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第五話
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雷鳴の轟く中、フィリップは全てを終わらせた。
ルルティアの両親には、以後ルルティアは自分が預かる事を伝えた。一瞬口を開けたルルティアの父にはとある書類を見せて黙らせた。
エヴィアン伯爵には、にっこりと笑みを向けたのちに耳元でささやいてあげた。
『亡くなった奥様についての証拠は全て整えてあります。』
その言葉を聞いた瞬間、エヴィアン伯爵は顔を蒼白にさせると震えていた。
一見何の問題もないように見えるエヴィアンだが、フィリップはすでに精霊から話を聞き、彼が奥方をあらぬ方法で死へと追いやった証拠を押さえている。
彼が伯爵の地位から落ちるのにそう時間はかからないだろう。
フィリップは、自身の精霊の力の圧によって動けない三人を残して王城へと向かうと、国王の元へと向かった。
国王であるヘンリーは、フィリップが現れた途端に大粒の雨が降り始めた事に顔色を悪くすると声を荒げた。
「フィリップ!どうしたのだ、落ち着け。その・・・またルルティア嬢か。」
その言葉に雷が落ちる。そして今回の一件について話を聞いたヘンリーは、ルルティアの両親に先に動かないように釘を刺しておくべきだったと頭を抱えた。
そしてまた雷が落ちた。
「おい。フィリップ。いい加減にしてくれ。お前は力の制御ができるはずだろう。」
「分かっている。兄上。すまない。上手く制御が出来ないんだ。」
「こんな事になるなら、やはりお前とルルティアを結婚させておくべきだった。」
その言葉に、フィリップは深呼吸をしてから答えた。
「あぁ。私もそれについては、同意見だ。」
こんなに素直に自分の気持ちを認めるとはと、意外に思いながらもヘンリーはため息交じりに言った。
「はぁ。まあ、今回の件は私のバカ息子がやらかしたからなぁ。すまない。本当に。」
「うん。本当にね。ねぇ何であんなにバカに育てたんだい?」
その言葉にヘンリーは大きくため息をつくと言った。
「頭は良い子なんだがね。・・・今回の件も、婚約破棄なんて言葉使うからもっといけなかった。」
「そうだねぇ。婚約解消ならまだしもね。まぁ、それについては訂正をしてちゃんと婚約解消としたからまだいいけれどね。」
「なんでもルルティア嬢から婚約破棄と言ったらしい。」
その言葉に、フィリップはため息をついた。
「ルルティアは優しいから、婚約破棄という形にすれば自分に非があるのだと周りに思わせることが出来ると思ったんだろうね。健気な子だ。」
ヘンリーは天気が回復してきたことにほっとすると、自ら紅茶を入れ、そしてフィリップへとカップを手渡した。
「ありがとう兄上。はぁ。兄上の紅茶は私を癒してくれるよ。」
「毒見がいらなくて楽だからな。はぁ。ウィリアムについては一年間留学させることにした。その上で使い物にならないようであれば、王太子とはしない。」
「ほう。思い切った判断だね。」
「お前に好かれない以上、この国の王としてやっていくのは難しいからな。それで、いいかい?」
「あぁ。一年後を楽しみにしているよ。」
その言葉にヘンリーは安堵の息をつくと、フィリップの様子を注意深く見つめた。
この国には、必ずと言っていいほど王族に一人は精霊に愛されるものが産まれる。そうした者は王国を裏から守るのが決まりとなっており、フィリップがいるからこそこの国も安定しているのである。
ヘンリーとフィリップは年が十二離れており、フィリップが産まれた時には王太子としてヘンリーはすでに決められていた。
フィリップが精霊に愛されている事は産まれた時の精霊の祝福によって王国にも把握されていたからこそ、フィリップは精霊に愛される王族としての教育をしっかりと受けて育ってきた。だからこそ、感情の制御もお手の物だったのだ。
だが、それが上手くいかなくなった。それが五年ほど前のことである。
十年前。ウィリアムの婚約者候補にルルティアが上がった。
その頃のウィリアムは恋愛ごとにまったく興味がなく、婚約者にも特別な感情を抱いていなかった。
だがルルティアはウィリアムに一目ぼれをしたようで、とてもいじらしく思っているのが周りにも伝わっていた。
最初こそフィリップもそんなルルティアを可愛らしく思っていたようだった。
だが、一緒に過ごすことが増え、そしてルルティアを知れば知るほどにフィリップはルルティアに好意を抱くようになった。
そして五年前、ルルティアが十三歳になり、少しずつ体つきも女性へと近づいた頃にフィリップは自分の感情に気づいてしまったのである。
フィリップは、感情をうまく制御が出来なくなり、ルルティアの幸せをこのままでは自分が壊してしまうと仕事に没頭するようになったのだ。
感情を押し殺し、天候に現れないように制御し、ただただ仕事を黙々とこなす。
そんな弟を、ヘンリーは心配げに見つめていたのだが、自分の息子がまさかフィリップの感情を爆発させるとは思っていなかった。
「それで、どうするんだ?」
ヘンリーの言葉に、フィリップは答えた。
「まずはルルティアをゆっくりさせてあげたい。だから時間が欲しい。」
「はぁ・・分かった。これまで仕事で根を詰め過ぎていたしな。ゆっくりルルティア嬢と向き合うといい。」
「ありがとう兄上。」
何はともあれ、弟にも幸せにはなってほしいのだ。
出来れば平穏にいきますようにと、ヘンリーは心の中で願うのであった。
ルルティアの両親には、以後ルルティアは自分が預かる事を伝えた。一瞬口を開けたルルティアの父にはとある書類を見せて黙らせた。
エヴィアン伯爵には、にっこりと笑みを向けたのちに耳元でささやいてあげた。
『亡くなった奥様についての証拠は全て整えてあります。』
その言葉を聞いた瞬間、エヴィアン伯爵は顔を蒼白にさせると震えていた。
一見何の問題もないように見えるエヴィアンだが、フィリップはすでに精霊から話を聞き、彼が奥方をあらぬ方法で死へと追いやった証拠を押さえている。
彼が伯爵の地位から落ちるのにそう時間はかからないだろう。
フィリップは、自身の精霊の力の圧によって動けない三人を残して王城へと向かうと、国王の元へと向かった。
国王であるヘンリーは、フィリップが現れた途端に大粒の雨が降り始めた事に顔色を悪くすると声を荒げた。
「フィリップ!どうしたのだ、落ち着け。その・・・またルルティア嬢か。」
その言葉に雷が落ちる。そして今回の一件について話を聞いたヘンリーは、ルルティアの両親に先に動かないように釘を刺しておくべきだったと頭を抱えた。
そしてまた雷が落ちた。
「おい。フィリップ。いい加減にしてくれ。お前は力の制御ができるはずだろう。」
「分かっている。兄上。すまない。上手く制御が出来ないんだ。」
「こんな事になるなら、やはりお前とルルティアを結婚させておくべきだった。」
その言葉に、フィリップは深呼吸をしてから答えた。
「あぁ。私もそれについては、同意見だ。」
こんなに素直に自分の気持ちを認めるとはと、意外に思いながらもヘンリーはため息交じりに言った。
「はぁ。まあ、今回の件は私のバカ息子がやらかしたからなぁ。すまない。本当に。」
「うん。本当にね。ねぇ何であんなにバカに育てたんだい?」
その言葉にヘンリーは大きくため息をつくと言った。
「頭は良い子なんだがね。・・・今回の件も、婚約破棄なんて言葉使うからもっといけなかった。」
「そうだねぇ。婚約解消ならまだしもね。まぁ、それについては訂正をしてちゃんと婚約解消としたからまだいいけれどね。」
「なんでもルルティア嬢から婚約破棄と言ったらしい。」
その言葉に、フィリップはため息をついた。
「ルルティアは優しいから、婚約破棄という形にすれば自分に非があるのだと周りに思わせることが出来ると思ったんだろうね。健気な子だ。」
ヘンリーは天気が回復してきたことにほっとすると、自ら紅茶を入れ、そしてフィリップへとカップを手渡した。
「ありがとう兄上。はぁ。兄上の紅茶は私を癒してくれるよ。」
「毒見がいらなくて楽だからな。はぁ。ウィリアムについては一年間留学させることにした。その上で使い物にならないようであれば、王太子とはしない。」
「ほう。思い切った判断だね。」
「お前に好かれない以上、この国の王としてやっていくのは難しいからな。それで、いいかい?」
「あぁ。一年後を楽しみにしているよ。」
その言葉にヘンリーは安堵の息をつくと、フィリップの様子を注意深く見つめた。
この国には、必ずと言っていいほど王族に一人は精霊に愛されるものが産まれる。そうした者は王国を裏から守るのが決まりとなっており、フィリップがいるからこそこの国も安定しているのである。
ヘンリーとフィリップは年が十二離れており、フィリップが産まれた時には王太子としてヘンリーはすでに決められていた。
フィリップが精霊に愛されている事は産まれた時の精霊の祝福によって王国にも把握されていたからこそ、フィリップは精霊に愛される王族としての教育をしっかりと受けて育ってきた。だからこそ、感情の制御もお手の物だったのだ。
だが、それが上手くいかなくなった。それが五年ほど前のことである。
十年前。ウィリアムの婚約者候補にルルティアが上がった。
その頃のウィリアムは恋愛ごとにまったく興味がなく、婚約者にも特別な感情を抱いていなかった。
だがルルティアはウィリアムに一目ぼれをしたようで、とてもいじらしく思っているのが周りにも伝わっていた。
最初こそフィリップもそんなルルティアを可愛らしく思っていたようだった。
だが、一緒に過ごすことが増え、そしてルルティアを知れば知るほどにフィリップはルルティアに好意を抱くようになった。
そして五年前、ルルティアが十三歳になり、少しずつ体つきも女性へと近づいた頃にフィリップは自分の感情に気づいてしまったのである。
フィリップは、感情をうまく制御が出来なくなり、ルルティアの幸せをこのままでは自分が壊してしまうと仕事に没頭するようになったのだ。
感情を押し殺し、天候に現れないように制御し、ただただ仕事を黙々とこなす。
そんな弟を、ヘンリーは心配げに見つめていたのだが、自分の息子がまさかフィリップの感情を爆発させるとは思っていなかった。
「それで、どうするんだ?」
ヘンリーの言葉に、フィリップは答えた。
「まずはルルティアをゆっくりさせてあげたい。だから時間が欲しい。」
「はぁ・・分かった。これまで仕事で根を詰め過ぎていたしな。ゆっくりルルティア嬢と向き合うといい。」
「ありがとう兄上。」
何はともあれ、弟にも幸せにはなってほしいのだ。
出来れば平穏にいきますようにと、ヘンリーは心の中で願うのであった。
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