金色の瞳

バナナ🍌

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テイア学園新入生

金色の瞳他3人―第3者視点―

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数少ない世界共通の常識の1つに、金色の瞳ゴールデンアイを持つ者は生まれながらの“天才„という物がある。
この世界には現在、金色の瞳ゴールデンアイの者が3人居ると言われていた。が、その中に、存在不確かなレクシーの名は無かったのだった。



流れるように旅をしてきた少年は、リリアイラー王国の東側に位置する、ふるさとである土地で宿をとっていた。宿主と軽い世間話をしながら金を払う。
「え……僕を?」
「あぁ、白色の髪に金色の瞳ゴールデンアイなんてアンタくらいだろ。何かマフラーを巻いた女が噂をたどってここまで着たっぽくてな。あん時から里のみんなで御前さんの事は黙っていようって決めていて良かったわ」
そう言う宿主は、白い髪の少年、イヴァン・ハエックから料金を受け取り部屋の鍵を差し出した。イヴァンは鍵を受け取りながら小さく首を傾げる。
「……マフラー……?」
「そういえば、御前さんの姉も良く巻いてたな」
「ん……、ありがと……」
「おう、とにかく気をつけろよ」
そう笑う宿主に手を振り、イヴァンは無表情で借りた部屋に向かった。
鍵を差し込み手首を捻ってガチャリと扉を開ける。部屋に入ると荷物を床に適当に起き、窓を開け放った。可愛らしい小鳥のさえずりが聞こえ、基本的に無表情な彼の頬が緩む。
「それにしても、マフラー、か…」
ポスンと部屋のベッドに倒れるように寝っ転がり、額に右手首を当て天井を見上げながらイヴァンはそう呟いた。
思い浮かべられるのは、何年か前に家出した姉。四季や昼夜問わず黒色のマフラーを身に付け、それは口元をすっぽり覆っていた。
そんな記憶で一番新しいのはおよそ20年近く前だ。一見14歳程の若々しい少年の容姿をしたイヴァンだが、実際の年齢は32歳だ。少年というより青年と言うべき年齢。なのに彼が若く見えるのは単に素材が違うだけでは無く、彼の能力による影響だ。その能力の事もあってか、いや全く関係ないが、精神年齢が普通より10年以上若いのは確かだ。
イヴァンはギイギイと音を出す錆びたベッドの金具に、寝っ転がりながら能力を発動する。一瞬にして新品になったベッドに、まるで少年のように満足そうにした彼は、そのまま眠りについたのだった。

◇◇◇◇◇

テイアリスト王国王宮にある、国王に続く権力を持つ、魔道師団団長の自室。そこで彼は優雅に紅茶を飲んでいた。カチリとカップを置き一息つく。
「……ふぅ……。御苦労様です、グランアちゃん。初めて会った時から思っていたのですが、マフラー暑くないんですか?」
「うるさい」
「これはこれは、不快にさせたならば申し訳ありません」
魔道師団団長であるヘニング・フィルッツはにこりと笑みグランア・ハエックを見た。グランアはそんな彼を見て顔を歪める。
彼は右が黒、左が白という、鼻から上のみの仮面を付けていた。その仮面の目の部分は薄気味悪く細められていて、見る者を不快にさせる。
グランアは未だに痛む、数時間前踵落としを食らった自身の鼻を抑えながらじとっとヘニングを睨んだ。
「依頼は失敗したけど、収穫はあった」
「ほう、期待しませんが一応御聞きましょうか」
口元に浮かべられた笑みはいつも以上に薄く、声にどす黒い覇気があった。グランアはその事に気圧されながら口を開く。
「第1王女を殺害する際、金色の瞳ゴールデンアイを持つ少女に邪魔された」
「……少女?確認されている金色の瞳ゴールデンアイは2人共男性でしょう、見間違えでは無いのですか?」
「いや、この目で見た。王女の護衛をしている様子だったけど、ドレスを着ていて仮面を付けていたから、踵落としされる時に仮面が外れた事で初めて金色の瞳ゴールデンアイと気付けた。恐らく日常的にも隠していると思う」
グランアの言葉に、ヘニングは無言で顎に手を当てた。そんな様子を横目に見ながらグランアは続ける。
「それと、金色の髪だったけど傷んでいた様子だった。金色の状態で染めているか、染めていたけど金色に変えたか。何にせよ、変装しているとしか考えられない」
「ほう……、分かりました。殺人以外も使えるんですね、グランアちゃん」
「役職は暗殺じゃなく汚れ仕事全般だからな」
グランアの言葉に、ならば、とヘニングは唇で弧を大きく描いた。
「その少女も含めて、他の金色の瞳ゴールデンアイの居場所と個人情報を調べてきてください。1人の居場所が分かったらこれ、プラスの情報によっては倍にもなりましょう」
そう言ったヘニングの右手は中指と薬指が立っていて、その手を見たグランアは大きく目を見開き、マフラーで隠れた唇が見える程唇の端を吊り上げた。
「交渉成立、期限は?」
3月みつき程で御願いします、グランアちゃん」
「……前々から思っていたけど呼び方キモい」
「これは失礼、グランアちゃん」
全く悪びれも無さそうなヘミングの言葉に、グランアは舌打ちし乱暴に立ち上がった。バルコニーの方に歩を進め窓を開ける。
「また来る」
「御待ちしています」
にこりと口元に笑みを浮かべるヘミングを背に、グランアは普通死ぬ程の高さにあるこの部屋から飛び降りて姿を消したのだった。

◇◇◇◇◇

万物の父である、この世界で最も崇められ唯一神とされるシャオン・リーペ。この神に一生を捧げる覚悟のある神官、巫女が集まる国がリーペ王国だ。
リーペ王国には他の国とは比べ物にならない程の大神殿基王宮があり、王であり大神官であるシャヲル・サイラス・リーペは今日も執務をサボり礼拝堂で神に祈りを捧げていた。
「シャヲル様っ!!またこちらにいらしたのですか、執務にお戻りください。貴方様が居ないと執務が滞ります」
「静かに~、セシル~。今はシャオン様に祈りを捧げる時間だよ~」
「今は執務を行う時間です!祈りを捧げる時間はきちんととりますから!祈りを執務をサボる口実にしないでください!」
「人聞きの悪い~!」
「そこは否定してくださいよっ!!」
つっこみ疲れしてぜえハアぜえハアと肩で呼吸する大神官補佐であるセシル・フランキー・リーペの言葉は虚しく、シャヲルでは馬耳東風だ。
端から見たら、王である美少女が神に祈りを捧げる美しい光景なのに、セシルには悪魔が手を絡めて微笑んでいるようにしか見えない。
苦しんだセシルは、最終手段に出た。
「つぅぅ……この女顔が……」
ただでさえ静かな礼拝堂に零れたその言葉で、更にその場は静まり返った。ギギギと音を立てるかのようにシャヲルはセシルの方を向くが、既にセシルはシャヲルに背を向け脱兎のごとく逃げていた。シャヲルは祈りの途中である事も忘れ悪魔のごとく彼を追いかける。
その後、執務室で息絶えたセシルの悲鳴声が上がり、その声を聞いた神官や巫女達はセシルの墓(仮)に多くの花を添えたそうだ。
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