時間を過ごしてほしい」
夕木が目を丸くしている。
「それじゃあ……」
「うん。恋は諦められないけど、でもそれでいい」
「でも……」
「まずは、俺のことを知ってもらわないといけないし。夕木に釣り合う男になれるようにならないとだしな」
不思議と希望が湧いてくる。
俺は爽やかな心地で夕木に笑いかけた。
「それで、もし俺が自分に自信が持てたら。また『彼氏にしてくれませんか』って告白するから」
「……!」
「だから……こんな風にお前のことを好きなままの俺でよかったら。まずはお友達から。どう……?」
まだまだ伝え足りない想いを視線に乗せて、夕木をまっすぐ見つめれば。
真っ赤になった夕木が少し視線をうろうろさせたのち、こくん、とうなずいた。
「……お、俺でよければ」
「ほんと?」
安堵と喜びが広がる。
夕木のことを好きなままでいい。
夕木のそばにいていい。
それが嘘みたいにうれしかった。
「ありがとう、夕木」
「ううん、こちらこそ……ありがとう、ゆうれ、あ」
慣れた呼び方が口をついてしまったからだろう。
夕木が照れくさそうにはにかむ。
「はは、じゃあ手始めに、また……自己紹介から」
俺は優しく夕木の手を握手するみたいに握り直して、口を開いた。
「俺は、香住智生。夕木と同じ高校二年生、です」
「うん」
夕木が目をきらきらさせて手を握り返してくれた。
うれしい、って思ってくれていることがわかる。
それがありがたくて、愛しくて、俺は夕木に笑いかけた。
「智生って、呼んで。これからは」
「いいの……?」
「うん。もちろん」
すると、夕木がすごくかわいい顔で笑ってこう言った。
「じゃあ……智生、くん。これから、よろしくおねがいします」
初めて名前を呼ばれただけで泣きそうになるなんて。
馬鹿みたいだ。でも悪くない。うれしい。
こんなに人を好きになれることがうれしくて仕方なかった。
――これから先、夕木と俺はどんな時間を過ごすだろう。
でも、ずっと、俺はこの人を、大好きで仕方ない夕木のことを大事にしたい。
優しくしたい。笑顔を見たい。
一番幸せになってほしい。
そのためにだったら、なんだってする。
この気持ちは一生変わらないだろう。
これから先もずっとずっと、俺は夕木に恋をしているのだろう。
そう、心から思った。
旧美術室に優しく差し込む夕日が、そんな俺たちをそっと包むのだった。
『幽霊さんは恋をする 智生の話』編 Fin
>『幽霊さんに恋をして 透の話』編へ続く
夕木を連れ出して廊下を駆け抜けて。
向かった先は、俺たちのいつものとっておきの場所。
旧美術室に駆け込んで、俺たちはやっと二人きりになった。
文化祭前日の校舎はどこも全体的にせわしなくにぎわっていたけど、この部屋はいつもと同じように静かだ。
まるで世界に置き去りにされたみたいな空間。
でも、夕木と二人でいられるここはやっぱり俺にとって特別な場所だった。
夕木が肩で息をしている。
「も、階段、駆け上がるの、きつかった……」
俺がそんなに息を乱していないのを見てか、照れたようにそう言う。
(かわいい)
今日もずっと新鮮にかわいくて、俺はとろけてしまう。
俺だってそう体力自慢とかじゃないけど、夕木を連れて走っているというだけで、普段と違うアドレナリンが出てた。
今、俺は無敵な気分だった。
「ごめんね、走らせて」
「う、ううん……あそこにいるのは、恥ずかしかったから……」
思い出したのかさらに赤くなり俯く夕木。
俺がほっぺをつついてしまうと、夕木がぱっと顔を上げた。
(目、きらきら……)
もう涙は見えない。でも、さっき泣いたからか、どこか潤んでいて綺麗だった。
「な、なに!?」
「ははは、そんなびっくりする?」
「す、する……した」
「そっか。ごめんな。……俺さっきから謝ることがありすぎるな」
「え?」
夕木が目を瞬く。
そして俺の謝罪の数々を反芻してか、次第に困ったように眉が下がった。
「幽霊じゃなかったこと、勝手に夕木を絵に描いたこと、泣かしちゃったこと……」
「……」
「本当にごめん」
列挙しながら、俺は本当に申し訳なくなってくる。
思えば、俺は夕木のことが好きなあまりに、暴走気味かもしれない。
絵に描く以外にも、抱きしめちゃったりほっぺを触ってしまったり。
そこそこやりたい放題かも。
そう思うと、ちょっと焦ってくる。
「そ、その……ほっぺ触っちゃったりとかも。嫌だなってことがあったら、ほんと、容赦なく言って」
夕木に嫌われたくない。
その一心で顔を覗き込んだのに、夕木は目の前ではにかんだ。
「び、びっくりしただけ。嫌じゃない……」
「……ほんと? 調子に乗るよ?」
「……? はは、調子に乗っちゃうの?」
俺の言葉を繰り返す夕木は天使に見える。
こんなことで俺は簡単に舞い上がってしまう。
うれしい。かわいい。大好きだ。
そう思ったら、もう俺は止まらなかった。
「うん、夕木のことが好きだから調子に乗っちゃう」
「えー……」
「いや?」
「ん、ううん……?」
照れるのもかわいい。
でもいまいち伝わっている気がしない。
(いや、好きだってことは伝わっている気がするんだけど)
俺が夕木のことを大切にしていることもわかってくれていると思う。
でも、それがどういう種類の好意かが伝わっていない。
(伝える? 伝えない……? でも……)
少し悩む。
が、目の前でかわいいを更新していく夕木を見ていると、ひとり占めしたいとか、この先もずっとそばにいていい理由が欲しいとか、そういう欲求が湧いてきてしまう。
だから。
俺は少し息を吸って、夕木の手をそっと握り直した。
「……夕木、好きだよ」
俺のトーンが変わったからか、夕木も息を止めた。
俺を目を丸くして見つめている。
「……人としても、もちろん。でも俺は……」
もう一度息を吸うと覚悟を決める。
「ぎゅってしたいな、とか。手をつなぎたいな、とか。……夕木の一番になりたいな、とか」
「ぁ……」
「彼氏になりたいなって、思う。そういう、好き」
夕木が一気に赤くなって、視線をうろうろさせる。
そうだよな、急だよな。ごめんな。
そう心の中では思うのに、俺は止まれない。
混乱している夕木が小さく口を開く。
「でも、俺……男で、いや……せ、性別はどうでもいいんだけど、その……こんな、いいとこなんかない……」
「夕木はいいとこ尽くしだよ」
「えっ、でも」
「さっき言わなかった? 夕木の笑顔はきらきらしてる」
勢いづいた俺はそのまま夕木の手を強く握った。
「ちょっと抜けてるところもかわいい」
「か、かわ……」
「どんなにひどいことされても、それでも人の気持ちのことを一生懸命考えてる優しい人」
「あ、わ……」
「花火にも猫にも、それから俺にも……たくさん素直な感情を見せてくれて。とってもとっても素敵な人だよ」
素敵、なんて、人生で初めて口にしたけれど。
夕木を褒めるためなら、いくらでも照れることを言えそうだった。
「それに……」
「も、もう! いい、いいよ、わかったよ」
焦った夕木に繋いでいない方の手で口をふさがれる。
そのしぐさもかわいい。
なんて、本当に恋に浮かれた頭はだいぶ馬鹿な感想ばかりを出力する。
(でも、きっと。伝わったな……)
夕木がどういう風に思うかはわからない。
夕木の過去のことを思えば、言わないほうがよかったかもしれない。
でも、伝えたかった。
(夕木の返事がどうであれ……俺は言えてよかった)
再びきゅっと夕木の手を握ると、夕木はそっと俺に視線を合わせた。
「……そ、その……俺、れ、恋愛とかちょっと、わ、わからなくて」
「……うん」
「おんなじ気持ちなのか、とか期待に応えられるか、とかその……わかんない」
夕木は見る見るうちにしょぼしょぼとしおれてしまった。
(そうだよな、突然だもんな)
「……びっくり、したよな?」
「うっ、……うん」
「そうだよな。ごめん。……俺も、夕木に嫌われたかなって心臓バクバクしてる」
「え」
夕木がびっくりして俺を見つめる。
冗談抜きに、さっきから俺の心臓は忙しい。
走ったときよりもずっとドキドキして、緊張している。
自分で言ったくせにそれがバレるのは恥ずかしくて苦笑すると、夕木が慌てて口を開いた。
「きっ! 嫌いになんてなってない! ならない、ならないよ、絶対」
「え……?」
「ゆうれ、っ、あ、あなたのこと、嫌いになるなんてない。れ、恋愛のことはわからなくても、でも今までで一番! 大切な人だから」
そう言ってじっとすがるように見つめてくるから。
「もー……そんなこと言っちゃだめ」
俺が赤くなってしまう。
分かってる、夕木のは恋とかじゃなく純粋な好意だ。
そんなのは百も承知で、でも、俺はやっぱり恋で馬鹿になってるから。
「調子に乗っちゃうよって、言っただろ」
「で、でも……」
「夕木が困ってるな、ってわかってるのに、好きなのやめられない」
そう言えば、夕木がまた赤くなる。
そのほっぺにそっと手を添えた。
「ごめんね」
「……う、ううん」
そう言って、夕木は俺をうるうるの目で見つめた。
どうしよう、と書いてあるような表情に笑ってしまう。
好きだ。どうしようもなく。
(絶対、諦められない……絶対、離してあげられない)
そう思ったら再び勢いがつく。
「じゃあ……人間同士の友達から。まずはそこからならいい?」
「え……?」
「今まで、幽霊さんと夕木、だったでしょ? そうじゃなくて、生きてる者同士として……」
言いながら、笑ってしまう。
生きてる者同士ってなんだ。
でも、俺も、そして夕木も“幽霊なんかじゃない”。
それが伝わるようにしっかり目を合わせた。
「幽霊みたいに、じゃなくて。普通の同級生同士みたいに、いろんなところでいっぱい話して遊んで時間を過ごしてほしい」
夕木が目を丸くしている。
「それじゃあ……」
「うん。恋は諦められないけど、でもそれでいい」
「でも……」
「まずは、俺のことを知ってもらわないといけないし。夕木に釣り合う男になれるようにならないとだしな」
不思議と希望が湧いてくる。
俺は爽やかな心地で夕木に笑いかけた。
「それで、もし俺が自分に自信が持てたら。また『彼氏にしてくれませんか』って告白するから」
「……!」
「だから……こんな風にお前のことを好きなままの俺でよかったら。まずはお友達から。どう……?」
まだまだ伝え足りない想いを視線に乗せて、夕木をまっすぐ見つめれば。
真っ赤になった夕木が少し視線をうろうろさせたのち、こくん、とうなずいた。
「……お、俺でよければ」
「ほんと?」
安堵と喜びが広がる。
夕木のことを好きなままでいい。
夕木のそばにいていい。
それが嘘みたいにうれしかった。
「ありがとう、夕木」
「ううん、こちらこそ……ありがとう、ゆうれ、あ」
慣れた呼び方が口をついてしまったからだろう。
夕木が照れくさそうにはにかむ。
「はは、じゃあ手始めに、また……自己紹介から」
俺は優しく夕木の手を握手するみたいに握り直して、口を開いた。
「俺は、香住智生。夕木と同じ高校二年生、です」
「うん」
夕木が目をきらきらさせて手を握り返してくれた。
うれしい、って思ってくれていることがわかる。
それがありがたくて、愛しくて、俺は夕木に笑いかけた。
「智生って、呼んで。これからは」
「いいの……?」
「うん。もちろん」
すると、夕木がすごくかわいい顔で笑ってこう言った。
「じゃあ……智生、くん。これから、よろしくおねがいします」
初めて名前を呼ばれただけで泣きそうになるなんて。
馬鹿みたいだ。でも悪くない。うれしい。
こんなに人を好きになれることがうれしくて仕方なかった。
――これから先、夕木と俺はどんな時間を過ごすだろう。
でも、ずっと、俺はこの人を、大好きで仕方ない夕木のことを大事にしたい。
優しくしたい。笑顔を見たい。
一番幸せになってほしい。
そのためにだったら、なんだってする。
この気持ちは一生変わらないだろう。
これから先もずっとずっと、俺は夕木に恋をしているのだろう。
そう、心から思った。
旧美術室に優しく差し込む夕日が、そんな俺たちをそっと包むのだった。
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>『幽霊さんに恋をして 透の話』編へ続く
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