38 / 105
書籍化記念話
閑話ー楽しい日々を願ってー
しおりを挟む閑話。
時系列は、シルウィオがカーティアに想いを伝えた頃です。
◇◇◇◇◇◇
私は今日も、庭園に建ててもらった宮とも呼べぬような小屋から出て、大きく伸びをする。
すると、そんな私の耳に元気な鳴き声が聞こえた。
「コケェ! コケェ!」
「コッコちゃん、おはよう」
「コ!」
言葉が分かっているかのような反応に笑いつつ、私は今日も畑作業に勤しむ。
実った作物に満足していると、声がかけられた。
「カーティア様」
振り返れば、ジェラルド様が私の傍まで来ていた。
「ジェラルド様。どうかしましたか?」
「陛下がカーティア様をお呼びです。お聞きしたいことがあると……」
「シルウィオが?」
アイゼン帝国皇帝のシルウィオ。
彼が私を呼ぶのは珍しい事ではない。
しかし、いつもはグレインが呼びにくるはずなのに、今日はジェラルド様とは珍しい。
「来ていただけますか?」
ジェラルド様は何処か不安そうに聞いて来る。
私は不思議に思いつつも、断る理由もないため了承した。
すぐに畑作業用の衣服から着替えて、ジェラルド様の案内に導かれてシルウィオの執務室へと向かう。
いつもは庭園で集まるのに、ますます珍しい。
「陛下、カーティア様をお連れしました」
「あぁ」
執務室へと入れば、シルウィオが執務の手を止めて私を見つめる。
護衛騎士であるグレインもいるようだ。
シルウィオは私の椅子を用意してくれたので、有難く座らせてもらう。
「カティ、聞きたい事がある」
「どうしたのですか? シルウィオ……」
「その……」
どこか言い淀むようなシルウィオ。
そんな彼の後方で、グレインやジェラルド様が励ますような視線を送っているのが不思議だった。
「カティ、その……明日の夜は、なにか予定はあるか?」
少しの沈黙の後、意を決したように聞いてきたシルウィオ。
だが、私は思わず反射的に返事をしてしまう。
「明日の夜は、久しぶりに本を読む予定ですよ。楽しみにしていた本があるんですよ!」
明るく笑って言えば、シルウィオは無表情のまま固まる。
そして、「そうか……」と何処か落ち込むような声で返答をした。
どうしたのだろうか? と不思議に思っていると……
ふと、シルウィオの背後にいたジェラルド様が大きな手振りをしている事に気付く。
ジェラルド様は手に紙を持ち、何かを書いて見せてきた。
『陛下は、明日の夜をカーティア様と過ごしたいようです!』
え?
『明日はカーティア様の誕生日ですよね? なので陛下は一か月前から、この日を休むために頑張っておられました!』
そうか、すっかり私自身が忘れていた。
確かに明日は、私の誕生日だ。
それをシルウィオは遠回しに、一緒に過ごしたいと誘うつもりだったのだろう。
ジェラルド様のおかげで気付いた私は、慌ててシルウィオを見つめた。
「でも、本はいつでも読めるので……時間は空いているかもしれません」
「っ……なら––」
「良かったですね! 陛下! これでカーティア様の誕生日を一緒にお祝いできますよ!」
パッと表情が明るくなったシルウィオだったが……
その途中で、感極まったらしきグレインが嬉しそうに真実を打ち明けてしまった。
途端に、シルウィオの動きがピシリと止まる。
「っ!! グレイン! 来い!」
「え? ジェラルド様? 陛下が楽しみにしておられたので、カーティア様にもお伝えしようかと……」
「いいから来い!」
きっとグレインは素直なので、シルウィオが隠そうとした事実を何気なく伝えてしまったのだろう。
ジェラルド様はそんなグレインの手を取り、これ以上口を滑らせぬよう慌てて部屋の外を出て行った。
残されたシルウィオは無言のままだ。
「……」
相変わらず、素直になれないシルウィオ。
グレインに真実を打ち明けられて、恥ずかしいのだろう。
でも、こんな姿が見られるのはグレインのおかげだなとも、私は思ってしまうのだ。
「シルウィオ?」
「……」
「こっち見て、シルウィオ」
ぐいっと彼の頬を両手で挟んで視線を合わせると、顔を赤くしている。
いつも通り照れているのが、可愛らしい。
そんな彼に微笑みながら、私は声をかけた。
「ちゃんと言ってくれれば、私はいつでも貴方のために予定を空けますよ」
「……カティ」
「だから、ちゃんと言ってください」
「……」
「シルウィオ」
「カ、カティの誕生日を祝いたい。だから……明日の夜は一緒がいい」
「はい。私もシルウィオが祝ってくれるなら、嬉しいです」
顔を真っ赤にしながらも、ちゃんと言えたシルウィオ。
彼が愛しくて髪を撫でれば、嬉しそうに私の隣に座ってきた。
ギュッと抱きしめられる。
こんな時は素直に嬉しさを伝えてくる彼が私は大好きだ。
ジェラルド様とグレインには感謝しないといけないだろう。
こんな彼を見られたのは、彼らのおかげだ。
私がアイゼン帝国で過ごす日々は、こうした幸せの連続で、心から幸福だと思える。
こんな日々に感謝しつつ、今日も楽しみながら生きていこう。
楽しく過ごそうと思い続けた日々が、この幸せを作ってくれたのだから……
1,850
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。