16 / 36
16
しおりを挟む
「ちょうど良かった、鷹近。ちょっと話があるから、午前の授業はサボらない?」
「ああ、良いぜ」
元より不真面目な鷹近は、すぐに乗ってきた。
僕達は朝のホームルームを終えた後、人気のない屋上へ来ていた。
今日も太陽は眩しく輝いている。
…いろんな意味で、眼に染みる。
「んで、話って? あっ、そういえば恋は?」
「恋は休みだよ。昨夜、休むぐらい激しくしたのは誰だろうね?」
ジト目の笑顔で言うと、鷹近は顔を赤くしながら苦笑した。
「あっ、ははっ。だって恋、可愛くおねだりしてくるからさ」
帰りにレンの好きなケーキを買ってあげよう―そう思った。
「でも今朝珍しかったよな。遊真が叔父さんに送られてくるなんてさ」
「出勤時間と合ったんだ。今日は朝から会議なんだって」
物は言いようだ、と思う。
嘘は何一つないのだから。
「遊真と恋って、叔父さんと一緒に住んでいるんだっけ?」
「そっ。両親が海外に行っちゃったから、日本に残っている叔父さんを頼りに越してきたんだ。僕も恋も日本が好きだから」
―という設定にしている。
コレはハーミットが考えた設定だが、なかなか良いと思う。
僕達みたいな男三人組が、一緒に暮らしている理由としては上々だ。
「そうなんだ。でも二人が日本に残ってくれて良かったよ。おかげでオレは恋に会えたんだし」
そう言って天にも昇りそうな上機嫌ぶりを見せてくる。
鷹近は今、春を味わっているんだろうな。
もっともレンは氷河期を体感しているみたいだけど…。
さて、そんなレンを助け出す為にも僕は頑張らないと。
チャリオットはターゲットへの攻撃を担当しているが、他にもドジを踏んだ組織の者への仕置きも担当している。
イザヤは暗に、苛立っていることを言ってきたといっても過言じゃない。
仕事と夜の相手はまた別。
それは嫌というほど実感している。
声なく深呼吸をし、ニコッと微笑む。
「僕達も鷹近に会えて嬉しいよ。今度二人で家に遊びに行っても良い?」
「ああ、良いぜ。いつでも来いよ」
人懐っこい笑みを浮かべる鷹近は、本当に良いコだと思う。
…だからこそ扱いやすい。
「でも鷹近のお父さん、代議士だろう? 家の警備とか重要そうだよね」
「あ~まぁな。でもオレはマンションに住んでいるし、気にすんなよ」
「えっ? 鷹近、お父さんと住んでいる所、別なの?」
前以って知ってはいたけれど、初耳だという表情を浮かべる。
「うん、まあ…」
鷹近は言い辛そうに、僕から視線を背けた。
「ウチって代々実家住まいなんだけどさ。かたっくるしくて、居辛いんだよな」
「じゃあほとんど実家に帰っていないんだ」
「ここしばらくは帰っていないな」
―だけどそこは問題じゃない。
組織が欲しがっているのは、彼の実家のカラクリだ。
彼の実家は大昔に建てられた、古くて立派な和風の邸。
住んでいる者を守る為に、昔ならではのカラクリ邸となっているらしい。
その為、彼の血族に害をなそうと侵入してきた者は、そのカラクリによって失敗に終わっている。
その確率、九十パーセントとかなり高い。
今回のターゲットである彼の父親はその邸に住んでいる為、侵入するには住人だけが知るカラクリの情報が必要なのだ。
正確にはカラクリ邸の設計図が欲しい。
それを手に入れるには、彼を使わなければならない。
外でターゲットを狙うには、こちらのリスクが大き過ぎる。
家の中ならカラクリの力を信じきっている為、油断しているだろう。
実際警備員は家の中にはあまり入れず、邸の外を重点にしている。
後にカラクリ邸の主となる鷹近なら、設計図を持ち出すことは可能なはず―。
幹部達はそう決定づけ、高校生になれる僕とレンに指令が下された。
イザヤは今回、僕達のサポート役だ。
レンは恋人として、僕は親友として彼に近付く。
そして設計図を手に入れなければ、僕とレンは地獄を見ることになる。
はあ…。
「でも代々って言うことは、古いおウチ?」
「かなーり古いぜ? 昔ならではカラクリもあるぐらいだしな」
鷹近は軽く言ったが、そこは重要。
「へぇ、カラクリ邸なんだ。いいなぁ。僕と恋、そういうの好きなんだ」
「ああ、恋も言ってたな。変わっているよな、お前ら」
まあ正確には好きというより、今回みたいに関わることは多い。
ターゲットになる者は地位の高い者が多く、自分の命を守ろうと家に仕掛けをする者は少なくない。
「良いな~。実家の方に行ってみたいかも。行けない?」
「えっ? 実家の方?」
流石に眼を丸くされた。
「うん。鷹近もしばらく帰っていないなら、顔見せに戻ったら?」
「けどなぁ、親父の小言はうるせーし」
そうは言っているが、戸惑いは隠せていない。
心の中では帰りたい気持ちがあるのだろう。
―僕はそこに付け込む。
「でも同じ学校の友達を連れて行けば、お父さんも安心するんじゃない?」
少なくとも僕やレンは、親が心配に思うような人間には見えないだろう。
そう振る舞うことぐらい簡単だ。
「ああ、良いぜ」
元より不真面目な鷹近は、すぐに乗ってきた。
僕達は朝のホームルームを終えた後、人気のない屋上へ来ていた。
今日も太陽は眩しく輝いている。
…いろんな意味で、眼に染みる。
「んで、話って? あっ、そういえば恋は?」
「恋は休みだよ。昨夜、休むぐらい激しくしたのは誰だろうね?」
ジト目の笑顔で言うと、鷹近は顔を赤くしながら苦笑した。
「あっ、ははっ。だって恋、可愛くおねだりしてくるからさ」
帰りにレンの好きなケーキを買ってあげよう―そう思った。
「でも今朝珍しかったよな。遊真が叔父さんに送られてくるなんてさ」
「出勤時間と合ったんだ。今日は朝から会議なんだって」
物は言いようだ、と思う。
嘘は何一つないのだから。
「遊真と恋って、叔父さんと一緒に住んでいるんだっけ?」
「そっ。両親が海外に行っちゃったから、日本に残っている叔父さんを頼りに越してきたんだ。僕も恋も日本が好きだから」
―という設定にしている。
コレはハーミットが考えた設定だが、なかなか良いと思う。
僕達みたいな男三人組が、一緒に暮らしている理由としては上々だ。
「そうなんだ。でも二人が日本に残ってくれて良かったよ。おかげでオレは恋に会えたんだし」
そう言って天にも昇りそうな上機嫌ぶりを見せてくる。
鷹近は今、春を味わっているんだろうな。
もっともレンは氷河期を体感しているみたいだけど…。
さて、そんなレンを助け出す為にも僕は頑張らないと。
チャリオットはターゲットへの攻撃を担当しているが、他にもドジを踏んだ組織の者への仕置きも担当している。
イザヤは暗に、苛立っていることを言ってきたといっても過言じゃない。
仕事と夜の相手はまた別。
それは嫌というほど実感している。
声なく深呼吸をし、ニコッと微笑む。
「僕達も鷹近に会えて嬉しいよ。今度二人で家に遊びに行っても良い?」
「ああ、良いぜ。いつでも来いよ」
人懐っこい笑みを浮かべる鷹近は、本当に良いコだと思う。
…だからこそ扱いやすい。
「でも鷹近のお父さん、代議士だろう? 家の警備とか重要そうだよね」
「あ~まぁな。でもオレはマンションに住んでいるし、気にすんなよ」
「えっ? 鷹近、お父さんと住んでいる所、別なの?」
前以って知ってはいたけれど、初耳だという表情を浮かべる。
「うん、まあ…」
鷹近は言い辛そうに、僕から視線を背けた。
「ウチって代々実家住まいなんだけどさ。かたっくるしくて、居辛いんだよな」
「じゃあほとんど実家に帰っていないんだ」
「ここしばらくは帰っていないな」
―だけどそこは問題じゃない。
組織が欲しがっているのは、彼の実家のカラクリだ。
彼の実家は大昔に建てられた、古くて立派な和風の邸。
住んでいる者を守る為に、昔ならではのカラクリ邸となっているらしい。
その為、彼の血族に害をなそうと侵入してきた者は、そのカラクリによって失敗に終わっている。
その確率、九十パーセントとかなり高い。
今回のターゲットである彼の父親はその邸に住んでいる為、侵入するには住人だけが知るカラクリの情報が必要なのだ。
正確にはカラクリ邸の設計図が欲しい。
それを手に入れるには、彼を使わなければならない。
外でターゲットを狙うには、こちらのリスクが大き過ぎる。
家の中ならカラクリの力を信じきっている為、油断しているだろう。
実際警備員は家の中にはあまり入れず、邸の外を重点にしている。
後にカラクリ邸の主となる鷹近なら、設計図を持ち出すことは可能なはず―。
幹部達はそう決定づけ、高校生になれる僕とレンに指令が下された。
イザヤは今回、僕達のサポート役だ。
レンは恋人として、僕は親友として彼に近付く。
そして設計図を手に入れなければ、僕とレンは地獄を見ることになる。
はあ…。
「でも代々って言うことは、古いおウチ?」
「かなーり古いぜ? 昔ならではカラクリもあるぐらいだしな」
鷹近は軽く言ったが、そこは重要。
「へぇ、カラクリ邸なんだ。いいなぁ。僕と恋、そういうの好きなんだ」
「ああ、恋も言ってたな。変わっているよな、お前ら」
まあ正確には好きというより、今回みたいに関わることは多い。
ターゲットになる者は地位の高い者が多く、自分の命を守ろうと家に仕掛けをする者は少なくない。
「良いな~。実家の方に行ってみたいかも。行けない?」
「えっ? 実家の方?」
流石に眼を丸くされた。
「うん。鷹近もしばらく帰っていないなら、顔見せに戻ったら?」
「けどなぁ、親父の小言はうるせーし」
そうは言っているが、戸惑いは隠せていない。
心の中では帰りたい気持ちがあるのだろう。
―僕はそこに付け込む。
「でも同じ学校の友達を連れて行けば、お父さんも安心するんじゃない?」
少なくとも僕やレンは、親が心配に思うような人間には見えないだろう。
そう振る舞うことぐらい簡単だ。
1
あなたにおすすめの小説
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる