上 下
34 / 70
ギルド本部殴り込み

33.お人好しじゃないんだが

しおりを挟む
「帰ったぞー。」
店の扉を開けて店内に入ると、俺に気付いたマーレが近付いて来た。不安と安堵が混じったような表情で。
「遅かったじゃない。」
「それがさ、検定が1日じゃ終わらなくてな。まぁでも、誤差の範囲だろ。」
「まぁ、そうだけど。」
「何か変わった事は在ったか?」
俺がそう聞くと、マーレは何とも言えない表情をした。何も無ければそんな顔をする必要は無いので、何かあったのだろう。
「実は、マールがホージョのところに居るわ。」
・・・
何を言っているかさっぱり分からねぇ。そもそもマールって誰だよ。
「あぁ、リアの場合興味が無いからマールを覚えて無いのね。」
「うむ。」
「あれよ、アルマディ家の嫡男と言ったらわかる?」
「何であのクソガキがホージョのところに居るんだよ。」
どういう経緯でそうなった。二度と面を拝まなくて済んだと思ったのに。
「正確には嫡男だった、ね。行く当てが無かったそうよ。」
「マーレはそれを許容したのか?」
「納得は行かなくても、囚われていても仕方が無いかなって。ただ、一時的にホージョが預かっているだけだから、リアが出ていけって言えば出て行くと思うわ。」
話しの内容がさっぱり見えない。
この断片的な会話から察しろと言う方が無理だろう。
「まぁ、その経緯は後で詳しく聞こうか。他には?」
「うん。図面が出来たから、本格的に建設に入ろうと思うの。」
「そりゃ良い話しだな。」
「リアの方はどうだったの?」
マーレの話しだけで、こっちの話しはまだしてなかったな。

「エリサ、戦利品だ。」
「おぅ。」
エリサは頷くと、カウンターの上に今回の戦利品をドンと置いた。
「何、その重そうな音・・・」
何故かその光景にマーレは訝し気な顔をする。俺とエリサは荷物から、戦利品を出して並べていくが、マーレの表情は変わらない。
「どうだ。新しい店舗の資金集めがかなり進んだと思わないか?」
「あの、ギルドの話しは?」
そっちか・・・
「まぁ、悪く無い結果だったぞ。後で話してやる。」
「分かったわ。で、それは何なの?」
「何って言われてもなぁ、戦利品としか・・・」
俺は宝石の中から、蒼い手頃な石を掴む。生前じゃサファイアかな、それをマーレに渡す。なんとなくイメージだが。
「やるよ。」
「うん、ありがとう。で、戦利品の意味が分からないんだけど。」
「帰る途中にさ、ゴブリンの襲撃に遭ったんだよ。」
「えぇ!?大丈夫だったの?」
驚く事でもないだろう。この世界じゃ在る可能性だし、俺とエリサは無事に帰って来ているんだから。
「まぁ、返り討ちにした。ついでにアジトに乗り込んでこれらをぶんどってきた。」
「そういう事・・・」
その話しをすると、マーレはあまり良い顔をしていない。
「道徳の話しや禅問答なら聞かねぇぞ。」
「そんなつもりは無いわ。ただ、自分の中にある葛藤をどうしようかなって、それだけ。私だって今更そんな事を口にしようなんて思わないわよ。」
「そうか。」

それに関しては自分で決着をつけてもらうしかないな。しかし、俺に感化された部分はあるんだろう。それが良いか悪いかは、俺には分からないし、本人が決める事だからな。




気が進まない。
いや、気が乗らない。
ん?気が向かない?
何でもいいが、はっきり言えば酷く面倒くせぇ。それだ。
「早く入ったら?」
「あ、あぁ・・・」
俺はマーレに促されギルドのアイエル支部に入る。別にギルドに入る事に対して躊躇っているわけではない。問題はその後だ。
それが、マーレが一緒にいる理由でもあるのだが・・・

昨夜、マーレと話してクソガキがホージョのところに居る理由は把握した。事情を聞かずに預かっているホージョには感謝しているが、余計な事をと思わない事もない。
俺に振られても困る話しだが、マーレがそれで納得するんであればそれはそれでいい。お互い何処かで妥協する必要もあるだろうし、それが生きるという事だろう。
その辺をあのクソガキが受け止めるなり理解出来ないのであれば、これ以上は関わるつもりはない。とは言え、一度は顔を合わせて話す必要が出て来たわけだ。
だから、ギルドに顔を出した後にそのままホージョのところに行く事になったのが現状だ。

ちなみに、俺のギルド話しはあっさり終わらせるつもりだった。特に、ユアナの事には触れずに話そうとしたのだが、クソ犬が調子に乗って話したため、疑わし気な視線を向けられる結果になった。
いや、俺の自由だろそこは。

「あ!リアちゃん久しぶり。結果はどうだった?」
ギルドに入るとすぐ、こっちに気付いたサーラが駆け寄って来る。だから走るな!
久々に見た伝説の武器は、やはり伝説と言うだけあって破壊力は凄まじかった。あれはやはり、凄いな・・・
「あぁ、まぁまぁ?」
「見ろ!」
俺が勿体ぶる横で、得意げにギルド証を出すエリサ。
「凄い!58じゃない!アイエル支部で50は前に話したけど、それ以上は居ないのよ。」
「ふふん、あたしを奉るがいいぞ。」
本人が楽しそうならそれでいいか。いっその事、登録はエリサだけにして俺は抜けるってのもありだな。
だがエリサの能力を維持するには、薬の提供を断つことは出来ない。58で得意げになっているが、それは俺が協力した結果だ。まぁ、薬の提供自体、ギルドに所属している必要は無いってだけの話しだが。
もしエリサが有名になり、狼化が薬の効果だと知れれば、当然作った俺にも目が向いてくるだろう。それも一つの方法だな。
「で、肝心のリアちゃんは?」
そんな事を考えていると、早く出せと言わんばかりにサーラが目を向けて来る。

「え・・・それ、本物?」
俺が渋々新しいギルド証を出すと、サーラは戸惑いながら聞いて来る。失礼だろうが。
「じゃ、偽物でいいや。俺は今日限りでギルドを辞める。」
「待って待って冗談!冗談だから!」
背中を向けた俺の腕を慌ててサーラは掴みに来た。
・・・
何という重厚感!
俺の腕の骨が圧迫骨折しそうだ。
伝説の武器が、俺の腕をダメにしようとしているじゃないか!
やはり伝説級ともなると、破壊力が違うな。
「そのギルド証、マスタークラスしか持ってないと思ってたのよ。」
知るか。
「うちのマスターが持ってるんだけど、それ以外で見たのが初めてだから、動揺しちゃったの、ごめんね。」
俺も伝説の武器に攻撃されて動揺してます!
「しかも93って、規格外なんじゃない?うちのマスターでさえ70なのに。」
「50までしか居ないって言ってなかったか?」
「それは依頼を受ける登録者の話しよ。運営に加わった時点で意味が違って来るの。」
ふーん。
凄くどうでもいい。
「今はいい加減なおっさんにしか見えないけどね、昔は凄かったらしいよ。」
俺は昔からそうだった方に1票だな。

「で、もちろん辞めないよね?この支部に永久登録よね?」
何をどさくさに紛れて永久とか入れてんだこの女・・・
「どうすっかな。」
「意地悪言わないで。ある程度なら優遇するし、ね?」
そこまで言われたんじゃしょうがねぇ。
「その伝説の武器を掴ませてくれたら痛っ!!!」
「やめなさい。」
うぜぇ。
俺がどうしようとお前には関係ないだろうが。今度マーレが居ない時に個別交渉するか。
「まぁ、今のところは辞めるつもりはねぇ。」
「良かった。」
いつか伝説の武器を手にするその日までは。
「あ、それとね、薬の依頼が結構来てるのよ。」
「じゃ、ついでに受けておくか。そういや俺も、預かっているものがあったな。」
ユアナから渡された封書の事を思い出し、サーラに渡す。
「あ、ありがと。ちょっと待ってて。」
カウンターの奥へ消えていくサーラを見た後、目線をマーレに移す。
「依頼、受けたらホージョのところに行くか。」
「うん、それでいいよ。」
「あたしも何か、依頼受けようかな。」
シャドーボクシングの様な動きをしながらエリサが言う。実際には殴るのではなく、爪で引き裂くような動きだが、やっている事はそんな感じだろう。
多分、それなりのランクになって凄いとか言われたから、調子に乗ってんな。

そう思ってエリサに呆れた目を向けていると、視界の端に何かが映った。それは2階の通路からこちらを見下ろしている。
(なんだ、あのおっさん・・・)
訝し気な視線を送るとにっこり微笑みやがった。
俺、狙われてる!?
「これからもよろしくねぇ!」
だが、おっさんはそれだけ言うと親指を立てて奥へ引っ込んで行った。
・・・
分かった。
多分、あれがこのアイエル支部のギルドマスターに違いない。なんか、いい加減な感じがするからな。
「誰?今の。」
「知らん。」
確証は無いから知らない事にしておく。
「そうなんだ。」
「初めて見たからな。」
「あれぇ?今マスターの声がした気がするんだけど、居た?」
マーレと会話をしていると、奥から戻ってきたサーラが一瞬2階を見上げ、こっちに向き直って聞いて来る。
「いや、見た事ねぇし。」
ただ、さっきのおっさんがギルドマスターである事は確定した。
「あれ、そうだっけ。まぁいいか。」
サーラも大概適当だよな。
「なぁサーラ。あたしも依頼受けたいぞ。」
「ごめんねエリサちゃん。退治とか、その類は割と捌けるのよ。だから今は無いの。」
「むぅ、残念だぞ。」
無いものは仕方が無いな。しかし、あれだけ押し付けて来ていたドラゴンは終わったのか?
「はいこれ。纏めておいたから、用紙ごと持って帰っていいよ。期限の早いものから終わらせてくれると助かるかな。」
「分かった。」
俺は用紙を受け取ると、エリサとマーレを促して出口に向かう。ドラゴンに関しては藪蛇になりそうなので、口にはしない。
「あ、討伐と言えばあれがあった。」
聞こえない。
無視。
「むぉ・・・」
サーラの発言に振り向いたエリサを掴んで、俺はギルドを後にした。





(久々に見たが、やっぱおもしれぇ。)
うんこ座りで煙草を吹かしているホージョ達が目に入ると、ふとそう思った。その場所に近付いていくと、やがてホージョ達も俺たちに気付いて振り向く。
「おぉリア殿。久しぶりだな。」
「そっちも元気そうだな。調子はどうだ?」
「うむ、変わらずだ。畑の方も問題は無い。」
「そりゃ良かった。」
周囲を見渡しながら、挨拶を交わす。だが、俺の視界にあのクソガキは映らなかった。逃げ出している可能性もあるわな。
「逃げた方に1票。」
「賭けにならいわよ。」
マーレの方を向いて言ってみたが、考えは同じらしかった。
「何だ、マールなら畑の雑草処理をしておるぞ。」
居たのか・・・
話しを聞いて察したホージョが、ご丁寧に言ってきやがった。出来れば会いたくなかったんだがな。
「どんな感じだ?」
「飲み込みが早いし、そつなくこなしておる。まだ子供とは思えぬほどだ。」
・・・
まぁ、中身は大人だからな。そりゃ要領は良いだろうよ。
「へぇ。我儘言ってねぇか?」
「ふむ。特に文句も言わず自分からよく動いておる。」
どういう風の吹き回しだろうな。俺が追い返した時は、まず変わる事はないだろうと思っていたんだが。家を追い出された事によって、危機感でも感じたんだろうか。

「何か企んでんのかな?」
「知らないわよ。興味もないし。」
マーレに聞いてみるが、さっきから反応は冷たい。まぁ、気持ち的にそうなってしまっても仕方の無い事だとは思うが。
「マーレ殿の言葉が、響いたのではないか?」
マーレの言葉?
「何か言ったのか?」
ホージョが言った事に疑問を感じ、マーレに聞いてみる。おそらく、俺が居ない時の話しだろう。確かにきっかけがあるとすれば、クソガキが此処に現れた時だろうからな。
「別に、大した事は言ってないわ。私の苛立ちをぶつけただけ。」
ふーん。それならいいが。
なんだかんだ言っても、マーレも葛藤しているんだろう。基本真面目だからな、相手を突き放すような態度にはなりきれないんだろう。その辺が、余計葛藤を生むんだろうな。
「あ、姐さーん!」
人が真面目に考えている時に、余計な邪魔が来たな。
「って近ぇっ!!」
「ふぎゃっ・・・」
振り向いた瞬間、目の前にブタっ鼻があったので全力でひっ叩いた。危なくフライングハグを食らうところだったぜ。
「流石姐さん、良い拳だったぜ。」
地面に叩き付けられたシマッズは、短い親指を立てながら息を引き取った。俺はただの平手打ちをしただけなんだがな。

アホなやりとりをしている間に、視界につまらないものが入る。少し距離を置いて、俺とは目を合わせようとしないのは、後ろめたいからなのか、気に入らないからなのか、恥ずかしがり屋なのか・・・は、ねぇな。
「姐さん、マールに用であるんすか?」
俺がクソガキの方を見ていると、生き返ったシマッズが聞いて来る。
「さぁ、あるとすればあいつの方なんじゃねぇか?」
「え、どういう事っすか?」
だよな。シマッズにそんな事を言っても伝わらないよな。
「連れて来た方がいいっすかね。」
「いや、あいつの問題だから余計な事はすんな。」
「うっす。」
シマッズは敬礼の様な仕種をして言うと、ホージョ達の方へ走っていった。混じってうんこ座りで煙草を吸い始めるのを見ると、俺も吸いたくなったので煙管を取り出す。煙草を詰めて火を点けたところで、クソガキは意を決したように俺の方を見た。

「すいませんでした。」
クソガキは真っ直ぐに俺に近付いて来た後、腰を直角に曲げて言う。はっきりとした言葉は、以前の我儘さを感じない。
「ふぅ・・・何がだ?」
その言葉だけじゃ、何も伝わらない。そんなのは、言ってないのと同じだ。だから、俺は紫煙を吐き出して聞き返す。
「僕は、何もかも上手く行かずに、いっそみんな死んでしまえばいいと思っていた。」
もうその話しに興味はねぇんだがな。
「あの日、誰でも良かった。自分が殺されるまで、手始めに僕を振った茉莉から・・・そう考えた。そんな自分勝手な思いで巻き込んでしまって、ごめんなさい。」
・・・
そういう人間も居るには居るさ。不器用と言えば聞こえはいいが、出来ないのとやらないのとでは意味が違う。今話しているこいつは、後者だろう。
「あれからずっと考えてみた。何故自分がそうしてしまったのか。周りの話しを聞いてなかったんだ。僕は自分がどうなりたいか、どうして欲しいかの思いが優先してしまっていた。周りは、そんな僕でも手を差し伸べていたのに、僕には見えて無かった。」
ま、今更だな。
「生前の話しはいいさ。死んじまってんだから、何をどうこう言ったところで変わりはしない。俺にとっても今更だし、気にしても仕方がねぇからな。」
「・・・こっちに来ても同様だった。生前と何も変わらないから、生前と同じ様に見放されて当然なんだと。そして、また同じ事をやりそうになった。」
まだ続くのかよ。
「僕は、こっちに来ても、結局二人に迷惑を掛けてしまった。本当にごめんなさい。それでも、二人は僕の過ちに気付かせてくれて、今こうして話しを聞いてくれている。だから、もう一つ言わせてください、ありがとうございます。」
・・・
いや、変わり過ぎだろう。対応に困るわ。
「俺は何もしてねぇよ。マーレに言われたから考えたんだろう?だったら、礼を言うならマーレにちゃんと言え。」
「はい。」
鼻を啜る音も、泣き声になっている事も分かってはいるが、俺は気を遣ってやる気はない。
「まぁ、こっちに来てからの謝罪だけは受け取っておく。生前のは要らねぇ。」
終わった事に拘っても面白くねぇし。

「で、終わりか?」
「いえ、これは僕の我儘ですが、行くところがありません。頼るところもありません。僕の態度が招いた結果なのは分かっていますが、助けて欲しいです。」
随分と素直な事で。
が!
男を増やしてもしょうがねぇ。まぁ、こいつが女だったら良いのかと聞かれると、少女にも興味はねぇな。
「そうだな。マーレにちゃんと伝えて、マーレが良いと言うのと、今預かってくれているホージョ達にも話して、納得してくれるなら居てもいい。」
「分かりました。」
「家は手狭だから住むなら此処だ。もうすぐ新しい工場を建てるから、人手も居るしな。お前がそれで納得出来るなら、二人と交渉しろ。」
「ありがとうございます!」
・・・
逆に気持ち悪いな。
あれだけ自己顕示欲の強かった奴が、ここまで素直になると。

まぁ、本人が変わろうとしているところに、水を差してやる必要はない。
「俺はもう話す事もねぇぞ。」
「本当にすいませんでした。」
「もういい。早く二人と話して来い。」
「はい。」
何時までも居られちゃ疲れる。俺は言って追い払うと、既に消えていた火種を地面に落とし踏む。新しい葉を煙管に詰めると、火を点けて大きく吸い込んだ。
(余計なもん拾うなんて、俺もお人好しだな・・・)
マーレとホージョは、嫌と言わないだろう。そう思いながら、空に向かって紫煙を勢いよく吐き出した。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界薬剤師 ~緑の髪の子~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:178

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:603pt お気に入り:9,823

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,139pt お気に入り:3,822

迷宮都市の錬金薬師 覚醒スキル【製薬】で今度こそ幸せに暮らします!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:2,978

無能な癒し手と村で蔑まれ続けましたが、実は聖女クラスらしいです。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:7,089

天使志望の麻衣ちゃん

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:1

異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,604pt お気に入り:567

処理中です...