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ギルド本部殴り込み

34.そこまで行きたくないんだが

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久々の、か・じ・つ!!
いつ見ても神々しいぜ。やはり俺にとっての女神は唯一無二だな。
「何をしておりますの?」
「久しぶり過ぎて、幻なんじゃないかと確認したんだ。」
ナチュラルに抱き着いたんだが、あっさりと引き剥がされた。
「1カ月も経っていませんわよ。」
「3日も会わなければ久々さ。」
「・・・」
うん、その呆れた目もいい。
「二人とも、そんなに仲が良いとは思わなかったぞ。」
誰だ、二人の時間を邪魔する奴は。そう思って声のした方を見ると、おっさんが居た。いや、興味ねぇから邪魔しないでくれないかな。空気を読んで店の中に入ってくんじゃねぇよ。
「そうでしたわね、紹介が遅れましたわ。こちら、ユーリウス・アルマディ侯爵ですわ。」
侯爵?貴族か。ただ、どこかで聞いたような・・・
そうだ、あのクソガキの名前がそうだ。って事は、こいつが親父になるのか?
「お初にお目にかかる。ユーリウスでいい、よろしく頼む。」
「リアだ。」
貴族が何の用だと言いたかったが、メイニが連れて来た事を考えると邪険には出来ない。様子見でいいだろう。
「しかし、一体どんな繋がりなのだ?」
「生死の境を駆け抜けた仲、ですものね。」
!?
まさか、メイニからそんな事を言って来るとは。
「あぁ、そうだな。懐かしい話しだな。」
「立ち入れそうにない話しのようだ。これ以上の詮索は無粋、やめておこう。」
へぇ、話しの分かるおっさんだな。


「あ、メイニ。丁度良かったわ。」
「あらマーレさん、こんにちは。丁度良かったとは何かしら?」
そう言えば、図面は出来たんだっけな。確認してみたが、なかなか良く出来ていた。俺には設計の細かいところは分からないが、良く考えられているなと感心出来た。
「実は、そろそろ建築に移行しようと思っていてね、材料の手配をお願いしたいのよ。」
「分かりましたわ、詳しく聞きましょう。」
「ありがとう。奥で話すね。」
そう言ってマーレはメイニを攫って行こうとする。どいつもこいつも邪魔しやがって。
「心配しなくても話しが終わったら返すわよ。」
「わたくしは物じゃありませんわ。」
人をなんだと思っているんだ・・・

「こちらも話しがあって来たのだが、よろしいかな?」
「あぁ。」
おっさんとの会話は盛り上がらなさそうだが、仕方が無い。メイニが戻って来るまで聞いてやろう。
「その前に、マールが世話になっているようだな。手間を掛ける。」
「別にいい。」
大した手間でもないし、此処に居るわけでもない。
「貴族には貴族の務めがある。本来であれば、幼少より身に着けていくものだが、よりによって悪事に手を染めるとは情けない。」
ノブレスオブリージュだったか?
貴族ってのは、世界が変わっても似たようなものなのかね。
「息子をよろしく、とかだったら聞かないぞ。」
「すまぬ、そんなつもりはない。既に縁を切ったのだ、マールの事はさておき本題に入ろう。」
話し始めたのお前だっての。
「話したい事は3つある。リア殿は、新しい店の為に土地を探していると聞いてな。」
「は?」
「違うのか?メイニ殿から聞いたのだが。」
「まぁそうだが。ユーリウスには関係のない事だろう。」
何故貴族が、一介の店に関わって来るんだ。

「正直に言えば、確かにリア殿の言う通りだ。ただ、私としても何もせずに知らぬ顔も出来ぬ。せめて協力くらいはさせて欲しい。」
そういう事か。
「別にあんたが何かしたわけじゃないだろう。気にするなよ。」
「気持ちはありがたいが、土地だけでも見てみないか?」
流石に貴族。それだけの土地を用意出来ているのか。
「用意が良いな。」
あまり都合が良いと、逆に疑わしい。
「商売は巡り合わせが重要だ。メイニ殿はそう言っている。何も都合良く用意したわけではない。空いているところにこの状況が合わさっただけだ。」
なるほど。そもそも胡散臭い話しなら、メイニが連れて来ないか。
「まぁ、見るだけなら。条件さえ良ければ決めてもいい。」
「それは良かった。」
俺もそこは苦労しそうだとは思っていたから有難い。そもそも異世界の地主とか、どうなっているか不明だからな。紹介所に行けばあるだろうとは思うが、望む条件で手に入れられるか、かなり苦労しそうだ。
「出来れば明日にでも確認してもらい、決めてもらいたい。」
「それは急過ぎだろう。」
「いや、立地が良いので、他に求める人も多い。長く押さえておく事が難しいのだ。」
だったら、縁が無かったって事になるな。
「悪いが、まだそこまでの金が貯まっていない。」

「そこで、もう1つの話しだ。」
なかなか用意周到というか、曲者?
「準備がいいな。」
「そうでなければ務まらぬ。」
なるほど、大変そうだ。多分俺には無理だな。
「で、その話しってのは?」
「土地、建屋含めて私の方で用立てよう。もちろん、返してはもらうが。」
それか。
「メイニにも言われた事があるが、自分で貯めた分で目的を達成したいんだ。借りてまでやる事じゃねえ。」
「志は立派だが、もう少し視野を広げてもいいのではないか?」
別に損得とか、求めて無い事もないが。視野を広げろ?
「どういう事だ。」
「うむ。理由は3つある。まず1つ、私としてもリア殿の店を利用したいと考えている。」
どっちを利用したいか不明だが、今のところユーリウスは白だろうな。
「2つ、この世界では伝手が重要だ。リア殿には私という伝手、私には優秀な薬師を紹介出来る優位性。」
なるほど、良く考えている。お互いウィンウィンの関係になれるように話しを持ってきたのだろう。確かに俺にとってはかなりのアドバンテージが生じる。ユーリウスにとっても言う通りだろうが、俺の知名度は高くないためそこまでの魅力は無いように感じるが。
「3つ、これは3つ目の話しにも絡んで来るが、アルマディ家は王室との繋がりもある。2つ目と似たようなものだが、貴族と王室では持っている経路が違う。」
話しが大きいな。
が、何処まで求めるかは俺次第だろうな。

「そんな大層な話し、何故一介の薬屋に?」
一番の問題はそこだ。アルマディ家はこの国の貴族の中でも有数の貴族らしい。だが、そんな立派な貴族様が、何故俺なんかにその話しを持ってきたかだ。
「メイニ殿はかなりのやり手で頭も切れる。私も懇意にしているが、彼女は商売人のため、信頼を得るのはかなり難しい。そのメイニ殿が信頼を置く相手だからだ。」
まぁ、そう言われると何も言えないが。
それに、その信頼というのは表には出せないものでもあるんだが、それは言えないところだな。それこそ、俺がメイニからの信頼を失う。
「まぁ、考えてみるか。」
確かに自分で貯める達成感は欲しい。が、何時になるか分からないのも事実だ。ギルドのランクが上がったからと言って、儲かるかは別の話しだろう。
「建屋の建築だけは、時間を欲しいんだがそれでもいいか?まぁ、土地を確認した後の話しだが。」
「出来れば早い方がいいのだが、何か理由が?」
そこは人任せにしたくないんだよな。
「今メイニと話している奴が、建屋の設計をする。在り来たりの様式じゃ駄目なんだ。」
「なんと、彼はそんな事が出来るのか?」
「あぁ。薬を扱うにあたり、どうしても専用部屋が複数必要になるからな。そこは慎重になりたいんだ。」
「なるほど、であればその条件は飲もう。」

「で、もう一つの話しってのは?」
確か3つあるとか言っていたよな。
「うむ。ここからの話しは内密に願いたい。」
ユーリウスは顔を少し近付けて来ると、声を小さくして言った。おいおい、いきなり影のありそうな態度になったな・・・
「内密?」
「そうだ。出来れば私とリア殿のみに留めてもらいたい。」
・・・
なんかやべぇ話しじゃねぇだろうな。ただ、息子に対しての態度があれだ、黒い話しではなさそうなんだが。
「分かった。」
そう考えれば、聞いてもいいかと返事をする。ただ、あまり付き合いの無い奴と秘密の共有ってのは、危険を孕んでいる可能性もあるから望ましくないんだが。
メイニが連れて来たんじゃなければどうだったか。
それを踏まえての今回の話しかもしれない。
「王城内に居る宰相とは古い付き合いでな、名前はゼフトという。」
名前とかどうでもいい。
そんな事より、いきなり王城内とか言い出しやがった。何か、ろくな話しじゃなさそうだな。
「そのゼフトが浮かない顔をしていたため、何事か在ったのか聞いたのだが・・・」
勿体ぶるな、面倒くせぇ。
ユーリウスの神妙な表情を見ても、思うのはそれだけだ。宰相とか出て来たあたりで、3つ目の話しは聞かなかった事にしたいと思う、それが本音だな。
「続きは?」
話そうとしないユーリウスに続きを促す。
「うむ。」
実はこいつ、促されるのを待ってやがったな、うぜぇ。
「どうやら最近、姫君の様子が変わったらしくてな。」

姫ねぇ。王政の無い日本じゃ姫と言われてもピンと来ないな。新宿や池袋あたりにはそう呼ばれる連中も多そうだが、それはまた別物だしな。
姫なんてものは想像や偶像で美化されるだろうが、現実に存在する姫は所詮同じ人間だ。日本と違って他国には居たりもするが、テレビに映っている限りその域を出るものでもない。
つまり、メイニ程の存在じゃないだろう。
「変わったとは?」
いちいち聞き返さねぇと進まないのかよ・・・
「クローディア姫はもともと利発でいて、とてもお優しい方なのだよ。積極的に内政にも関わっているため、臣下や民衆の信頼も厚い。」
ご立派な事で。
「本来は結婚を考慮する歳でありながら、18になった今でもこの国の為に尽力しておる。」
相手が決まっている柵とか、王族じゃありそうな話だが、この世界でも似たようなものか。
「それの何が変なんだ?」
聞いている限りじゃ、俺には関係の無い話しに聞こえるが。
「そのクローディア姫だが、ゼフトが言うにここ最近になって、情緒不安定になったようだと。」
・・・
笑っていいのか?
何だよ、情緒不安定って。
だがユーリウス自身が至って真面目な表情のため、笑いそうになったが堪えておく。王室内の話しに興味は無いが、今ユーリウスを不快にさせるのは得策じゃない。
「それを何故俺に話す?」

「概ね察しはついているのではないかね?王室で抱えている薬師ではどうしようも無かったのだよ。」
そういう事か。だが察するもなにも、興味が無さ過ぎて考えなかったわ。
「それを、薬で何とかしろと?」
「そうだ。可能か?」
情緒不安定に対する薬ねぇ・・・
正直、必要な薬なら何とかなるかもしれないが、俺は精神科医でもカウンセラーでもないからな、何が必要なのかさっぱり分からねぇ。
つまり、様子を見ないと何とも言えないな。カウンセリングに関しては専門外だが、状況によって落ち着かせる薬くらいは用意出来るだろう。その辺は、エリサ用に製作している効能が役に立ちそうではあるな。
「可能かどうかと聞かれても、その言葉だけじゃ無理だな。」
「どういう事だ?」
「どんな風に不安定なのか、その辺を知らなきゃどうにも出来ないって話しだよ。」
「なるほど、そういうものか。」
そういうものなんだよ。
と言っても、薬に疎いんだから言っても仕方が無い。
「ゼフトからはそれしか聞いていないからな。」
「どんな風に不安定なのか、出来れば詳細が知りたいところだな。」
「それが分かれば可能か?」
「おそらくは。」
はっきりしてない状況に、出来るとは言えない。ただ重度でなければ、ある程度気分を落ち着かせるくらいは可能だろう。

「この件に関しては一度出直すとしよう。場合によっては本人に直接会ってもらった方がいいかもな。」
は?
勘弁してくれよ、面倒くせぇ。
「王城とか行きたくねぇよ。」
「もちろんその時は私も一緒だ。なに、緊張する必要はないぞ。」
そういう事を言ってんじゃねぇ!
行きたくねぇって言ってんだろうが!
「こちらは終わりましたわ。」
アホなおっさんの相手に疲れたところで、メイニとマーレが戻って来る。
「私もちょうど終わったところだ。続きに関しては必要な情報を持って再度来るとしよう。」
いや、来なくていいよ。
前半はメイニに、後半は俺に言うとユーリウスは腰を上げる。
「メイニ殿、今日は助かった。」
「大した事ではありませんわ。」
「この後会議が控えているのでな、申し訳ないが先に失礼させてもらおう。」
「えぇ、お気を付けて。」
「ではリア殿、またよろしく頼む。確認の件に関しては、明日の午後にでも案内しよう。」
新しい店の件は良いとして、姫さんの件は関わりたくねぇな。
メイニと俺に挨拶を終え、店の出入り口に向かうユーリウスの背中を見て思った。

「侯爵殿が居なくなりましたので、次はわたくしの話しを聞いてくださいます?」
店の扉が閉まると、メイニが俺に微笑んで来る。
そう言う事か。
「デートの誘いだな。」
「それはまた今度ですわ。」
体よく流されたな。まぁいい、俺は諦めんぞ!
「で、なんだ?」
「出来れば奥で話したいところですわね。」
「分かった。」
店内で話すような内容じゃない事は用意に想像がつく。そもそもメイニが何かを頼んでくる時は、そういう事が多い。

3人でテーブルに着き、煙管で煙草を吸い始める。
「吸い込む毒はありますの?」
一服したところで、吐き出した紫煙を見ながらメイニが話しを切り出して来た。
気化毒、だろうな。都合よく使える毒ガスなんてこの世界にはないだろう。俺も作り方が分からない。ただ、気化する有毒成分なら可能だろう。
「在ると言えば在る。」
ギルド本部でも作ったからな。ただ、あれは毒殺用だ。メイニが求めているものかどうかは不明。毒と言っても効果は色々あるからな。
「この前作って頂いた一時的に行動を制限出来るような効果を、出来れば広範囲、しかも気付かれる事無く出来ませんこと?」
随分と難易度を上げて来たな。神経毒を空気中にばら撒くだって?
「試してみないとなんとも。」
何に使うか、それはいつも通り興味が無いので聞かない。
「やはりそうですか。」
「ただ、何となく想像は着くんだ。また1週間くらい時間をくれないか?」
「もちろんですわ。」
笑顔で頷くをメイニを見ると良いものだと思えるが、果実も捨てがたい。違うな、女神は全てにおいて良いに決まっている。何時か、その全てをこの手に・・・
「何をしてますの?」
・・・

「では、わたくしはこれで。マーレさんの資材も頼んでおきますわ。」
「うん、ありがとう。」
話しが終わり、店の出入り口までメイニを見送る。
「何か、物騒なものを依頼されたわね。」
「あぁ。」
店内が静かになると、マーレが浮かない顔をして言った。だが、それ以上は何も言って来ない。それは、俺の生き方にまで口を出さないというマーレなりの気遣いなのかもしれない。
しかし、戻って来るなり忙しくなったなぁ。

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