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第十六話
しおりを挟む空気が変わる。
心地の良い、春の木漏れ日の中にいるかのようなそんな空気。
ルルティアはゆっくりと目を開いてその光景に息をついた。
緑の美しい絨毯に、木々のきらめく庭。花々は色とりどりに咲きほこり、淡い光があたりを飛び回る。
「ルルティア。こっちだよ。」
フィリップに優しく手を引かれ、ルルティアはゆっくりとその緑の道を歩いていく。
「綺麗・・・ですね。」
「あぁ。精霊たちの庭だからね。ほら、こっち。」
まるでわくわくとしている少年のように、フィリップはルルティアの手を嬉しそうに引いた。
「実はね、前から精霊達にキミを紹介してってせかされていたんだ。ふふ。嬉しいなぁ。キミを紹介できる日が来るなんて。幸せだ。」
「フィリップお兄様。」
楽しげにそう言うフィリップに、ルルティアは笑みを浮かべるとついていく。
水の音が聞こえ、緑のアーチをくぐるとそこには小さな泉があった。
「皆!ルルティアを連れてきた。紹介をするから出て来てくれ。」
フィリップの声に反応するように、光が無数に集まりだす。
小さな淡い光たちは、まるでフィリップの周りを踊るように飛び回り、そしてルルティアの前へとやってきた。
ルルティアはその光に笑みを向けると言った。
「ルルティアと申します。フィリップ様とこの度婚約する運びとなりました。どうぞよろしくお願いいたします。」
美しく頭を下げ礼を尽くすルルティアに、光は楽しそうに踊った。
フィリップはにっこりと笑うと、水に手をゆっくりと入れる。
すると水の中から一匹の美しい竜が姿を現し、フィリップの周りを飛んだ後にルルティアの所へとやってきた。
『あぁ。やはり貴方がフィリップの唯一であったか。』
「え?」
驚きながら首を傾げるルルティアは、もう一度挨拶をしようとしたがその前に竜はルルティアの瞳を覗き込んだ。
宝石のようにきらめくその瞳は色を変え、美しいその色にルルティアは見いった。
『ふふ。美しい娘じゃないか。この庭にも入れたし、フィリップの唯一にふさわしい。』
フィリップは満足げにその言葉に笑みを浮かべると、傍らによってきた竜の頭を撫でた。
「そうだろう?ルルティアは本当に美しいんだ。」
「ふぃ、フィリップお兄様。」
恥ずかしくてルルティアが顔を真っ赤に染めると竜は笑い声を上げてクルリと宙を飛んだ。
『フィリップ。良かったなぁ。この五年ほどは死んだような顔をしておったのに。ふふ。ルルティア。フィリップを頼むよ。』
「は、はい!」
「ルルティア。ここには精霊がたくさんいるけれど、この庭を守っているのが彼女なんだ。」
『我はミーネ。これからよろしく頼む。』
「はい。ミーネ様。改めまして、ルルティアと申します。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。」
ミーネはニコリと笑うと言った。
『ルルティア。貴方に加護を。』
「え?」
ルルティアの周りに光が飛び、そしてまるで温かな何かに守られるようにそれは体の中に納まった。
フィリップは驚いたように目を丸くすると言った。
「驚いた。ミーネ。人間嫌いのキミが珍しいな。」
『お前の唯一だ。それに私も気に入ったからね。ルルティア。何か困ったことがあったらいつでも私を呼びなさい。助けてあげよう。』
ルルティアは精霊に加護をもらった事に驚きながらも、恭しく頭を下げて礼を言った。
「ありがとうございます。ミーネ様。」
そんな様子にフィリップは嬉しそうに笑みを浮かべると、他の精霊達もルルティアに紹介していくのであった。
精霊達はルルティアを受け入れ、そしてフィリップの婚約を心から祝福している様子であった。
「ふふ。私、精霊様を見る事が叶った事だけでも嬉しいのに、こんなにも祝福していただいて、とても、とても幸せです。」
「この庭は特別な庭だからね。ルルティア。キミはミーネに気に入られたから、ここにいる間はいつでも精霊が見れるよ。それに、地上でもきっと精霊を見えはしなくても感じられるようになるさ。」
「そう、なのですか?」
「あぁ。みんなキミを気に入ったようだからね。」
ルルティアは庭にいる精霊達を見つめ、そして笑みを浮かべた。
「フィリップお兄様ありがとうございます。」
「ん?どうしたんだい?」
「こうやって皆様にお会いできたのはフィリップお兄様のおかげなので。」
ルルティアの優しい笑みにフィリップは微笑みを返した。
「こちらこそありがとう。」
フィリップは思う。
ルルティアに出会えてよかったと。
力を持つ自分はいうなれば盾にも鉾にもなりえる。
自分を普通の人間として扱ってくれるのは、血のつながりのある王族くらいのものだった。
だがルルティアは最初から違った。
自分を兄様と慕い、偽りなく笑い、時には可愛らしく怒って拗ねて、そして仲直りしたらまた笑顔をくれた。
自分に普通の人としての温かさをくれた。
「ルルティア。愛しているよ。」
絶対にこの手は離すものかと、フィリップは誓うようにルルティアの手の甲にキスをした。
それに顔を真っ赤に染め上げたルルティアは、恥ずかしがりながらも微笑んで頷いた。
「私も、愛しておりますわ。」
精霊達はその光景を微笑ましく見守るのであった。
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