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4.これはフィクション?
その2、久遠さんは怒ってる②
しおりを挟むえ。
「いや、見たというか、見えたというか……この間、大塚さんがここに来た時」
「……ライン……」
どの?
「勝手に見て、こんなこと言うの、筋違いだって分かってるんだけどさあ……」
「なにあれ」
「はやく彼氏ほしいって、どういうこと?」
沈黙。
……あ、これ、答えなきゃ進まないのか……
「どういう、ことって……」
「A子ちゃん、大塚さんに男紹介してもらってたの? 二股?」
「ちが……っ!」
「何が違うの」
ぎし、と音を立てて机に浅く座り、私を見る彼の目が……分からなかった。渦巻く怒りのようにも見えるし、悲嘆に濡れているようにも感じる。
沈黙は、見えない圧力だった。
「……だって…………」
「なに?」
「付き合って、ない……ですよね……私たち……」
「……っ、は?」
……間違えた?
もしかしてずっと、間違えてたの?
そう思うような声と目だった。思いもよらない、みたいな。嘘だよ。そんな、チープなフィクションみたいなこと有り得ない。彼は主人公格なのに、私を……わたしのことを……
うそだ。
「じゃあ、俺は……」
うそだ。うそ、うそ。
「A子ちゃんの、何? セフレ?」
「違います……私が、久遠さんのセフレ……」
「同じことじゃん、それ。じゃあ何? 俺が今までA子ちゃんのことを好きだとか特別だって言ってたのは、全部セックスするためのリップサービスだとでも思ってたの?」
久遠さんにしてはすごく珍しい、焦ってうわずった、苛立ちを隠さない、声。
「A子ちゃんだって俺のこと、好きだって言ってくれたよね? あれも嘘? 俺、言われて舞い上がってたの、馬鹿みたいだね。A子ちゃんの中では、セックスばっかりして、いざとなったら捨てるような……すげぇクズなんだ、俺」
「ちが……」
「なにが違うの。そういう風に見てたってことでしょ? ってか、誰がなんとも思ってないセフレのために車回して、わざわざ揉め事に突っ込んでいくわけ? 彼女にしかしないよそんなこと」
喜んでいいはずのことばが。
冷えた鉛のように、喉に詰まって息苦しい。
何か言わなければと思っても、頭では色んなことが駆け巡ってロクな言葉も出てこない。
「っでも……だって久遠さん、早織ちゃんのこと、ひと言も教えてくれなかったじゃないですか……!」
「なんで今、大塚さんの話が出てくるのか分からない。彼女の件を俺が知ったのは先週、映子ちゃん家に行ったあとだよ」
「うそ……だって、久遠さんから直々に指名だって……だから、久遠さんはもう、早織ちゃんがいいんだっ……て……」
「……指名したのは堂本常務」
はぁ、と大きくて短いため息。
「俺は大塚さんがどんな人なのかなんて知らないし……そもそも、映子ちゃんと付き合ってんのにほかを物色しようなんて思わないよ……!」
「でも、付き合おうなんてひとッ言も……!」
答えかけて。
また間違えたんだと気づいた。
暗がりでも分かるほど、傷ついた顔が、私を見ていたから。視線があった途端、久遠さんは目元を手で覆って、うなだれて首を左右に振った。
距離が、どんどん離れていく。
たった数歩先が、今、こんなにも遠い。
「……それだけ? それだけのことで?」
「それだけって……」
「他のことは全部言って、態度にも出して……そういうつもりだったよ、俺。……そんなに俺のこと、ひとつも、信用出来なかった?」
「……ちが……」
「映子ちゃん」
夜の灯りのなか、彼の目が真摯に私を貫く。
ああ、なにもかも、嘘であればいいのに。
「俺は、ちゃんと、好きだったんだよ」
「……久遠さん……」
「…………まだ、映子ちゃんには『久遠さん』なんだね」
何も答えられない。
何ひとつ言えない。
言えば言うほど、この人を、秋人さんを傷つけてしまうのだと、分かったから。
「……もう、いいや」
足先からすうっと凍りついてしまう。こぼれ落ちてようやく、それがどれだけ大切で、得がたくて、失いたくなかったかを知って……でももう遅い。
「今日は帰って」
すべては、終わってしまった。
「はい」
帰りたくない。
離れたくない。
「失礼します」
はなれたくない。
「……すみませんでした」
帰り道、予想に反して、涙はひとつもこぼれなかった。ただただ、のろのろとパンプスを履いた足が動きづらくて、地面ばかりを見ていた。
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