ポンコツカルテット

ハルキ

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2章 乙坂鳴(おとさかめい)

7.

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 放課後、あたしは女池くんと山田についていくことにした。何度か女池くんのあとをついていったことはあるが、家までは知らない。これはストーカーとかではない。ただの情報収集というやつだ。
約束では四時に山田と女池くんが校門で待ち合わせになっている。それまでは適当に図書室に行ったりして時間をつぶそう。そうやって図書室に行くと、虎寸が座って本を読んでいた。どれだけ本が好きなのよ。あたしは虎寸に見つからないよう図書室を出る。
四時になると、校門で女池君と山田がいた。あたしは昇降口からそれを見つめ、歩き出すとそれに合わせて靴を履き替え、ついていった。
この季節なので四時でも青い空が広がる。昼は蒸し暑いのに今ではちょうどいい気温だ。
 電柱の影を伝いながら、ふたりの会話が聞こえるぎりぎりの距離を保っていく。
 「暑いよね、最近」
 「そ、そうだね」
 ふたりは一歩ほど横に離れて歩いていた。おそらく、山田がそうしているのだろう。気まずそうな話し方といい、山田は女池くんのことが苦手そうだった。今考えると、山田が女池くんに告白するという行為自体、謎めいている。
 「恵琉はさ、俺と一緒にいてもあまり楽しそうじゃないよね」
 そう言われた山田は少し体を飛び上がらせる。けれども、あたしはあまり驚かず、むしろ少し期待していた。
 「そ、そうかな」
 「別れないか」
 女池はやさしくそう言うと、山田は横を向く。山田は口を結んでいた。それは悲しいのを隠そうとしているのではなく、嬉しいのを隠そうとしているように見える。まるで、いますぐにでも別れたいみたいに。
 「うん、そうだね」
 山田はうつむいていたが、少し笑っていた。自分から付き合ってと言ったのに何を考えているのかしら。けれども、あたしは心のなかでガッツポーズをしていた。これで邪魔者がいなくなる。
 「なぁ、恵琉。少し前から聞きたかったんだけど」
 女池くんは悪役のような笑みを浮かべながら山田に詰め寄る。山田は近づいてくる女池くんに対し、後ずさりをした。なに、この展開。もう別れるのに、女池くんはなにがしたいの?
山田は後ずさり、女池くんはそれを追いかける。距離は一定だったけれど、壁に背中がつき山田はもう逃げられなくなった。なんだかドラマを見ているようでドキドキする。女池くんは山田の耳に顔を近づける。
 「山田はさ、ほんとうは・・・・・・」
 そこまでは聞こえていた。けれど、その後は女池くんが山田にだけ聞こえる声で話したためあたしには聞こえてこなかった。
 女池くんの言葉を聞いた山田はここからでも見ていてもわかるほどの青ざめた顔になり、T字路を曲がって逃げていった。いったい何を話したのかしら。あの山田があんなに慌てている様子なんて、二年ぶりだった。あれは、たしか、山田が・・・・・・。そう思っていると、女池くんがこちらを振り向いた。ついてきたことに気づかれていた。
 その後、女池君はまっすぐ歩いていく。あたしはもう山田と女池くんが別れるのを見ることができたのでそのまま来た道を戻って家に帰ることにした。
 

 
 次の日、あたしはSHRが始まる十分前に来た。後ろの席を見てみると、山田はまだ来ていないようだ。しかし、後ろからうっとうしいほどの快活な声が聞こえてきた。
 「おはよう」
 山田は一番窓際の後ろの席にいた。そこで荷物を置いていた佐藤に少しずつ近づき、抱き着いたのだ。昨日、振られたのにどうしてそんなにテンションが高いのよ。
 「あっ、恵琉。おはよう」
 最初は戸惑っていた佐藤も、今ではその山田の行動に対して、なんでもないふうにふるまうことができている。
 「今日は、夏祭りだね。鳴ちゃんはよろしく」
 「えっ、う、うん」
 佐藤と目があった。けれど、すぐに視線をそらした。昨日、あたしは佐藤の誘いに突き放すような言い方をして断ったのだ。少し悪いとは思っているが、あんな人込みには行きたくない。
 「佑月、今日も似合っているよ」
 横から声がした。女池くんの声だ。いつものように虎寸の席に行って、女池くんは去っていった。あたしの席の前を女池くんは通り過ぎる。澄ました横顔もかっこいい。
けれど、女池くんは虎寸にいつも声をかけている。もしかしたら、次のライバルは虎寸かもしれない。あたしは威圧の目で睨んだけれど、虎寸は本を読むことに集中していて気づいてはくれなかった。
「女池くん、こっちには来なかったね」
 「う、うん。そ、そうだね」
 佐藤の問いかけに山田は気まずそうに言う。その様子に気が付いた佐藤が「どうしたの?」と尋ねた。山田は一瞬ためらっていた。
 「実はね、昨日、女池君と別れたの」
 山田は無理矢理作った笑顔をした。それを聞き、佐藤はオーバーリアクションで驚く。
 「えー、えっ、そ、そそそれ、ほんとう?」
 動揺しすぎでしょ。周りを見ると、クラス中がざわめいていた。
山田は静かにうなずいた。
 「わたしね、ほんとうは女池くんといるのが気まずかったの。それを女池君もわかっていて、それで・・・・・・・」
 別れよう、って言われた。その現場を目にしたあたしにはわかる。けれど、頭に引っかかっているのは女池くんが山田につぶやいた言葉だった。女池くんはなんと言ったのかしら。本人に聞いても答えてはくれないだろう。あれは誰にも聞かれないように耳元で言ったのだから。
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