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第一章

ルーナの婚約者 115

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 部屋の中に、冷たい風が吹き荒れる。

 空気はどんよりと重たく、何よりハロルドの目に怒りが顕になっており、真っ直ぐに見れない。

「兄上。」

 怒りを込めた声に、二人の額から汗が伝う。

「は、、、ハロルド。誤解するな。」

「ほう。ルーナ孃とわざわざ二人きりになり、好きだと言いながらも、言い訳をしますか? 
 
 冷え冷えとする視線に、ウィリアムは乾いた笑い声を上げた。

「違う。色恋の好きではない。それに、私はルーナ孃とは友になったのだ。なぁ?ルーナ孃?」

「え?ええ。お友達になりましたの。」

「本当に?」

 二人が頷くのを見て、ハロルドは息を吐くと笑みを浮かべて言った。

「そうですか。なら、もう兄上は用は済みましたね?」

 その言葉には、さっさと帰れという怒気が含まれており、ウィリアムは苦笑を浮かべると立ち上がった。

「ルーナ孃。では、また。」

「はい。ごきげんよう。ウィリアム殿下。」

 ウィリアムは、部屋を出て行く時にハロルドに小声で何かを言うと、ハロルドは顔を少し赤らめた。

 ルーナは訝しげに思いながら、ルーナの前へと座るハロルドに尋ねた。

「ウィリアム殿下は何と?」

 ルーナの言葉に、ハロルドは、少し視線を泳がせると、ため息をついた。

「嫉妬しすぎると嫌われるぞと、、、釘を刺されました。」

「え?」

 二人は互いに顔を赤らめてうつむいた。

 その時、ハロルドはハッとしたように顔を上げると辺りをキョロキョロと見回した。

「どうなさいましたの?」

「しっ!」

 ハロルドは、ゆっくりと窓に近づくと、窓をバッと勢いよく開けた。

 すると、そこには、フィリアとグリードが微笑ましいものを見るかのような表情で部屋を覗いていたのである。

 ルーナは驚き、小さな声で「ひっ!」と声を立てた。

 ハロルドは、にこりと微笑み、それにフィリアとグリードも微笑みを返す。

「フィリア、君って人は、、、、。」

 フィリアは、ニコニコと笑いながら言った。

「大丈夫。暖かく見守っているだけですから!何も害はないわ!」

「へぇ、そう。じゃあ今度君とグリードがいちゃいちゃしているところを間近で眺めてあげよう。」

 その言葉に、フィリアの顔が真っ赤に染まった。

「え、、、いや、それは。」

 すると、グリードが真面目な顔で言った。

「フィリアの可愛い顔を見て良いのは俺だけだからなぁ。それは駄目だな。」

 その言葉にフィリアは顔をさらに真っ赤にした。

「も、、もう!仕方ないわね。ルーナ様、何かを困った事があればいつでも相談に乗りますからね!」

「え?えぇ。あ、ありがとう?」

 フィリアとグリードはニッコリと笑うとその場から消えた。

 嵐のようなその様子に、ハロルドはため息をつくとルーナの前へと座った。

「ルーナ孃。」

「は、はい?」

「話を戻すが、婚約者でもない男とみだりに二人きりにならないでくれ。」

「え?」

「自分でも、嫉妬しすぎると貴方に嫌われるのではと思う。けれど、それでも、嫌なんだ。」

 その言葉に、ルーナの心はひどく動揺した。

 この人は本気で自分の事が好きなのだと感じて心がざわざわと泡立つ。

「わ、分かりました。気をつけますわ。」

 ハロルドは柔らかく笑った。

「あぁ。そうしてくれ。」

 それは、理想の王子様そのもので、ルーナの顔はどんどんと熱を増していく。

「そ、それで、ここにはどうしていらっしゃいましたの?」

「兄上が貴方に会いに行ったとの情報が入ったので慌てて追いかけてきたんだ。」

「そうなんですの。」

 この人は、自分を心配して来てくれたのだと言うことに、嬉しさを感じて、ルーナは笑みを浮かべた。

 ウィリアムの時には感じられなかった温かな感情をルーナはハロルドに感じた。



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