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馬を軽く走らせながら、フィオナとヴィレームは街の外へと出た。その瞬間、空気が変わったのを感じた。

舗装されていない土が剥き出しの凸凹道を、軽快に馬が駆ける。思いの外揺れが強くフィオナは、驚いてヴィレームにしがみ付く。恥ずかしさに慌てて身体を離そうとしたが、ヴィレームの片手に抱き寄せられた。

「少し揺れるから、確り僕に掴まってて」

フィオナはヴィレームを見上げる。
真っ直ぐ前を見据えながら、そう言う彼の顔は凛として美しい。普段とは違う彼に鼓動が速くなる。胸が高くなり、熱い……。どうにも落ち着かず、フィオナも前を向いた。そして目を見張る。

「綺麗……」

そこには見た事のない景色が広がっていた。青々とした草原が何処までも続いている様に見える。フィオナは街の外へ出たのは、これが生まれて初めてだ。そもそも街にすら行った事があるのは数える程だった。それも随分と昔の話で、この顔のアザが出来る前の事だ。

「街の外へ出るのは、初めてかな?」

「……殆どの時間、屋敷の部屋に引き篭もって、後は学院に通うだけの日々だったので」

「ねぇ……フィオナ。世界は広いんだよ。こんなもんじゃない。もっとずっとずっと、ずっ~と、広いんだ」

幼な子の様に無邪気に話して笑うヴィレームに、フィオナからも自然と笑みが溢れた。

「フィオナ」

「ヴィレーム様……?」

不意に草原のど真ん中で、馬の歩みが止まった。ヴィレームはフィオナの仮面に触れてきて、それを外した。拒否はしなかった。する必要がなかったのだ。それは今この場には、フィオナとヴィレームしかいないのだから。

「僕に君の顔を、もっとよく見せて」

彼の少し冷たい手が頬を撫でてくる。

「ねぇ、フィオナ……僕の事、嫌いになった?」

意外な言葉に目を見開いた。

「こんな事初めてで……どうしたらいいのか分からないんだ。君に嫌われたくない……ねぇ、フィオナ。どうしたら嫌いにならないでくれる?」

自分が恥ずかしくなった。どうしてこんな人を疑ったのだろうか。彼は嘘なんて吐く様な人じゃない。いや、もしもヴィレームがフィオナを騙していたとしても、構わない。彼になら、騙されったっていい……そんな風に思えた。

「嫌いになんて、なれません」

疑心暗鬼になっていた間、ヴィレームを疑っているのが酷く苦しかった。だが自分でもどうすればいいのか分からなくて、素っ気ない態度をとり、その度に彼が悲しむ姿に胸を痛めていた。
フィオナはヨハンとの事を話す事に決めた。

森へ入り、水辺に馬を繋ぎ休ませる。フィオナ達も腰を下ろし休憩しようとしたのだが……。

「あ、あの……」

「どうかした?」

「やはり、こんなのはダメです」

ドレスが汚れるのと、直接座るとお尻が痛いと言う理由でフィオナはヴィレームの膝の上に座らされた。

こんなの、恥ずかし過ぎる……。

「僕がこうしたいんだ。……嫌?」

不安そうに見てくる彼に、フィオナは諦めた。敵わない……こんな顔されて嫌なんて言えるはずがない。そして、フィオナはヴィレームにヨハンとの事を話をした。
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