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腐れ大学生の家賃調達編

第53話 タイムリミット

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 翌日である。

 この日は、初めて家賃が引き落とされる日であった。

 スケジュールに日付を登録していないのに何故わかったかというと、あの妙に馴れ馴れしい女神から『家賃引き落とししました。領収書いります?』というメッセージが届いたからである。

 私は既読無視をして心の安静を保とうとはしたものの、いよいよタイムリミットが迫ってきたなと焦りを感じずにはいられなかった。

 この世界は、一日の時間周期が長い代わりにひと月が短い。二十日ほどしかない。

 つまり私はあと三週間足らずで、19,000円分の符を集めないといけないワケだ。

 どうにかなるような気もするし、間に合わないような気もする。

 私はいざとなれば徹夜してでも小銭複製術を行使しようと思って、小銭入れだけはきちんと引き出しにしまっておいた。

 こういう最終手段は地道に毎日コツコツやっておけという意見はもっともだと思うものの、これ以上トラウマを刺激する呪物を部屋に増やしたくないという思いもある。

 できることなら、まっとうな手段で家賃を稼ぎたいものだ。

「だが、光明は見えてきた」

 私はスチールラック製の本棚の前に仁王立ちして、そう呟く。

 目の前にずらっと並ぶのは、私がこれまで収集してきたコレクションの数々だ。

 本日は、かつて私を別世界へと没入させてくれたこれらの書物を使って、家賃稼ぎの目処を立たせたいと思う。

 私は背表紙をじろじろと眺め、なるべく魔術の効果が期待できそうな作品を抜き取っていった。

 とは言うものの、現世の本と魔術の因果関係など知らぬから、ほとんど好みの話である。

 両手で抱えきれないくらい本を抜き取ったところで、私は本棚の隅にある一冊のノートを見つけた。

 見つけてしまった。

「……」

 それは、失恋直後からこんこんと溢れ出る思いの丈を、文章にして書きなぐった唾棄すべき日記帳である。

 私はそれを『失恋日記』と呼んでいたが、書き続けるのも読み返すのもしんどくなったので、脳みそから追い出すようにして、本棚にしまい込んだのだった。

 幸運なことに今までその存在を忘れていたのだが、不幸なことに、今思い出してしまった。

「朝っぱらから、嫌なものを見た」

 私はそれを二度と目に触れぬように本棚の奥へと押し込み、ガシャンと戸を閉めた。

 やけに大きい音が鳴ってしまった。
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