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21話ー私達でー

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この女は一体なんだ

ただの平民だと思い、婚約した
都合のいいストレス発散相手のつもりだった

だがこの女は俺に使えない魔法が使えて

俺にはない、仲間や家族を持っていて


俺には………………俺には何がある?

隣には……何も、誰もいない

爵位も財産も失い
そして奴隷であるお前も消えて

羨ましい?

なんだこの気持ちは
俺は昔から何でもできると思っていた
力や知恵、さらには犯罪者共を使い公爵になることも出来た



そんな俺がからっぽで

この目の前の女が俺のない全てを持っている







認めない、俺は絶対に認めない…






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「みんな……ありがとう……」

私はそう呟き、胸に手を当てると
周囲に魔力が放出していく、暖かく、傷を癒す

広範囲の回復魔法を使った

「お礼なんていらないわよ、アリサ、私達は友達なんだから…当然でしょ!」

「ルル………………」

ルルは起き上がり、涙を流しながら笑う

「嬢ちゃん、さすがだなぁ…あの傷が治っちまうなんて」

「寝ていてもお話は聞こえていました、ラバルトさんも協力してくださったんですね」

ラバルトは先ほど光線で貫かれた傷が塞がっていくのを確認しながら驚く

(こりゃ…一生適わねえな)

そう心で思いながら




「カイエン様も、ありがとうございます…無理させてしまって…」

頭を下げようとした私をカイエン様は止める
そして不器用に頭を撫でながら

「いいんだ…もう一人で何か抱え込まずに、俺や皆に頼ってよ、アリサは家族なんだから」

「そうそう!友達も忘れないでよね!!」

カイエン様とルルの言葉に
思わず涙がこぼれてしまう

そうだ、これは
嬉しいって感情だ

「はい…ありがとうございます」

微笑みながらそう返した私を
ルルは笑い、カイエン様は恥ずかしそうにしていた

私は放心しているルクスリアを放置して
オリビア様やエブリン様の元に駆け寄る

大丈夫だ
気絶しているだけで怪我はない
赤ん坊も、目をつぶって寝ている
こんな状況でも
きっとオリビア様によく似た強い子なのだろう

笑いながら赤ん坊を撫でた








「みんな!!無事か!?」

「大丈夫!?」

部屋にハウル様とアジャさんが駆け込んでくる

「はい、オリビア様とエブリン様…赤ん坊も無事です」

「アリサ……良かった、全て思い出したんだね……」

ハウル様の言葉に私は頷き
そしてようやくルクスリアを見つめる


「認めない…俺は………………認めないぞ……お前は俺の所有物だ、なのになぜ俺にないものを……認めない…」

ブツブツと呟くルクスリア

「もう、諦めてください…私はもうあなたの物なんかじゃない」

私の言葉に
彼は発狂したように叫びだした

「認めない!!認めない!!お前がなぜ幸せになる!?俺は全てを失った!!なのになぜおまえが!?」

ルクスリアの言葉にルルが鼻で笑った

「そんなの決まってるじゃない、あんたには最初から何にもなかったのよ、ウソや力で塗り固められた仮初の何かしか持ってなかったのよ!」

「う、うるさい!!うるさい!!俺は!俺は!!」

叫ぶルクスリアをハウル様が殴りつけた
ルクスリアの鼻から血が流れる

「もう諦めろ、外にいる賊達は全て片付けた…残るはお前だけだ」

「ま、まだだ…まだ……」



















「その通り、まだ終わってなどおらんよ」



突き破られた壁から
グラッジが現れた
全身の骨が粉砕されていたが
その身体は黒く濁った力に包まれている

禁忌の魔法を全身にまとわせて身体を保っているのだ


「グラッジ!そうだ!お前がいればまだ……」

「その通り、ルクスリア、今はお前の力も借り受けるぞ」

「は!?」

グラッジは突然腕を伸ばすと黒い力がそのままルクスリアを覆い
そして自身の身体に取り込んだのだ


「な、なにをしているの!?」

「化け物かよ、こいつ………………」


驚きの声をあげるルルやラバルトをよそにグラッジの身体が力であふれていく

「あぁ、やはり腐った心は我が力の源となる!!なぁルクスリアよ」

「ミトメナイ!!オレハミトメナイ!!」

グラッジに取り込まれたルクスリアの意思は叫ぶように声をあげる
禍々しい力が膨らんでいく

「アリサといったな、お前の力は脅威となる!今ここで全力で潰し、殺して終わらせる」

グラッジの顔まで黒い魔力で覆われ
口元が大きく裂け、笑みを浮かべる

「こりゃまずいぜ…旦那」

ラバルトは冷や汗を流しながら呟く
グラッジの魔力は膨らみ続けているのだ






「皆さん!!逃げてください!!!」

「アリサ!?いくら君でも」

ハウル様の言葉に私は笑顔で返した

「大丈夫ですから、今度は…私に大切な家族を、みんなを守らせてください」

「アリサ……わかった、必ず生きて帰ってきてくれ、君には伝えきれない恩があるのだから」

「はい…」

「嬢ちゃん、残念ながら俺やアジャも戦力外だ…奴には精神魔法は意味がない、あの様子じゃ物理も無駄だ」

「はい、ラバルトさんやアジャさんも逃げてください」

「すまねぇ、アジャ!奥様や使用人の方を連れていくぞ!旦那は赤ん坊を」

「アジャ!!連れていく!」

「あぁ、わかった!」

これでいい
今、目の前にいるのは危険な相手だ

だから、私がここで………………





私1人でもきっと大丈夫…










「こら!!また抱え込んでる」

パチンと頭をルルが叩いた

「え?ルル…逃げないと……」

「アリサ、俺たちにも頼ってよ」

「!?カイエン様も、なんで……」

「言ったでしょ、友達だから…当然って!!」

「俺も、君を幸せにするって決めたんだ……置いていかないよ」

「ルル、カイエン様………」

感情があふれて、涙が流れる
嬉しくて
暖かくて……

やっぱり私は幸せだ


そっと、カイエン様のおでこに私のおでこを合わせる

「ア、アリサ!?なにを…」

「私の魔力を送ります、カイエン様は魔力が尽きていましたので」

顔が赤くなり、鼓動の音が聞こえそうな程に緊張しているカイエン様がなぜか
可愛く思えた

ー大好きだったよー

カイエン様が呟いていた言葉を思い出した
私は笑顔でカイエン様と目を合わせる

「カイエン様、これが終われば……またあの言葉を聞かせてくださいね」

「あの………………あ!?」

「ふふ、私……凄く嬉しかったから…またお返事させてください」

私は赤くなるカイエン様から離れる


「見せてくれるじゃん……じゃあ、さっさとこんなジジイには退場してもらおうか!」

ルルはそう言って自身の周りに紅蓮の炎を作り出した
その顔は笑っていて
安心させてくれた


「おれも……今度こそちゃんと言うからさ…終わらせよう」

カイエン様の両腕が蒼炎に包まれ
その蒼き炎は大きく燃え上がる


目の前には黒く蠢くグラッジ
けど、不思議と怖くはない

だって、私には最高の友達と

大好きな家族がいるから



「時間はくれてやったぞ、別れの挨拶は済んだか?」

グラッジの言葉に私は笑顔で返した

「はい、あなた達とはいい加減お別れしましょう」


もう逃げないって決めた

私は大切なみんなと一緒に生きていく















この日の出来事は魔法史に残る出来事となる


禁忌に染まった賢者・グラッジ


そして彼に対するは


紅蓮を操る天才魔法使い

蒼炎を纏う魔法使い


そして

後に白き聖女として名を残した彼女であった




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