この声が君に届くなら

折原さゆみ

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71月日は流れ……

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「あっという間の三年間だったね」
「俺たちも来年から大学生か」
『全員、とりあえず大学に合格してよかったな』

 それから月日は流れ、光流たちは高校三年生になり、あっという間に年が明けて大学受験を迎えることになった。直たちは大学進学を目指していて、光流と同じように受験勉強に真剣に取り組んでいた。

 3月の中旬のある日、光流は直、夕映、洋翔と高校近くのファミレスに集まっていた。みんなの合格発表が終わった日を選んでいたため、今日は4月からの新たな生活のことを伝えあうことになっていた。卒業式はすでに終わっていたため、今日は全員私服を着ている。平日の昼間なので人は少なく、普段なら学校にいる時間に、こんなところに自分たちがいるのが不思議な気分だ。

『こう゛して会うの゛も゛、なかなか、できな゛くなる゛のか……。なんだか、それ゛はさびしい、な゛』

 光流はマネージャーを三年生の一学期まで続け、それから受験勉強を本格的に始めた。その前からコツコツと勉強を頑張っていたため、第一志望の教員免許が取れる大学に合格することができた。大学に合格できたのは素直にうれしいが、いざ、直たちと会う頻度が少なくなると思うと寂しい気持ちになる。思わず口から本音がこぼれてしまう。

(こんなこと言ったら、女々しいとか思われる)

 恥ずかしくなって、グラスのコーラを口に含んでごまかしてみる。すでにランチを食べ終え、彼らはドリンク飲み放題のドリンクを飲んでその場に居座っていた。

「光流はさすがだよな。第一志望に合格できるなんてさ。直と夕映はまあ、妥当だけど」
『妥当といえば、洋翔はやっぱり落ちたな』

「酷いこと言うなよ。とりあえず、大学には行くんだから。第一志望落ちたって関係ない!俺は大学生活を満喫してやる!」

 直と夕映は県外の第一志望の大学に合格して、洋翔のみ落ちて県内の大学に行くことが決まっていた。光流もまた、県外の大学に通うことになっていた。

『まったく、洋翔は能天気でいいねえ。とはいえ、光流の言う通り、このメンツで集まるのも、年に数回とかになるのは寂しいね』

 光流の本音は無視されたのかと思われたが、しっかりと彼らの耳に届いていた。夕映の言葉に一同は寂しそうな顔になる。そして、それぞれの飲み物が入ったグラスに口をつける。


「悲しいことはやめ!そういえば、私は結局、光流たちと会っている時点でお察しだと思うけど、彼氏できんかった……。まあ、そのおかげでこのメンバーで会えるわけだけど」

「うわあ、自虐ネタかよ。オレはいたけど、別れたなあ」

『洋翔は、めんどくさがり屋だからね。俺は運命の人に出会えなかったから、と思うことにする」

 直がしんみりとした空気を壊すために、話題を明るいものにしようと口を開く。突然の話題転換だが、洋翔も夕映も気にすることなく、直の振った話題で盛り上がる。

そして、じっと次は光詩の番だと視線で訴える。最近では、彼らは光詩に遠慮がなくなってきた。視線の意味に気づいた光詩は仕方なく口を開く。

『ア゛リ゛スとは、そのまま、だ』

 光詩の言葉に彼らはうんうんと頷き、話を続けろと圧を掛けられる。いったい、これ以上何を話せばいいのか。とりあえず現状、アリスとの関係がどうなっているのか話すことにした。

『アリスとは、い゛まも、つきあ゛ってる゛。お゛れ゛が大学に入っても゛、別れ゛る゛つもりは、な゛い゛』

「だよねえ」

 なんで、こんな恥ずかしい話を彼らにしているのだろうか。とはいえ、彼らは光詩の話を聞いて納得していた。

 それから、お互いの春からのことを話し合って解散となった。



 光詩は直たちと別れた後、すぐに帰宅した。

『ただい゛ま゛』
「お帰り」
【お邪魔しています】

 夜奏楽が家にアリスを呼んでいた。光流の帰宅を待っていたのか、玄関に入るとすぐに二人に出迎えられる。妹の夜奏楽とアリスの二人が家にいて、彼女たちと一緒に勉強する。そんなことをする機会も、光流が大学に入ったら減るだろう。

 光詩が陸上部のマネージャーを始めてから、アリスと会う機会はぐっと増えたが、部活で会うのと、家というプライベートで会うのとは気分が違った。部活は引退して家で会う機会も減る。それが光流をたまらなく寂しい思いにした。

【大学、合格おめでとうございます】
『あ゛り゛がとう゛』

 そんな気分はアリスの言葉で一気に吹き飛んだ。そういえば、大学の合格発表があってから、アリスとは直接会っていなかった。改めてアリスの口から言われると照れてしまう。自然とお礼の言葉が口から出て、光流とアリスは互いに見つめあい、微笑みあう。

「また私のこと忘れて二人の世界に入り込んでる!まったく、目に悪いから、さっさと部屋に行きなさい!」

 甘い雰囲気になりかけた二人を見かねた夜奏楽の言葉に、二人は我に返る。すでにこんな光景も日常となっていた。

『じゃあ、少し、お゛れ゛の部屋で、話そう゛か』
【はい】

 二人は仲良く手をつないで二階に上がっていく。その光景を今度はあきれることなく嬉しそうに見つめる夜奏楽だった。

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