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ギルド本部殴り込み

32.そんな怖がる必要は無いんだが

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「あたしの見立てだと、ご主人は53だな。」
下がるわけねぇだろ。
翌朝、ギルドに結果を聞きに向かっているところで、エリサが言ってくる。どうしても自分より下にして、銀貨が欲しいらしい。
「もう勝負は着いただろ。」
「今日の最終結果で下がるぞ!あたしには分かる。」
・・・
そういう事を言っている時点で分かってねぇだろうが。未来が分かるなら、そんな希望的観測な物言いはしない。
「ほう、じゃぁ掛金を上げるか?」
「い、いや。あたしは、今のままで十分だぞ。」
アホ犬。
目を逸らして言うエリサに冷めた視線を向けておく。

「そんな事より、結果が出たら今日中にロエングリまで戻るぞ。予定よりも滞在期間が長くなっちまったからな。」
「え、もう戻るのか?もう一泊くらいしたいぞ。」
何を言ってやがんだ。遊びに来ているんじゃねぇっての。
「もう用はないだろうが。」
「せっかくただで美味しい晩御飯とふかふかのベッドに寝れるのに。」
それが理由か。
確かに環境は悪くないが、俺としては店も心配だし、なによりあの店が自分の居場所で落ち着くという事に、今更ながら気付いた。やっぱ、離れてみないと分からない事もあるよな。
「そうか。」
「分かってくれたかご主人。」
「あぁ。お前は残っていいし、アニタには飯が不味いと言っていたと伝えておくよ。」
「なっ!酷いぞご主人!」
酷くは無いだろう。
「俺はエリサの気持ちを汲んでやったんだぞ?」
「それ、絶対嘘だぞ。」
嘘も何も、残りたいという気持ちを優先してやっただけじゃねぇか。
「残りたいと言ったのはエリサだろう。俺はその思いを大事に思ってだな・・・」
「あたしも帰る!」
我儘な奴だな。

そんな会話をしながらギルドに着くと、早速カウンターに向かう。先に出ていたユアナが、既にカウンターの奥に座って業務を開始しているようだった。
「出てるか?」
「えぇ、出てるわ。」
良かった。これで漸く帰れるぜ。
「聞きたい?」
・・・
それを聞かなかったら俺は此処で何をしている事になるんだよ、アホか。
「大丈夫、胸と尻のサイズは一緒に寝て把握したから。」
「ちょ、何馬鹿な事言ってんの!?」
くだらねぇ質問するからだ。
「あたしもしたぞ!」
お前はする必要ねぇだろ、クソ犬。
「そういう事は、外で言わないの!」
多少頬を赤らめながら言うあたり、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「そんな事より結果でしょ!」
いや、お前が自分で蒔いた種だからな。さも俺が悪い様に言いやがって。

「で、いくつなんだ?」
聞く俺に対し、ユアナは若干頬を膨らませながら手元にある書類を確認する。
「53だわ。」
「バカな!?」
なんでそんなに下がるんだよ!そう思いながらエリサの方を見ると、満面の笑みを俺に向けていた。このクソ犬。
「あたしの勝ちだぞ。」
「あぁ・・・」
得意げに言うエリサに蹴りを入れようかと思っていると、ユアナが声を漏らす。今度はなんだよ。
「今のは冗談。仕返しよ。」
「受付のする事じゃねぇだろうが!」
仕返しよ、じゃねぇよ。ふざけんな。大体仕返しってなんだよ、自業自得だろうが。
「それくらいいいじゃない、友達でしょう?」
誰がいつ友達になったよ・・・
待てよ、一緒に寝たんだから友達はすっ飛ばしたんじゃないか?
「そうだな、ベッドの中じゃ・・・」
「その話し、続くの?」
舞い落ちる前髪が視界の隅を横切った。都合が悪くなると短剣を出す癖は止めた方がいいと思うんだが。
「いえ、続きません。」
だから男が出来ないんだろうって言いたかったが、こんな事で命を危険に晒す阿呆はしたくない。一度死んだ身だから、好き勝手に生きて死ぬ分には問題無い。そういう運命だったんだと思える。
が、口は禍の元じゃないが、滑らせて死ぬなんて間抜け過ぎて嫌だ。

「もう、話しが進まないじゃない。」
誰の所為だと思ってんだよ!
短剣を仕舞いながら言うユアナに細めた目を向けたが、気付いてはくれなかったようだ。
「で、本当の結果は93よ。」
ふーん。
あっそ。
100行ってねぇんだ。
勿体ぶられて聞かされた結果は、なんの感慨も無かった。まぁ、正直ギルドのランクなんてもともとどうでもいいしな。
「驚かないのね?」
「いや、興味が無さ過ぎて。」
「ご主人、ずるしただろ!」
うっせぇクソ犬。
今じゃねぇだろ、黙ってろ。
「えぇ!?90超えって、多分居ないわよ、私の知っている限り。私は凄い驚いているんだけど。」
「と言われてもねぇ、実感も無いし。」
だからなんだって話しじゃねぇか。金が貰えるわけでも・・・いや、依頼が増える事には繋がるかもしれないな。
「つまりこの勝負は白紙だぞ。」
なるかバカ犬。
「こうなったら、本部の近くに住んだ方がいいんじゃない?きっと色んな所から目を付けられるわよ。」
それは、ちょっと勘弁して欲しいな。
「いや、誰も気付かないだろ。」
「ギルドには登録されるんだから、ギルドに所属している人はもちろん、利用する人にも分かるわよ。」
それか、だったら登録抹消してもらうか。
「むしろ不正をしたんだから、ここはあたしの勝ちだ!」
「さっきからうっせぇぞクソ犬!」
「ふぎゃっ・・・」
「それに勝ちは勝ちだ、帰ったらきっちり銀貨10枚払わせるからな!」

まぁ、暫くは様子を見るか。
蹴られた尻を不満そうな顔で摩るエリサを見ながら、無理に今抜ける必要は無いなと考える。
「とりあえず、家に帰るわ。」
「そう、残念だわ。」
確かに、あの胸と尻から離れるのは残念ではあるが、やはり自宅が一番落ち着く。それに、向こうにはメイニも居るしな。
「まぁ、そのうちまた会う事もあるだろ。」
「そうね。おそらく要請が出る可能性もあるわ。それと、これ。」
ユアナは言いながら、俺に封筒を渡してくる。
「なんだ?」
「結果よ。リアちゃんが所属しているギルドに提出して。本部からの証書じゃないと、更新されないわよ?」
あぁ、そういう事か。面倒くせぇ。そんなもの、ギルド内で回せよ。渋々受け取りながら内心で悪態をついておく。どうせ無駄だから。
「それともう一つ、新しいギルド証。」
「新しい?」
「そう。通常は更新制だから、エリサちゃんのは更新したのよ。でも、70を超えるとギルドとしての扱いも変わるのよね。」
へぇ。
金はくれないけどな。
これが新しくなった事で、メリットなんかあるのか?
「何処のギルドに行っても、そのギルド証を見せれば優遇されるし、依頼も優先して回してくれるのよ。ギルドの施設も自由に使えるし、提携しているお店で割引もされるわ。」
生前にあった何とかカードみたいだな。どこのカードも似たようなものだったが、人の考える事なんて何処の世界も似たようなものかもしれない。

「それじゃ、世話になったな。」
「え?もう行くの?」
書類とギルド証を受け取ると、俺はユアナに挨拶をした。
「用も無いのに居てどうすんだよ。今日中には港まで行っておきたいんだ。」
「そう、よね。検定、受けに来ただけなのよね。」
「何を当たり前な。」
何を言ってんだと苦笑しながらユアナを見ると、その顔はどこか寂しそうな表情に見えた。
「短い間だったが、楽しませてもらったよ。」
「あたしも!」
「ねぇリアちゃん。」
「ん?」
「・・・いえ、何でもないわ。また遊びに来てね。」
何か躊躇うような表情だったが、吹っ切るように笑顔になるとユアナは明るく言った。何を言いたかったのか、想像出来なくもないが、想像の範疇を出ない事も確かだ。故に、相手が言わないのであればその行為自体は無駄な考えだ。
「そのうちな。」
と、挨拶したところで、オウルフが現れる。ギルドマスターがただのギルド員をわざわざ見送りとも思えない。単に鉢合わせただけだろう。

「リアと言ったな。」
が、そうでもなかった。いやぁ、俺はおっさんに興味はないんだがな。さっさと帰らせてくれよ。
「嫌だ。」
「まだ何も言ってないが?」
話しかけられた事に即答すると、オウルフは不機嫌そうに首を傾げる。
「此処に残る気は無いか?とか、そんな話しじゃねぇのか?」
「なるほど。そうだったが、その気が無いのは分かった。」
やっぱりな。でもまぁ、話しの通じる相手で良かったよ。
「ではそのうち、薬の在庫が少なくなったら使いを出そう。」
「分かってるさ。」

「よしエリサ、行くぞ。」
「うん。楽しかったな。」
まぁ、それなりには。口には出さずそう思うと、今度こそ俺はギルド本部を後にした。最後にユアナに挨拶をしようと思ったが、顔を見てしまうと何かを察してしまう可能性もあったから止めておく。






相変わらずケツが痛ぇ。だが、何度も乗ると慣れるのだろう、眠くなってくる。馬車と言っても幌も無い安い馬車だが、座布団の下に藁か何かが敷いてあり、衝撃は結構吸収してくれている。
その所為か、隣では俺よりも先に眠りに落ちているクソ犬が居る。
まぁいい。
俺も眠かったので、どうでも良かった。

が、快楽の惰眠へと落ちる直前、馬車の急停止で強制的に現実に引き戻された。が、エリサはまだ眠っている。
「なんだよ急に。」
俺は御者の方に向かって不満を口にするが、御者はこちらを見ようとしない。背中を向けているため、表情は分からないから、何が起きたのか想像もつかない。
「運が悪かった・・・」
少しすると、御者は言って蒼白な顔を俺に向ける。
「何がだ?」
「滅多に無い事なんだ、ここで襲われるなんて事は・・・」
あぁ、何か現れたのか。
俺は立ち上がって馬車の前方に目を向ける。
「なんだ、ゴブリンじゃねぇか。」
馬車の行く手を塞いでいる十体ほどのゴブリンが目に入った。御者の反応を見るに、普通は恐れる相手なんだな。
「そうだ。奴らは小賢しい上に数で蹂躙してくる。儂なんかは殺されて終わりだが、嬢ちゃん達は連れていかれるぞ。すまんな・・・」
あっそ。
そういうのは人間にも居るから、どうでもいい。それにやられるつもりもない。
「おいエリサ。」
「なんだご主人、ご飯か?」
呼ばれてゆっくりと起き上がるエリサが、眠そうな目を俺に向けて来る。
「ご飯の前に準備運動だ。」
俺は言うと、前方を指差す。
「あ、ゴブリンか。」
「そうだ。今こそランク58の実力を見せる時だぞ。」
「えぇ、だったら93のご主人がやればいいぞ。」
「あのなぁ、俺のランクはは薬の知識だけなんだよ、戦闘なんか出来るわけねぇだろうが!」
「く、苦しいぞご主人・・・」
首を掴んで揺さぶりながら言って離す。
「でも、ご主人がやられたら、あたしは銀貨10枚を払わなくていいな。」
その程度の浅慮が俺に通じると思ってんのか。
「ついでに住む場所も、今後銀貨を貰える機会も無くなるがな。」
「よぅし、戦うぞ!」
アホ犬・・・

「な、何をする気だ?」
やる気満々で馬の前に跳躍して着地したエリサを見て、御者が不安を口にする。
「あんたも死にたくはねぇだろ?」
「そりゃ当たり前だが、嬢ちゃん達じゃ敵わないぞ。」
「見た目で判断するなって。」
俺は言いながら鞄から薬を取り出す。
「エリサ、1体残して殲滅な。」
「分かったぞ。」
薬を投げながら言うと、エリサはそれを銜えて笑みを浮かべて頷いた。その後に薬を噛んで、やがて狼化が始まる。
「な!?わ、ワーウルフまで!」
その姿を見た御者は、慌てふためく。
「心配するな。見てろ。」
エリサの姿が霞み、遅れて土煙が舞い上がる。ものの数秒だろう、1体を残して残りのゴブリンが引き裂かれたのは。バラバラになった四肢が血煙を撒き散らしながら散らばっていく。
「嬢ちゃんたち、何者だ?」
その光景を見ていた御者は、驚愕の表情を俺に向けて来た。
「一応、ギルド所属。」
「いやでも、その歳でってのもあるが、ここまで強い冒険者の類は見た事がないぞ。」
へぇ、出会ってないだけかもしれないがな。
「ご主人、こいつどうすんだ?」

エリサが捕らえた1体に俺は近付く。それはアジトまで連れて行かせるためなんだが。
「面倒だぞ。」
「だがこいつら、人から金品盗るんだぜ?拠点に行けば持ってると思わないか?だったら取り返してやらないと。」
と言うが、エリサの嫌そうな顔は変わらない。
「あたしが取り返してやる理由はないぞ。」
「何言ってるんだよ、取り返したものは俺らの物になるんだぜ?」
俺は言ってニヤリと笑って見せる。
「そういう事か。ご主人は悪だな。」
というエリサも口元が緩んだ。
「今更何言ってんだよ。」
「じゃぁ、戦う分あたしの方が多く貰うぞ。」
「あぁ。エリサが6、俺が4でどうだ?」
「えぇ、あたしが7!」
ふざけんなこのクソ犬。
「お前なぁ、誰が旅費を出してると思ってんだよ。少しは遠慮しやがれ。」
「むぅ、そういう事なら、6で我慢する。」
「よし、決まりだな。」

「おっちゃん、ちょっと待っててくれ。」
話しが決まると、俺は御者のおっさんに大きな声で言う。が、嫌そうな顔になった。
「いや、此処でか!?」
不安そうな顔で周囲を見ながら御者のおっさんは声を上げる。
「あぁ。すぐ戻るから。」
「本当か?本当にすぐ戻るんだな?」
「勿論だ。俺だって長居はしたくねぇからな。ちょっとエリサのうんこに付き合うだけだ。」
「あたしは乙女だからうんこなんか出ないぞ!」
「という事だ、察してくれ。」
「あ、あぁ・・・」
未だ不安の消えない御者を残し、俺とエリサはゴブリンを脅してアジトまで案内させた。



「待たせたな。」
俺とエリサを見かけ、安堵の表情になった御者のおっちゃんに声を掛ける。
「良かった。」
予想通り、ゴブリンのアジトには金目の物がそこそこあったので、その殆どをぶんどってきたわけだ。
「あたし、幸せだぞ。」
その戦利品を見ながら、エリサが涎を垂らしている。食い物じゃなくても出るんだな。
「もう、向かっていいのか?」
「あぁ、頼む。それと待たせた代わりに、運賃は上乗せしておくよ。」
俺は言うと、御者台に小袋を放り投げる。おっちゃんは自分の隣に落下し、金属音を立てた袋を覗き込むと、驚きの表情をした。
「こんなにいいのか?」
「あぁ。取っておけ。」
「もう返さんからな。」
言う前に懐に仕舞い込んだおっちゃんは、上機嫌な表情で手綱を振る。俺とエリサは、おっちゃんの下手糞な鼻歌を聞かされながら、荷物の確認を始めた。
「なぁご主人、これゴミか?」
「ん?」
エリサが手に取っているのは、薄汚れた置物?どうやら石で出来ているが、豚のような生き物に羽が生えた変な置物だった。
どんな趣味でそんなものを造ったのかは不明だが。
「ただの石ころみたいなもんだろ。」
「そうか。」
「あぁ、その辺に転がっている石と変わらないだろ。」
「じゃ、いらないや。」
「邪魔だから捨てておけ。」
「そうだな。」
返事をするとエリサは早速、馬車から道端に向かってその石像を投げ捨てる。他に変なものも無く、金貨銀貨に宝石、骨董品など、悪くない収穫だった。
「よし、今夜は贅沢に行くか。」
「うん、楽しみだぞ!」

夕方近く、ロエングリに到着した俺は、笑顔のおっちゃんに礼を言って別れると、宿屋を確保。それからエリサと良いものを食べるために街へと繰り出した。







-城塞都市フェルブネス ギルド本部-

「あら、早かったわね。」
ユアナはカウンターに現れた冒険者風の数人に気付くと、そう声を掛けた。
「いや、それが・・・」
「随分と浮かない顔ね。依頼は達成できたのではなくて?」
「依頼されたゴブリンの巣窟に行ってみたのだが、既に何者かが全滅させた後だった。状況から見て俺たちが行く少し前だと思うのだが。」
浮かない顔で言う男に、ユアナも怪訝な顔をする。
「おかしいわね、あなた達以外に依頼は出してない筈なのだけど。とりあえずゴブリンの生死は良いとして、聖像は見つかった?」
ユアナの問いに、男はゆっくりと首を左右に振った。
「聖像どころか、殆ど何も無かったんだ・・・」
「まずいわね。依頼主の要求は、その聖像の奪還なのに。」
ユアナは言うと困った表情をし、目的を達成出来なかった数人は無言のまま項垂れた。
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