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腐れ大学生の物見遊山編
第52話 きっかけとなった場所
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その日も、夢の中で女神と会った。
「昨日会ったばかりなのに、また来るのか。君は暇なのか」
私は待ち合わせ場所の駅にある喫茶店で、三杯目の珈琲を飲みながらそう答えた。
「あなたの時間軸だと、頻繁になるんですね。私の感覚だと、ほどよい頃合いなのですが」
女神は悪びれもせずに悠然とこちらに歩を進め、私の正面に座る。注文ボタンを押して、自分の飲み物を頼む。
「何を基準にしてるんだ」
「強いて言うのなら、文量ですかね。この幕間は、ある程度の一人称視点を重ねたら自動で出現するように組まれているのです」
「こっちの身にもなってくれ。連日連夜、過去のトラウマをほじくり返されてるんだぞ」
「仕方ないじゃありませんか。あなたがスローライフのストーリーラインを選んだ以上、あからさまな危機というものは存在しません。言い換えるなら、あなたの成長の機会がないのです」
「このトラウマ想起が、私の成長の糧になるとでも?」
「なる、ではなく、なってほしい、ですかね。これが成長のきっかけになるか、ただの思わせぶりなエッセンスになるかどうかは、結局のところあなた次第なので」
「無駄骨だと思うがな」
私はそう吐き捨てて、冷めた珈琲を啜る。
女神は届いたモカフラペチーノをスプーンでぐるぐるとかき混ぜている。
この、どことなく気まずい感じは覚えている。
私はこの日、待ち合わせに遅れた彼女に待ちぼうけをくらい、腹を珈琲でたぽたぽにし、そして気まずそうに目だけ伏せる彼女にこう言った。
「謝罪くらいしたらどうだ」と。
思えば、その一言が破局のきっかけであったのだろう。
私は今でも自分の行いが悪かったなどとは思わない。
しかし、この一言をぐっと飲み込み、寛大な心で接していれば、また別の道もあり得たかもしれないと思う時もある。
惚れたのは私が先であったし、相手の存在を必要としていたのも私なのだから、それくらいは耐えるべきだったのではないか。
「後悔してるんですか?」
私が寂寥の念に駆られていると、思考を読んだ女神から横槍が飛んできた。
「してないと言えば嘘になる」
「まだ、過去の未練を断ち切れていないんですね。異世界まで来たのに」
「人はそう簡単には変わらん」
「そういうもんですか」
「そういうもんだ」
女神はそれで話は終わりだと言わんばかりに、飲みかけの珈琲を残して立ち上がる。
「でも、いつまでもそのままじゃあいけませんよ。あなた自身が変わらなきゃ。家賃を稼ぐためにもね」
「そんなこと、言われなくともわかっている」
女神は笑った。
「昨日会ったばかりなのに、また来るのか。君は暇なのか」
私は待ち合わせ場所の駅にある喫茶店で、三杯目の珈琲を飲みながらそう答えた。
「あなたの時間軸だと、頻繁になるんですね。私の感覚だと、ほどよい頃合いなのですが」
女神は悪びれもせずに悠然とこちらに歩を進め、私の正面に座る。注文ボタンを押して、自分の飲み物を頼む。
「何を基準にしてるんだ」
「強いて言うのなら、文量ですかね。この幕間は、ある程度の一人称視点を重ねたら自動で出現するように組まれているのです」
「こっちの身にもなってくれ。連日連夜、過去のトラウマをほじくり返されてるんだぞ」
「仕方ないじゃありませんか。あなたがスローライフのストーリーラインを選んだ以上、あからさまな危機というものは存在しません。言い換えるなら、あなたの成長の機会がないのです」
「このトラウマ想起が、私の成長の糧になるとでも?」
「なる、ではなく、なってほしい、ですかね。これが成長のきっかけになるか、ただの思わせぶりなエッセンスになるかどうかは、結局のところあなた次第なので」
「無駄骨だと思うがな」
私はそう吐き捨てて、冷めた珈琲を啜る。
女神は届いたモカフラペチーノをスプーンでぐるぐるとかき混ぜている。
この、どことなく気まずい感じは覚えている。
私はこの日、待ち合わせに遅れた彼女に待ちぼうけをくらい、腹を珈琲でたぽたぽにし、そして気まずそうに目だけ伏せる彼女にこう言った。
「謝罪くらいしたらどうだ」と。
思えば、その一言が破局のきっかけであったのだろう。
私は今でも自分の行いが悪かったなどとは思わない。
しかし、この一言をぐっと飲み込み、寛大な心で接していれば、また別の道もあり得たかもしれないと思う時もある。
惚れたのは私が先であったし、相手の存在を必要としていたのも私なのだから、それくらいは耐えるべきだったのではないか。
「後悔してるんですか?」
私が寂寥の念に駆られていると、思考を読んだ女神から横槍が飛んできた。
「してないと言えば嘘になる」
「まだ、過去の未練を断ち切れていないんですね。異世界まで来たのに」
「人はそう簡単には変わらん」
「そういうもんですか」
「そういうもんだ」
女神はそれで話は終わりだと言わんばかりに、飲みかけの珈琲を残して立ち上がる。
「でも、いつまでもそのままじゃあいけませんよ。あなた自身が変わらなきゃ。家賃を稼ぐためにもね」
「そんなこと、言われなくともわかっている」
女神は笑った。
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