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落ち着けそうで落ち着けなかった
しおりを挟む修道院に着くとノヴァはすぐ修道長に挨拶をした。昼過ぎにたどり着いたので、他の修道女は買い出しや夕飯作りなどで出払っていたので今の内だと、ウイッグをとって柔道着に着替えた。
はぁ、これでやっとゆったり出来る。と一息ついて自分の胸を撫でる。
(しかし姉がつるぺたで良かった)
そこも簡単な詰め物で誤魔化せそうだ。本人に聞かれて居たら彼の命は無かったであろう。
兎にも角にも色々あって疲れたノヴァは案内された自室に通されると、みんなと挨拶をする前に疲れ切っていたのか寝てしまった。
※
「ごめんなさい!!」
朝一、開口一番のセリフを謝罪に費やした。何せ挨拶も忘れ寝てしまったのだ。
「大丈夫よ、街から来たのだから疲れてたのよね、あまり気に病まないで」
そう言って慰めてくれたのは3人いる修道女の1人、金の長い髪がサラサラと美しいメリー。
「ちょっと、甘やかさないでよ。こんなんじゃこの先やってけないわよ!」
とツンツン言いながらも、アンタ昨日ご飯食べてなかったでしょ!とパンを渡してきたのが、少し使った赤い髪をしたそばかすの有るシンディ。
「あ………」
そのまま何も話さなくなってしまったのは、ショートの黒髪のケイト。
皆の自己紹介を受けて、ノヴァも自己紹介をする。辺境送りの令嬢と言うのはみんな知ってたようで気を張っていた様だけどノヴァの大人しく殊勝な態度にその分一気に毒を抜かれたらしい。
簡単な仕事も教えて貰う。
これからはノヴァはしばらくここで“スカーレット”としてほとぼりが覚めるまで暮らさなければならないのだ。頑張らなければと、彼は拳を握りしめた。
朝食を終えると地理を覚える為にお使いに行こうと言う話になった。案内役はシンディ。
口は悪いがとても面倒見が良く、色々教えてくれながらこの先にある小さな街に向かう。
ノヴァは口調は普段どおりにすることにした。姉の様な喋り方は疲れるし、何より反省する為に送られてきた人間の話し方じゃ無い。
あとは一人称に気をつけるだけだ。
「ねぇ聞いてるの!」
「あ、うん聞いてるよ。ごめんね。週一で小麦の買い付けだったっけ?」
「そうよ、量が結構あるから2人で…ってアンタそれ」
シンディが目を見開いて指をノヴァを刺す。何かおかしな事をしでなしてのだろうか?とノヴァはキョロキョロと辺りを見渡す。
自分自身と言えば1週間修道院で使う小麦を担いでるだけである。
「い、意外に馬鹿力なのね」
「え、あ、あああ…そう結構体力がいるんだよ、社交界って」
「へ、へぇ…お嬢様の生活も案外楽じゃ無かったのね」
しまった、見た目は姉と同じとは言え一応男なのでそれなりに体力はあった。早速やらかしたがまぁなんとかごまかしが効くレベルだと信じたい。
お嬢様は小麦を担いだりしない。
「でもアンタ噂で聞いてた程じゃ無いわね、ちょっとボケてそうだけど」
「ははは」
その通りである。姉の身代わりにされたなんてボケボケも極めし、何の釈明も出来ない。
なんて言いながらもノヴァから小麦を少し引ったくってシンディが先を行く。口は悪いが人柄は悪く無いらしかった。
「こら!オメェ何してんだ!!」
そんな時大きな男の声が響く。その男の足元には小さな女の子が震えていた。
「これは大事な商品なんだぞ!ダメにしやがってテメェ!!!」
男は長い鞭を取り出すと振り上げる、ノヴァは咄嗟にシンディに小麦を渡す。
「これお願い!!」
「ちょっ、スカーレット!?」
ビュッ!と振り下ろされる鞭をバシィと手で受け止める。間に合った。
「っいっつ!」
しかしその威力に少し手に血が滲む、こんなものを小さな女の子に振るおうとしていたのかとノヴァは男をギッと睨みつけて
「お前、こんな小さな子にこんな事をしようとして恥ずかしく無いのか?」
「馬鹿野郎!こいつは大事な商品をダメにしたんだぞ!」
「だからって折檻する理由にはならないだろ」
女の子を背に捲し立てた。どんな状況であっても小さな子に暴力を振るう理由にはならない。
「じゃあアンタが弁償してくれんのかい?」
「っ」
そう言われて少し困る。何せ世間体では贖罪のための修道院送りなのだ。
そんなに手持ちがあるはずが無い。いや、父に頼めば送って貰えるだろうとノヴァは思考を巡らせるが、それには時間がかかるだろう。
「ふんっ、無理ならこいつに払わせる。他人は首を突っ込むんじゃねえよ」
「払わせる?」
「なぁに、こんな幼女でも可愛がってくれる奴ぁさがしゃ、いるだろうさ」
その言葉にゾクッと虫唾が走る。もう良い、とりあえず父からは後から送って貰う事に頭を切り替えノヴァが行動を起こそうとしたその時だ、
「そこまでだ」
突然ノヴァたちの間に大柄の男が割り込んできた。そいつは
「代金は俺が払う、だからこの子とこの女性を解放してやってくれ」
馬車の前で倒れていた、ジェイドだった。
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