死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

文字の大きさ
36 / 105
書籍化記念話

閑話ー使用人は見たー

しおりを挟む
 私––ミラは、本日。
 憧れていたアイゼン帝国城の使用人に就職しました。

 もちろん仕事は大変ですが、家族が喜ぶようなお仕事につけたのは嬉しい。
 城内で共に仕事する人たちも、優しい人ばかりだ。
 だけど、一つだけ不満がある。

「また、ここかぁ……」

 その問題は、城内のとある通路を掃除する仕事の事。
 庭園に沿う通路は、窓があって外の陽ざしも明るくて素敵だ。
 だけど、その通路は人が二人分通れるような狭さで長い。

 なので対面から誰か来れば、もう大変。

「ご、ごめんなさい……」
 
 なんて謝りながら、新米の私は壁にはりついて道を空ける。
 もちろん皆お礼を言ってくれるのですが、時には少し嫌な人もいて。

「それで~」
「確かにね~」

 こんな風におしゃべりに夢中で、道を譲った私には視線も向けずに通り過ぎていく人もいたり。
 時には押しのけてくる人もいて、そんな嫌な気持ちをするかもしれない道だ。

「嫌だなぁ……」

 今日は誰も通りませんようにと祈りながら、通路の掃除をしていく。
 だけど、やっぱりこの通路には人が来るようで……

「待ちなさい! 待って!」

「ん?」

 なんだか騒がしい人が来た?
 声の方向を見て、驚愕した。
 なんと、大きな黒い犬の上にニワトリとひよこが乗って走ってきている。

「わふ!」
「コケーー!!!」

「待ちなさい! コッコちゃん! ノワール! 今日はお医者さんに診てもらう日でしょ!」

「コケェェ!! コッケ!」
「ワッフ!」

「止まりなさい!」

 黒い犬とニワトリを追いかけていたのは、黒色の瞳に太陽みたいに明るい金色の髪。
 そして、見惚れてしまうような美しい女性だった。

 私でも知っている。
 このアイゼン帝国の皇后様である、カーティア様だ!

「っ!!」
 
 慌てて壁際に寄って通路の道を開く。
 犬とニワトリが駆けていった後、カーティア様がゼイゼイ言いながら追いかけ続けていた。

「ま、まってぇ……」

 皇后様がへろへろと走っている姿には、何故か緊張を感じない。
 そんな、人当たりの良い雰囲気があった。

「だ、大丈夫ですか……?」

「あ、道を空けてくれてありがとうね。あの子達、お医者さんが来る日はいつもああなのよ」

 思ったよりも気軽にカーティア様は接してくれて、再びへろへろと走っていった。
 
 わ、私……
 アイゼン帝国の皇后様とお話をしてしまった!
 すごく光栄だし、なにより、とても優しそうな皇后様で良かった。




   ◇◇◇



 次の日も通路の掃除だ。
 誰もこないといいけど、なんて思っていても当然人は来る。

「……の件と、こちらの方は」
「……も進めておいてくれ」

 な、なんてことだ。
 今日は文官様達が大勢、この通路を通っている。

 何人いるのか分からない。
 その上気付いていないようだし、壁に寄っていても当たってしまいそうだ。

「っと、皆。壁に寄れ」

 慌てていた時、文官様達の中でひときわ背丈の方が私に気付いてくれた。

「ジェラルド様、この通路も広くせねばなりませんね」

「そうだな、陛下にかけあおう」

 そう言って、ジェラルド様と呼ばれた方のおかげで文官様達は無事に通ってくれた。
 去り際、ジェラルド様は私にあめ玉を渡してくれる。

「狭い通路の掃除は大変だろう。改善するようにしよう……いつもありがとう」
 
 と言って、砂糖菓子なんて高給品をくれた。
 このお仕事も、悪くないかも……



   ◇◇◇



 今日は生憎の雨だ。
 通路の掃除、今日は誰が来るだろうと最近は楽しみになっている。

「っ!!」

 向こうからやって来たのは、見惚れてしまうほどに美麗な顔立ちの男性。
 それに、私でも名前を知っている騎士様だ。
 この国で最も武名を広めた、帝国一の騎士であるグレイン様。

「……」

 慌てて道を空けようと思った時。
 先程まで歩いていたグレイン様の姿が消えた。

 ど、どこ?
 
 って! 気付いたら、もう通り過ぎている。
 いつの間に?
 まさか、私の仕事に支障がないように一瞬で移動したというのだろうか。


 す、すごい人だ。
 驚き以上に、この帝国で最も強い騎士様の力の片鱗を見れた気がして、なんだか嬉しかった。




   ◇◇◇




 さて、今日は誰がくるかな……
 なんて思って掃除していれば、今日はとんでもない人がいた。


 通路の窓から、外を見つめて立っている人物。
 銀色の髪は絹糸のように綺麗で、鋭い瞳にまばゆい紅の瞳。

 このアイゼン帝国の皇帝、シルウィオ・アイゼン陛下の姿に思わず息を呑む。
 こ、怖い。
 陛下はとても無感情で、恐ろしい方だと聞く。
 失礼があってはならない……

「……」

 それにしても、微動だにせずに外を見つめている。
 何があるのだろうか?

 陛下の視線の先を見てみれば、そこには庭園にいるカーティア様が見えた。
 子共達と遊んでおり、その姿をシルウィオ陛下はジッと見つめている。

「カティ……今日も可愛いな」

 なんてのろけを呟き、カーティア様を見つめている陛下の姿は……噂のような無表情には思えなかった。
 遠くから見つめ、頬をほのかに緩ませる表情には、確かな愛が感じ取れる。

「……」

「……なんだ?」

 み、見つめ過ぎていて陛下がこちらに気付いてしまった。
 なんて失礼なことを……

「も、申し訳ありませ––」

「ジェラルドの提案通りこの通路は広める。カティが見れる、良い場所だな」

 私の謝罪など意にも介さず、陛下は立ち去ってしまう。
 無表情だけど、それは私達に対してだけなのだろう。

 陛下は確かに愛をもっており、それを家族にだけ向けている。
 城に務めていない者は知らぬ、陛下の真実を知ってなんだか嬉しい。

 帰ったら、この事を家族に伝えよう。
 この仕事は……凄く楽しいと思えた。 

 











   ◇◇◇お知らせ◇◇◇

 読んでくださっている皆様、いつもありがとうございます! 

 この度、本作の電子書籍が出版されました!
 各サイトにて購入できますので、良ければご検討くだされば嬉しいです。

しおりを挟む
感想 1,018

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。