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結局、ゴードンとマーガレットの婚約は、障害なく進んだ。両家の親同士が乗り気だったのだ。
しかし、元々マーガレット恋しさに、あんな態度をとっていたローリーは兄に婚約者を取られた形になってしまった。
未練たらたらで猛抗議していたらしいが、そもそもアセイム伯爵家に失礼な態度を取ったのはお前だ!と当主本人になじられて勘当に近い扱いを受けてしまったという。
そんなローリーにゴードンは困ったように肩をすくめていた。
「自分とマーガレットはラブラブで、兄さんたちとは違うと鼻高々だったのにな」
それを聞いてマーガレットは複雑な顔をしていた。
(そんな会話をしてたというのなら、ローリーが私のことを好きだってわかっていたはずなのに、弟をかばうこともせずにアセイム伯爵家と婚約破棄をさせる方向に持っていくなんて、随分と性格が悪いわね)
どうやらこの家の兄弟はあまり仲が良くなかったらしい。
後で知ったことだったが、ローリーは単に、好きな子だから意地悪したり、上手く話せないから追い払うようなことをしているのかというだけではなかったようだ。
内弁慶なところがあり、家の中では相当傍若無人にふるまっていたようなので、もしかしたら、ローリーのことを侍従や護衛が止めなかったのはわざとかもしれない。
ローリーがアセイム伯爵家の方に来ることの方が多く、家にマーガレットを招くことが少なかったのは、家の中での居心地が悪かったせいもあっただろうから。
「私を弟への腹いせに使っているだけでしょう?」
「違うよ! 俺はこうなれて嬉しいと心から思っているんだ」
無表情でありながらも不信感を表したマーガレットに、ゴードンは慌てる。
「口では何とでも言えますからね」
「いや本当だよ。弟の婚約式で初めて会った弟の将来のお嫁さんになる子は快活で、姉妹の仲もよくて、足の悪い妹の面倒をちゃんと見ていた」
いきなり始まった思い出話に、なんだろうとマーガレットは怪訝な顔をする。しかしゴードンは懐かしそうに、愛しそうにその時の話を続ける。
「その聖母子像のような姿を俺は見て、こんな子と家庭を築けたら幸せだろうなと思ったんだ。俺は婚約者を既に持たされていたから、この気持ちは絶対に表に出すつもりはなかったんだけれど、まさかこんなことになるなんて。チャンスが巡ってきたのなら、俺はそれをもう手放すつもりはないよ」
ゴードンはきっぱりと言い切り、マーガレットの手を握ってくる。
「ローリーと違って、俺は君を最大限に大事にするし、愛するよ。なんにだって誓うよ」
「政略結婚なので、愛は求めません。ただ、正しい敬意と外から見て普通に夫婦らしいことをしてくだされば結構です」
「俺からの愛はいらないかもしれないけれど、不要と言われても俺からは君に捧げたいんだ」
「でも貴方、一度婚約者に浮気されて逃げられていますよね?」
「それを言われると耳が痛いんだが……俺なりに彼女のことを大事にはしていたつもりだったのだけれど、距離があるとどうしても女性はダメなんだな。でも、もう他のところに行くことはないしその経験があるからこそ、君を大事にできると思う」
無駄に前向きな人だなぁ、とマーガレットは表情に乏しい顔でゴードンのことを見返してしまった。ゴードンは跪くとマーガレットの手の甲に口づける。
「俺は好きな子を避けたり逃げたりしないし、ましてや手放すなんてことはしない。最後まで君を追い求めるから、覚悟してて」
そう囁かれて、まっすぐな瞳で見つめられて。
こんな風に愛されすぎるのも重いかもしれない、と愛されることに不慣れなマーガレットはため息をついてしまった。
しかし、元々マーガレット恋しさに、あんな態度をとっていたローリーは兄に婚約者を取られた形になってしまった。
未練たらたらで猛抗議していたらしいが、そもそもアセイム伯爵家に失礼な態度を取ったのはお前だ!と当主本人になじられて勘当に近い扱いを受けてしまったという。
そんなローリーにゴードンは困ったように肩をすくめていた。
「自分とマーガレットはラブラブで、兄さんたちとは違うと鼻高々だったのにな」
それを聞いてマーガレットは複雑な顔をしていた。
(そんな会話をしてたというのなら、ローリーが私のことを好きだってわかっていたはずなのに、弟をかばうこともせずにアセイム伯爵家と婚約破棄をさせる方向に持っていくなんて、随分と性格が悪いわね)
どうやらこの家の兄弟はあまり仲が良くなかったらしい。
後で知ったことだったが、ローリーは単に、好きな子だから意地悪したり、上手く話せないから追い払うようなことをしているのかというだけではなかったようだ。
内弁慶なところがあり、家の中では相当傍若無人にふるまっていたようなので、もしかしたら、ローリーのことを侍従や護衛が止めなかったのはわざとかもしれない。
ローリーがアセイム伯爵家の方に来ることの方が多く、家にマーガレットを招くことが少なかったのは、家の中での居心地が悪かったせいもあっただろうから。
「私を弟への腹いせに使っているだけでしょう?」
「違うよ! 俺はこうなれて嬉しいと心から思っているんだ」
無表情でありながらも不信感を表したマーガレットに、ゴードンは慌てる。
「口では何とでも言えますからね」
「いや本当だよ。弟の婚約式で初めて会った弟の将来のお嫁さんになる子は快活で、姉妹の仲もよくて、足の悪い妹の面倒をちゃんと見ていた」
いきなり始まった思い出話に、なんだろうとマーガレットは怪訝な顔をする。しかしゴードンは懐かしそうに、愛しそうにその時の話を続ける。
「その聖母子像のような姿を俺は見て、こんな子と家庭を築けたら幸せだろうなと思ったんだ。俺は婚約者を既に持たされていたから、この気持ちは絶対に表に出すつもりはなかったんだけれど、まさかこんなことになるなんて。チャンスが巡ってきたのなら、俺はそれをもう手放すつもりはないよ」
ゴードンはきっぱりと言い切り、マーガレットの手を握ってくる。
「ローリーと違って、俺は君を最大限に大事にするし、愛するよ。なんにだって誓うよ」
「政略結婚なので、愛は求めません。ただ、正しい敬意と外から見て普通に夫婦らしいことをしてくだされば結構です」
「俺からの愛はいらないかもしれないけれど、不要と言われても俺からは君に捧げたいんだ」
「でも貴方、一度婚約者に浮気されて逃げられていますよね?」
「それを言われると耳が痛いんだが……俺なりに彼女のことを大事にはしていたつもりだったのだけれど、距離があるとどうしても女性はダメなんだな。でも、もう他のところに行くことはないしその経験があるからこそ、君を大事にできると思う」
無駄に前向きな人だなぁ、とマーガレットは表情に乏しい顔でゴードンのことを見返してしまった。ゴードンは跪くとマーガレットの手の甲に口づける。
「俺は好きな子を避けたり逃げたりしないし、ましてや手放すなんてことはしない。最後まで君を追い求めるから、覚悟してて」
そう囁かれて、まっすぐな瞳で見つめられて。
こんな風に愛されすぎるのも重いかもしれない、と愛されることに不慣れなマーガレットはため息をついてしまった。
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