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1話 人殺し配信の奇跡

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『………………』

 底辺配信者によくある無言配信。
 リスナーが見ていても何ら楽しくないワンシーンだ。
 しかし、この配信は他とは違った異彩を放っていた。

『…………』

:配信タイトルが『助けて』って書いてあったから来てみたけど
:やっぱ釣り配信か……?
:配信ぬしはなんで喋らんの?


『…………』

 コメントが打たれるも、この配信者は無言を貫いていた。
 まるで静かな夜闇に紛れるように、何かに対してジッと息をひそめている。

:喋れない状況とか?
:つかここどこ映してるん?
:白い草原……?
:もしかして異世界パンドラか?
:この画角的に……ぬしの視界を配信してるよな
:流行りの記録魔法か
:いいよなーステータスに目覚めた奴はこんな魔法をぽんぽん使えてさ


『おーい、どこいったー!? お嬢ちゃーん!』
『俺らと楽しいことしようぜー!?』
『怖がらないで出ておいで~!』

 下卑げびた男たちの声が配信上で流れる。

『…………』

 そして今もなお無言の配信主。
 ここでリスナーたちは察した。

:もしかして男に襲われそうなのか……?
異世界パンドラじゃ……警察も機能してないしな……
:冒険者界隈もモラルの高い奴ばっかりじゃないか
:うわ……声が近くなってないか?

 そこで配信画面が一瞬だけ下にぶれる。
 おそらく配信主の視界が下を————足元を確認したのだろう。
 その拍子にリスナーたちはとんでもないものを目にしてしまった。
 だぼだぼのロングTシャツからのぞいたのは、たわわに実った谷間だ。さらに流れるような銀髪も見受けられた。

:綺麗な銀髪だな
:立派なぷるるんもお持ちですな
:襲われる理由はまあわかった
:どうしてそんな無防備な恰好で異世界パンドラに来たんだ?
:っていうかぬしの顔が気になるな
:どんなんやろ
:見えないと余計に気になる
:期待も良い感じに膨らむ
:妄想がはかどりますなあ

:おい戻ってこい。今はガチでヤバイ状況だろ
:見つかるなよおおおお
:え、これってマジでこの後ヤられる感じなのか?
:ああああああああああ複雑だあああああああ
:複雑? 最悪の間違いだろ? 犯罪だぞ?
:あ、さーせん
:まあこのシチュが性癖に刺さる奴はいるかもしれない
:ネタならな。ガチだぞガチ
:たしかにやばいな


『あっ、見っけ~!』
『そんなところに隠れても無駄だぞー』
『あー、もうめんどいわ! さっさとその服脱げや!』

:マジか。見つかったやん
:ぁぁああぁぁああああおわたああああ
:おまわりさんこいつらです!
あるじ! 逃げろ! 走れ!
:どうして動かない!?
:叫べ!
:悲鳴を上げろ! 近くに人がいたら助けてくれるかも!

 リスナーが必死にコメントを打つが、彼らの思いは届かなかった。
 しかし、悲鳴は上がった。

『さーってお嬢ちゃんのきょにゅッヴッ!?』
『ギャッ!? な、なんだ!? 【亡者】だと!?』
『どっどうしてこんな大量に出て来やがった!?』


:え? 地中からゾンビが湧き出てきた?
:レイ〇プ魔たちがゾンビに襲われてるぞw
:自業自得だな
:主が助かってよかったよ
:にしてもこんな局所的に【亡者】が大量発生することなんてあるんだな
:奇跡か
:今のうちに逃げよーぜ
:ん? これってぬしも危険じゃないか?


『くそ! 【亡者】ごとき俺らの敵じゃっなっ、ちょ、数が多すぎっ!?』
『ぎゃっ、ぐあっ、ぎゃああああああああああああああああ!?』
『やめっ、あっ、俺の足があああああああ、ぎゃっごっ……』


:うわ……さすがにエグイな……
ぬしも参戦、しないわな
:見殺しにするっていうか、うん、ここで出て行ったらこっちも危ない
:にしてもあの男たちの末路が悲惨すぎだな
:あー、あれはもうダメじゃね?
:腕と足が噛まれすぎてて機能してないな
:蜂蜜に群がるありの大群って感じだな
:そんなに可愛いもんじゃないw ゾンビだぞゾンビw

:人の死ぬ瞬間が見れる配信ってここかー!?
:うわっ! もうおっぱじまってるwww
:やばやば!
:頭とかぐちゃぐちゃにかじられてるじゃんw
:グッロwww
:誰かが宣伝しやがったな
:サイコパス共が沸いてきたな
:つーか配信主もサイコってるじゃん
:こんなんジーッと見てられるなんてヤバくね?
:俺らにとっては最高の刺激物だけどさw
:ご褒美だわwww
:いや、さすがにそれはひどすぎるって
:主もこの状況に腰を抜かして、怖すぎて視線を切れないんだって
:ないないw

 リスナーたちが二勢力に分かれる中、未だに配信主は口を開こうとしない。


『…………』

『あっ……だずげ……で……』
『じ、じにだぐないっ……がっ……』
『おがあ、ぢゃん……いだっ……うぅ……』

『…………』


 大量のゾンビに噛み尽くされた男たちは、くたりと息を引き取った。
 それからゾンビたちは配信主の方には気付かないまま、ボコボコと地面へ戻ってゆく。
 後に残ったのは不気味すぎる静寂だけだ。


:あーワンチャン今度は配信主が襲われるのを期待してたのにww
:いやいや……まじで怖すぎだから
:ほんとやめておけよそういうの
:偽善者ぶるなよー
:お前らもこのスリルとホラー感がたまらなかったんだろー?
:いや……俺はどちらかと言ったら、ぬしのぷるるん感がたまらなかった
:確かに主のきょぬーは立派すぎた


『ぼくの……せい……?』

 ふと自問自答する主にリスナーたちはここぞとばかりに超反応を示す。

:喋った! 主が喋ったぞ!?
:声かわいすぎだろ
:めっちゃ可愛いぞ!?
:やっば
:ぼくっ娘か。尊い
:いやいやメンケアが先だろ!
:主のせいじゃないぞ! 
:主がものすごくえっろい身体してたせいじゃない!
:野獣だったあいつらが悪かったんだ!
:あとは運が悪かっただけだからな! な?


『……あっ……』

 配信主は何かに気付いたようで息を呑む。
 それから————

『………………我が————眷属に屠られし————ことわりに殉じて————輪廻————吹き返せ————』


:またなにか喋ってるぞ!?
:うおおおおおお全力で傾聴!
:口を開いただけでこの盛り上がりは草
:ん? なにかの詠唱か?
:魔法!?
:小さすぎて聞き取れない

:え、待って。なんか死んだ男たちの様子が……
:おいおいおいおいおいおい、傷が修復してないか!?
:え、ピクピク痙攣し出した!?
:まさか生き返った!? えっ!?

『かっはっ……はぁはぁ……俺は一体……?』
『……俺ら、死んだ、よな……?』
『よみがえった……?』


『また襲われる前に……街に戻ってください』

 配信主がポソッと彼らに言うと、三人の男たちは泣きながら何度もコクコクと頷いていた。
 恐怖と安堵と感謝がぐちゃぐちゃに入り混じった顔で、配信主に対して拝み倒している。先程まで襲おうとしていた者と、襲われそうになっていた者の図ではない。


:なあ……もしかして俺たちって今、とんでもないものを目撃した?
:もしかしなくてもとんでもない
:死者蘇生とか……前代未聞だろ!?
:え、ぬしは何者なの!?
:銀髪でぷるるんな少女だってことはわかった

『…………』

:た、頼むから何か喋って!?
:おいおいおいまさかこれで配信終わりってならんよな!?
:そういう振りはマジでするなって
:えっ、ちょ、ま!? えっ!?

 こうして配信は終了した。
 期待を裏切らない幕引きに、リスナーたちは呆気に取られてしまう。
 彼女についての情報は未だ不明だがわかっている点もある。

【TS魔王ちゃんねる】。
 それが彼女のチャンネル名である。



◇◇◇◇
あとがき

Twitterの
#TS魔王ちゃんねる
にて

謎多き配信主が一体どんな存在なのか
少しだけわかるような漫画をアップしています。

◇◇◇◇




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