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56自分の決めた道
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『先生、お゛れ、部活に入り゛たい゛ん゛ですが』
7月に入り、梅雨も明けて蒸し暑い日々がやってきた。夜奏楽に部活をすると宣言した光詩は、その次の週明けの昼休みに副担任に部活に入りたい旨を伝えた。担任は体育祭の時に見た熱血な部分が嫌だったので、先に副担に話すことにした。
職員室に入る前に副担任を捕まえることができ、廊下で用件を話すと、副担任は驚いた顔をしてじっと光詩を見つめる。副担任は優しそうな中年の男性で、光詩はどちらかというと担任よりも副担任のほうが好きだった。
「珍しいね。何か、興味がある部活が見つかったのかな」
『はい』
興味があるのは確かだ。しかし、それ以上にアリスと一緒に過ごす時間が増えるという下心もあった。とはいえ、そんなことを正直にいう必要はない。
「光詩じゃん!何を話してるの?」
廊下で話していたら、声をかけられた。
『え゛え゛と』
「なになに、深刻そうな話なら、直を連れていくけど」
『どう考えても、大事な話でしょ。昼休みに先生捕まえて話しているんだから。邪魔して悪いね。話の内容は気になるから、また休み時間にでも聞くからね』
直と夕映、洋翔が興味深そうな顔をして近づいてきた。廊下で話していたら、当然誰かに聞かれる可能性はある。光詩は戸惑いながらも、特に隠すような用件ではないので、彼らにも話すことにした。
『ぶ、部活に、はい゛ろ゛うかと、お゛も゛って』
「あれ、そこまで深刻な話じゃなかったんだ。なんか、覚悟を決めた顔で先生に話しかけているから、どんな内容か気になったけど、うん。ダイジョブそうだね」
『よかった。それなら、貴重な昼休みの時間を使っているわけだし、無駄にするわけにはいかないよな。頑張れ、光流』
「仕方ない。ここはおとなしく去るとするか」
三人は意外にも、光詩の話を聞くと、素直に引き下がった。そのまま廊下を歩き去ってしまい、その場には光詩と副担任の二人だけとなった。
「良い友達を持ったみたいだな」
『はい』
副担任は先ほどまでの光詩たちのやり取りを見て、直たちを光詩の友達と認識したようだ。その言葉に光詩は迷いなく返事する。妹の存在も大きいが、彼らと出会ったことも光詩に前向きな考えをもたらしていた。
「そうそう、部活の件だね。入部届をもってくるから、少し待っていてくれる?」
担任は入部届を取りに職員室に足早に向かっていく。
(これで、アリスと一緒に部活が出来る)
去っていく副担任の後ろ姿を見ていたら、今後のアリスとの部活の風景が頭に浮かび、自然と顔がにやけてしまう。
(ダメだ。今はもう、マスクをしていないから、変な顔をしたら周りに気づかれる)
光詩は体育祭後から、学校にマスクをつけて登校していない。アリスが自分の存在について、声を含めて認めてくれた。それなのに、いつまでも声を隠すためにマスクをつけて登校していては、アリスに申し訳ないと思ったからだ。
それに、と光詩は先ほど廊下で話しかけてくれた直たちのことを思い出す。彼らもまた、光詩の声に対して偏見を持たずに接してくれた。彼らはいつも、マスクをしないほうがいいよと言っていた。周りの意見より、身近な人の意見が大事だと気付いたので、今では多少の批判は軽く受け流すことにしている。
「お待たせ、この紙に記入してくれたらいいよ。いつでもいいから、記入終ったら僕に渡してくれるかな。本当は担任に渡すものだけど、川越君は苦手そうだよね」
『え゛え゛と』
「無理しなくていいよ。先に僕に渡してくれたらいいよ。担任には僕から話しておくから」
『わかりました』
廊下から職員室にかけられた時計を見ると、昼休みはすでに半分ほどが経過していた。光詩はまだ昼食をとっていなかった。
光詩は副担任との話が終わると、廊下を駆け足気味で歩き出す。そして、急いで教室に向かう。直たちとお弁当を食べながら、部活のことを話すことにした。
7月に入り、梅雨も明けて蒸し暑い日々がやってきた。夜奏楽に部活をすると宣言した光詩は、その次の週明けの昼休みに副担任に部活に入りたい旨を伝えた。担任は体育祭の時に見た熱血な部分が嫌だったので、先に副担に話すことにした。
職員室に入る前に副担任を捕まえることができ、廊下で用件を話すと、副担任は驚いた顔をしてじっと光詩を見つめる。副担任は優しそうな中年の男性で、光詩はどちらかというと担任よりも副担任のほうが好きだった。
「珍しいね。何か、興味がある部活が見つかったのかな」
『はい』
興味があるのは確かだ。しかし、それ以上にアリスと一緒に過ごす時間が増えるという下心もあった。とはいえ、そんなことを正直にいう必要はない。
「光詩じゃん!何を話してるの?」
廊下で話していたら、声をかけられた。
『え゛え゛と』
「なになに、深刻そうな話なら、直を連れていくけど」
『どう考えても、大事な話でしょ。昼休みに先生捕まえて話しているんだから。邪魔して悪いね。話の内容は気になるから、また休み時間にでも聞くからね』
直と夕映、洋翔が興味深そうな顔をして近づいてきた。廊下で話していたら、当然誰かに聞かれる可能性はある。光詩は戸惑いながらも、特に隠すような用件ではないので、彼らにも話すことにした。
『ぶ、部活に、はい゛ろ゛うかと、お゛も゛って』
「あれ、そこまで深刻な話じゃなかったんだ。なんか、覚悟を決めた顔で先生に話しかけているから、どんな内容か気になったけど、うん。ダイジョブそうだね」
『よかった。それなら、貴重な昼休みの時間を使っているわけだし、無駄にするわけにはいかないよな。頑張れ、光流』
「仕方ない。ここはおとなしく去るとするか」
三人は意外にも、光詩の話を聞くと、素直に引き下がった。そのまま廊下を歩き去ってしまい、その場には光詩と副担任の二人だけとなった。
「良い友達を持ったみたいだな」
『はい』
副担任は先ほどまでの光詩たちのやり取りを見て、直たちを光詩の友達と認識したようだ。その言葉に光詩は迷いなく返事する。妹の存在も大きいが、彼らと出会ったことも光詩に前向きな考えをもたらしていた。
「そうそう、部活の件だね。入部届をもってくるから、少し待っていてくれる?」
担任は入部届を取りに職員室に足早に向かっていく。
(これで、アリスと一緒に部活が出来る)
去っていく副担任の後ろ姿を見ていたら、今後のアリスとの部活の風景が頭に浮かび、自然と顔がにやけてしまう。
(ダメだ。今はもう、マスクをしていないから、変な顔をしたら周りに気づかれる)
光詩は体育祭後から、学校にマスクをつけて登校していない。アリスが自分の存在について、声を含めて認めてくれた。それなのに、いつまでも声を隠すためにマスクをつけて登校していては、アリスに申し訳ないと思ったからだ。
それに、と光詩は先ほど廊下で話しかけてくれた直たちのことを思い出す。彼らもまた、光詩の声に対して偏見を持たずに接してくれた。彼らはいつも、マスクをしないほうがいいよと言っていた。周りの意見より、身近な人の意見が大事だと気付いたので、今では多少の批判は軽く受け流すことにしている。
「お待たせ、この紙に記入してくれたらいいよ。いつでもいいから、記入終ったら僕に渡してくれるかな。本当は担任に渡すものだけど、川越君は苦手そうだよね」
『え゛え゛と』
「無理しなくていいよ。先に僕に渡してくれたらいいよ。担任には僕から話しておくから」
『わかりました』
廊下から職員室にかけられた時計を見ると、昼休みはすでに半分ほどが経過していた。光詩はまだ昼食をとっていなかった。
光詩は副担任との話が終わると、廊下を駆け足気味で歩き出す。そして、急いで教室に向かう。直たちとお弁当を食べながら、部活のことを話すことにした。
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