死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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皇帝陛下の愛し方

79話

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 カルセイン王国。
 
 この国では魔法や魔力の研究に力を注いでいる。
 魔力とは、この世のあらゆる事象––天候や災害、植物の成長にまで関係している世界の根幹ともいえる力。
 魔力こそ国と人々が豊かになる道があるとカルセイン国は信じ、研究を進めていた。
 
 そんなカルセイン国の中で、誰よりも魔法の研究に熱を上げる人物。
 第一王子––シュルクは大量の書類から這い出るように顔を出し、苦笑を漏らした。

「……これは調べ終わらないな」

 山のように積もった書類は全て、アイゼン帝国の皇帝ーシルウィオについての報告書の束だ。
 魔法により一国の精鋭軍を一人で払ったという信じられない事例をはじめ、過去に行った魔法の数々の調査報告書を見ればカルセイン王族にも劣らぬ力だと分かる。

(いや……カルセイン王家以上か……)

 自身の考えを訂正しつつ、シュルクは報告書を再度見つめる。
 皇帝シルウィオの研究を開始したのは前世の巻き戻しに介入した可能性があったから。
 だが調べていくにつれて、彼の規格外の力に舌を巻いてしまう。

(前世でも皇帝の力は噂として聞いていたけれど。まさかここまでなんて……)

 こと破壊的な魔法を扱う事に関しては皇帝の右に出る者は居ないとシュルクは考える。
 巻き戻しに干渉した可能性があり、その代償に力を失ったのではないかと推測していたが……今の活躍ぶりに代償など無かったのではないかと猜疑心が生まれてしまう。
 その力に今やシュルクは当初の目的を忘れ、皇帝の力の原因を解明すれば、世界を発展させる事が出来ると考える程だった。
 それほど、皇帝は魔力量だけでは推し量れない未知の力があった。

 圧倒的な力だが、幸いな事があるとすれば。
 以前と違い、この力を他国への侵攻のために用いる事は無い事だ。
 報告書を見ていれば、全ての出来事は家族のためだと分かる。

(時間を逆行する前のアイゼン帝国は恐れられていたが……今世はむしろ交流を持ちたい国が多いと聞く。これも……全てあの人のおかげだろうな)

 快活に笑い、決して悲しい表情を見せぬ皇后の姿を思い出してシュルクは笑う。

(……帝国の未来は安泰だ。カルセインが友好的な立ち位置になれて良かった)

 笑いながら、シュルクは自身を救ってくれた帝国の幼き姫君も思い出す。
 死ぬはずだった未来を変えてくれ、今も手紙を送ってくれている可愛らしい姫の事を。

(そういえば……手紙を返さないといけないな)

 リルレットと初めて会った日から絶えず交わしている文通。
 はじめは回復魔法で治った症状の報告だけであったが、今やお互いに日頃の近況を報告するような内容になっていた。
 
「っ!! あはは」
 
 リルレットから届いている手紙を読み、シュルクは思わず笑ってしまう。
 その内容は、ある意味で最も興味が惹かれるものだったからだ。
 特に、皇帝を研究し始めたシュルクにとっては垂涎物の内容だった。

「相変わらず、リルレット姫は面白い魔法を生み出してるなぁ……」

 手紙に書かれているのは、リルレットが生み出したとある魔法。
 その実験内容を、シュルクはゆっくりと読み始めた。





   ◇◇◇





 カーティアside


「コケェェ!」

「コッコちゃん、おいで」
「こーお」

「コッケ!」

「こーおーーかわわー」
「可愛いね、テア」

 いつものように庭園でテアと過ごしながら、コッコちゃんと戯れる。
 変わらぬ安寧の日々、それが変化したのは突然だった。

「お母様!! お母様!」

「っ? リルレット?」

 庭園へと駆けて来たリルレットは、私に抱きつきながらいつもよりもニコニコとしていた。 
 何やらご機嫌な様子だけど、喜ぶような事でもあったのだろうか。

「どうしたの? リルレット」

「リルね、すごい魔法を考えたの!」

「?」

 魔法の才能に長けているリルレットが魔法を生み出すのは、これが最初ではない。
 今までにも幾つか、大なり小なり魔法を生み出しているのだけど……何故か今日はかなり上機嫌だ。

「どんな魔法なの?」

「内緒! でもね、新しい魔法を試そうとしてたら。お父様が自分に魔法をかけてもいいって言ってくれたの」
 
 リルレットはニコニコとして、言葉を続けた。

「お父様がいいって言ってくれたから試したらね! 大成功したんだよ!」

 答えの見えない娘の言葉。
 戸惑う私を見て、リルレットはニヤリと笑いながらテアを抱っこして手を振った。

「ふふ。リルの知らないお父様が見れて嬉しかったなぁ……リルがテアとおるすばんしておくから、お母様もお父様に会いに行ってあげて」

「なに言って……?」
 
「会いに行ったら分かるよ! おししょーに結果を送りたいから、いっぱいお話して、後で何があったか聞かせてね。お父様は執務室にいるから!」

「うーーねぇねといっしょー?」

「そう! いっぱい遊ぼう! テア」

「わかたー! ねぇね。おにごっこ!」

「うん!」

 リルレットは答えをくれず、テアと一緒に庭園を駆けていってしまった。

 新魔法が成功したとは、いったい?
 はぐらかされた内容を求めるように、私は言う通りにシルウィオの元へと向かい。執務室の扉をノックする。

「シルウィオ? 入ってもいい?」

「…………入れ」

 いつもと変わらぬ声。しかし……何かが違うようにも感じる。
 おかしな違和感を感じながら扉を開くが、やはり変わらずシルウィオが座っていた。

「えっと……リルレットから聞いたんだけど、魔法の実験を……」

「リルレットとは、先の子か?」

「……そうだよ? どうしたの、シルウィオ?」

「誰の子だ。お前は何を言っている」

「え?」

 予想外の答えに、思わず息が止まる。
 そして……違和感の正体を私は知った。

 いつも私を見ては自然と微笑む彼が、無表情のまま見つめてきて。
 その視線は……かつてを思い出すかのような鋭さを秘めている。

「あ……あの……」

「……」

「シルウィ……オ?」

「……来い」

 冷たい無表情のまま、シルウィオは自分の隣の椅子を引く。
 まるで、そこに座れというように。
 その態度と、声色に……ほのかに感じていた違和感が、懐かしさへと変わった。

「せっかく来たんだ。隣にいろ……話ぐらいできる時間はある」

 ぶっきらぼうで、怖いぐらい鋭い視線。
 しかし無表情の中にある、柔らかな雰囲気と態度。

 これって……まさか。

「……なにをジッと見ている。座れ」






 私にだけ向けてくれていた……彼の不器用な優しさ。
 懐かしい呼び方。

 これは……記憶が……私と会った頃に戻っている?







 

 後にリルレットから聞くことになる魔法の効果。
 それは一時的の間だけ、初めて人に好意を抱いた頃の記憶に戻すものだった。
 
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