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争奪戦勃発!?

53.犬が調子に乗ってきたんだが

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「まるで無駄だと分かっていた様な口振りだな。」
気のせいなら気のせいでいいが、やはりオーレルリンデの態度は気になるので確認する事にした。それは、俺が諦めを含んでいるように感じてしまったからだ。
「言ったであろう。儂は、別に好きで殺生をしておるわけではないと。」
だから、向かって来れば殺していたわけだよな。
待てよ。
来れば殺していたという事は、来なければ自分から行う事は無い。自分がやりたくない場合、それをどうにかしようと思った?結果としてどうにもならずに、言葉に諦めが混じった?と考えれば態度に辻褄が合う気がする。
「つまり、オーレルリンデ自らギルドに掛け合ったと?」
「その通りだ。」
何故ギルドに?
まだ合点のいかない部分があるな。ギルドがそういう場所だと分かっていたなら、ギルドに話しに行くのも分かる。
「何度も交渉はしたのだ。」
何度も?
ギルドはギルドの為にオーレルリンデの討伐依頼を利用していると言っていた。だからギルドが受け入れなければ、確かに継続はされるだろう。
オーレルリンデの被害が無いと分かれば、討伐依頼を何時までも残しておく必要はない。だが、サーラ曰く竜の良し悪しは関係無いと言っていたな。
そもそも、オーレルリンデが存在するだけでギルドは討伐依頼を出したのか?その後の経緯は聞いたから知っているが。
「ギルドは何故討伐依頼を出したかだな・・・」
「・・・」
俺はオーレルリンデを見て疑問を口にしたが、返事は無い。だが、金色の瞳は俺に向けられたままだ。おそらく、何か意味、若しくは意図があるのだろう。沈黙は察しろって事か?

ただ、何となく予想は付いてきた。
「ギルドが討伐依頼を出す事、あんたは知っていたんじゃないのか?」
竜という存在は危険だから、ギルドはそれを排除している。そういう名目が出来上がっていて、人間の中では周知の事実となっていれば問題無い。
が、ギルドの方針として危険に対する予防、若しくは既に起きた事に対し依頼を受けて、出している気がする。今までの依頼だってそうだったし、そうじゃなければホージョ達やシマッズがここで暮らす事など出来ない。
「その通りだ。」
となると、ギルドとオーレルリンデの間に、依頼が出される前に何かしらの会話があったと考えるべきか。
「おおよそ、リアが想像する範疇だろう。」
「取引か?」
「否、人間側からの頼みごとにすぎぬ。」
取引ではなく、ギルド側からの頼みを聞いただけ?オーレルリンデにとって徳は無かった?
「無償奉仕なんてするのか?」
「いや。」
そこはもうオーレルリンデが何を思って引き受けたになるから、想像がつかないな。
「儂自身、人間が嫌いではない。長い生の中で、頼みの一つも受けようという酔狂があったとて不思議ではあるまい。」
・・・
「付け込まれただけじゃねぇか。」
「悪く言えばそうだ。」
思った以上にギルドは黒だったな。逆にオーレルリンデは予想に反して、かなりお人好しだ。
「何故怒らない?」
「儂が力に訴えれば、どれだけの被害が出るか想像に難くないであろう。」
まぁ、そうだけどさ。だからと言って黙ってる必要も・・・って、何度も話したと言っていたか。だったらもう実力行使に出るしかねぇよな。

「俺は納得出来ねぇ。意地でも依頼を取り下げさせてやる。」
話しを聞いてしまった以上、納得できないものは放置しておけない。俺の気が済まないからだ。この思いを抱えて生きるくらいならやりたいようにするさ。
「何故リアがそれをする。」
「俺自身のためだから気にする事はねぇ。オーレルリンデは山で寝ててもいいぞ。」
ただ、これに関しては力ではどうにもならない。何か策を弄する必要があるな。
単純な話し、ギルドはこの大陸だけじゃなく色んな場所に存在する。もちろん、俺の知らない支部も沢山あるだろう、正面からぶつかってどうにか出来るものじゃない。
「解せぬな、人間であるリアが竜である儂を擁護するのか?」
「だから俺のためだっての。」
どうせメイニの件でギルドは敵に回す事になる。遅かれ早かれこういう展開にはなっていただろうよ。
「だとしてもだ。」
面倒くせぇな。そんなに理由が必要かよ。
「なぁオーレルリンデ。」
「なんだ?」
「俺が今日の事を頼んだ時、躊躇したんだろ?またギルドの時の様にはならないか、罠に嵌められるのではないか。人間に対して不信があったと思うんだが。」
「・・・」
無言は肯定って事にするぞ。
「にも拘わらず、付き合ってくれたわけだ。」
「ただの暇つぶしと言ったであろう。」
ただの暇つぶしで戦闘するなら、ギルドに何度も掛け合ってねぇだろうが。
「そんなお人好しの知人が、嫌がらせを受けているのに黙ってられねぇ。俺がそう勝手に思っただけだ。だから気にするなっての。」
「知人・・・だと?」
気に入らなかったのか、オーレルリンデの目が細められ低い声音を出した。竜と知人なんて烏滸がましいとでも思ったのかは分からないが。

オーレルリンデはその後、工場の方に目を向けて何かを考えているようだった。俺が余計な事を言ったかも知れないが、後悔はしてねぇ。
「ふむ、そういう事か。」
何を一人で納得してやがる、俺にも分かるようにしろ。
「儂が知人で良いのか?」
「なんだ、人間風情に言われるのが不服か?」
「そんな事は思っておらぬ。長き生の中で、儂をそう扱ったのはリアで二人目だ。」
・・・
「あ、昔話は聞かねぇぞ、興味無いからな。」
「・・・」
若干、オーレルリンデは不満そうな目をした。何となく、感情の表現も分かるようになってきたな。
「ただ知人ってもの堅苦しい、普通に仲間でいいだろ?」
「仲間、か。それはそれで面白い、いいだろう。」
・・・
竜か。
やはり俺は持っているな。竜が仲間?地上最強であろう生物の仲間が出来たと考えていいだろう。もしかすると、俺は世界に手を掛けたんじゃないだろうか。
ふふふ、面白くなってきたぞ。一介の薬師だったのに、大分躍進してきたな。

「ところでリンリン。」
「なんだそれは?」
物凄く不服そうな声を出したオーレルリンデ。いやだって、長ぇよ。
「名前が長いから。」
「止めろ。」
うっ・・・
強烈な威圧とともに言われた。本当に嫌らしいな。出来れば、図体のデカい竜がみんなにリンリンと呼ばれる光景を見たかったのだが。
間違いなく笑えたのに。
「だったら、リンデじゃだめか?」
「・・・まぁ、良いだろう。」
あぁ良かった。これで少しは楽になる。
「しかしリアよ、お主はギルドの依頼で来ていたのであろう?生きるのに不都合ではないのか?」
まったく。そういや、リンデのところに行ったのは確かにギルドの依頼だったな。
「取り下げの話しをしたら、依頼が何のためにあるのか聞いたわけだ。その時点で、ギルドは辞めたから関係無し。」
「それで先程の態度か。」
「まぁ、自分が納得出来ない生き方をしたくねぇだけだよ。」
一度死んでるんだから、尚更だ。

「なぁリンデ。」
体力が回復したのか、エリサが跳び起きながら話し掛けた。リンデは無言でエリサの方に首を回す。
「仲間でも、また闘ってくれるか?」
「別に構わん。」
「よし!じゃぁあたし、もっと強くなってみせるからな。」
いやもう、俺の護衛はリンデで十分なんじゃねぇか?と思わないでもないが、街中とか連れて歩けねぇよな。
「それならいっその事、此処に住んだらいいんじゃねぇか?」
畑が襲われる危険がかなり低下する。
「街の郊外に儂が居たら、それこそ恐怖を与えるだろうし、此処が戦場になる可能性もあるだろう。」
まぁ、その通りだよ。
「今すぐには無理だが、関与しないようには手を回す。」
「可能なのか?」
「その王都で一番の有力貴族と知り合いだからな。もう一つ、王室の姫とも知り合いだ。権力にものを言わす。」
「・・・」
お、呆れたか?
「面白い奴よな。では期待しておこう。」
となれば、ディディの問題を解決した後にでも話してみるか。協力しているのだから、無下に断られる事もないだろう。ユーリウスに関しても同様だ。

それが終わったら、メイニの件でいよいよギルドとぶつかる事になりそうだな。

「ところで、火は吐けるのか?」
前々から気になっていた事を聞いてみる。やはり竜と言えばブレス。さっきエリサには息を吐きかけただけだったが、あれが火とかになるのかは知っておきたい。
「馬鹿な事を。何故竜が火を吐くと?その様な事が可能であれば、世界は焼け野原になってしまうだろう。」
・・・
馬鹿呼ばわりされたよ。
竜が火を吐くというのは、やはりファンタジーだったか。
「しかしだ、着火性の気体を体内で生成する事は可能だ。」
いや、それはそれで危ないだろ。
「ただそのためには、石や岩と言った鉱物を体内に取り入れる必要があるのだが、あまり好きではない。」
なるほど。無尽蔵ではないって事か。だが使えない事は無いな、頭の片隅にでも置いておくか。何時何処で必要になるかも分からないしな。その時は、リンデ次第だが協力してもらおう。
「入用か?」
「単なる好奇心だよ。」
「それより、こちらに向かっている人間が見えるのだが、知り合いか?それとも敵か?」
えぇ、面倒だな。
此処に来るのは俺とエリサだけの予定だ、もし向かっているのが人間であれば、竜を見に来たアホか、討伐に来たバカのどっちかだろう。

「あれ、ご主人・・・」
エリサもその人物が目に入ったのか、走って向かって来る奴を指差した。エリサの反応からするに、まったく知らない人物ではなさそうな。
何故あいつが?
まだ遠めなので顔の判別は付かない。が!
猛威を振るっている伝説の武器で判別出来た。やばいぞあれは、ギルド内という屋内制限から解放された伝説の武器は、余すところなく縦横無尽にその猛威を振るっている。
「危険だぞ・・・」
「ご主人が苛めたからな。」
・・・
「何だ、知り合いか。」
・・・
何とも言えないな。
だが危険すぎるな、やはり俺が止めるしかあるまい。出来るか、解放された伝説の武器を抑え込む事が、俺には可能か?
「なにしてるんだご主人、バカみたいだぞ。」
「てめぇにバカって言われたくねぇわ!」
「むぎゃっ。」
人が必死に、両手をワキワキさせながら伝説の武器と対峙しているというのに、バカとは何事だ。

「リアちゃん!」
「ぶぺっ・・・」
ほら言わんこっちゃない。お前が話しかけるから、その間に伝説の武器が飛来して押し潰されたじゃねぇか。
「ごめんねリアちゃん。」
謝るくらいならまずどいてくれ。圧迫と窒息のコンボで昇天しそうなんだが。いやまてよ、ここで死を恐れてはいかん、こっちも攻勢に出るべきだ。それで死ぬなら本望!
そう思うと両手で伝説の武器を横からがっしりと掴んで揉んでおく。くっ、久しぶりだが、やはり重厚感が半端ないぜ。それでいてこの柔らかさ、指が隠れる程埋もれていく。
「ちょっと、何してるの!?」
気付いたサーラが慌てて俺から離れた。もう終わりか。しかし、この戦いは何とか俺の勝利に終わったな。
「苦しかったんだよ。」
「だったら上に押せばいいでしょ!何で揉むのよ。」
「え?揉む以外に方法があるのか?」
「サイテー。」
最低で結構、俺は再び伝説の武器をこの手にしたんだ、悔いはない!
「あれ、ってか怒ってないの?」
「何をだ?」
此処に来た理由は知らんが、何かを思い出したサーラが聞いて来る。胸の事は不問にしてくれたらしい。
「いや、凄い怒って、ギルドを出ていったじゃない。ギルド証も捨てて。」
あぁ、もう終わった事だしな。
「別に。ただ、サーラだってその中の枠組みに組み込まれていただけなんだよな。そこまで考えて無くて、言い過ぎたとは思っている、ごめんな。」
そう言うと、サーラは驚きの表情をした後、目に涙を浮かべた。

「ううん、リアちゃんの言う通りだよ。でも、ありがと。」
まぁ、それならいいが。それよりも。
「まさか、ギルドが討伐にでも来たのか?」
俺はリンデを指差して確認する。サーラとの個人的な事はさておき、問題は来た理由だ。
「え、知らないよ。」
「なんでだよ。」
「だって私、ギルド辞めたもん。」
辞めたもん、じゃねぇよ。さらっと言っているけど、普通に衝撃的発言だぞ。
「じゃ、何しに来たんだよ。」
「竜が見えたから。今なら、リアちゃんに会えて謝れると思って。どんな顔して会えばいいか分からなかったけど、発端になったこの時ならって。」
なんだ、そんな事か。
「だから、私も雇って!」
いやいやいや、突飛過ぎだろ。
「あんな事があったのに図々しいのはわかってるけど。」
「ご主人やったな、仲間が増えたべっ・・・」
そんな単純な話しじゃないから黙ってろアホ犬。
「ユアナを雇っているんだから、私もいいでしょ?」
そういう問題じゃねぇ。
何?ユアナだって?まさか・・・なんて大胆な。俺の体力が持つかどうか。
「つまり、ユアナと俺と、三人で一緒に寝たいって事だな。」
「なに馬鹿な事言ってんの、私は自宅で寝るに決まってるでしょ。」
・・・
あぁ、そうか、そうだよな。サーラはミルスティに住んでいるんだよな。

「現実問題な、人手は足りてるんだよ。雇ってもやってもらう事は無いし、給料も捻出できない。」
ただ、店を拡張したら別だ。新店舗は薬だけじゃなく、違うものにも手を出そうと思っているからな。その時は薬と、それ以外の商品で別れて担当してもらうのは、かなり有りだな。目的が別の客を一人で相手にするには限度があるだろう。
「そっかぁ。」
「でもな、新店舗が出来た時なら可能だ。予定では。」
「ほんと!?それでもいいよ。」
「分かった。その前に一つ覚悟をしてもらいたい事がある。」
「何?」
これは前もって言っておかなければならない。
「多分、ギルドと敵対する。」
「今更だよ。予想はしてたんだ、リアちゃんならそうなるかなって。だから承知で来てる。」
まったく、どいつもこいつも物好きな奴等だな。
「お主といい、エリサといい、愉快な奴等よな。」
そう声を掛けてきたリンデを見ると、どこか楽しそうに見えた。まだ竜の表情は分からないが、そんな雰囲気に感じた。
「まぁな。今度紹介するよ。リンデを見ても、多分物怖じしない奴等だぞ。」
「ほう。それは楽しみにしておこう。」
そのためには、先ず根回しが必要だな。
「やっぱり、仲良くなったんだ。」
サーラがリンデを見上げ、微笑んでそう言った。まるで、俺はそうするだろうと分かっていたような口振りで。

「あぁ。名前はオーレルリンデだ。」
「私サーラ、宜しくね。」
「うむ。覚えておこう。儂はそろそろ山に戻る、長居しては迷惑になり兼ねないのでな。」
サーラが気付いて来た事を考えれば、それが正解か。
「あぁ。話しが付いたら、また山に伝えに行くよ。エリサが。」
「なんであたし!?ご主人が行けばいいじゃないか。」
「あのなぁ、俺がまた山を登れる保証はないんだからな。」
むしろ登りたくない。
「あ、ヘタレだったな。」
このクソ犬!
最近、俺に対する言葉が容赦なくなってきたな。調子に乗るとどうなるか、後で教えておかねばならんな。
「心配するな。麓まで来れば儂から出向こう。」
「お、そりゃ助かる。」
「うむ。ではその時を楽しみに待つとしよう。」
リンデは言うと、足を撓めて首を上空に向けると一気に跳び上がる。その姿はまるで黒い砲弾のように、雲を突き抜け見えなくなった。
「すげぇな・・・」
跳び上がりの際に生じた暴風に乱れた髪を直しながら言う。おそらく、かなり上空を移動して人目に付かないように移動して来たのだろう。この上で旋回したのは、俺たちに存在を知らせるためか。
「むぅ、いつか勝ってやるぞ。」
無理だろ。

「実はね、ギルドに居た時さ、リアちゃん達と話すのが楽しかったんだ。」
どっかで聞いた台詞だな。
空を見上げながら言うサーラの言葉に、そんな事を思った。ギルドの受付は何処か病んでるんじゃねぇのか?まぁ、こいつの弟は別の意味でアレだが。
「あの日、それが壊れる事が悲しかったの。」
ふーん。
そういうのは要らねぇっての。
「また宜しくね。」
「あぁ。」
「サーラはあたしの後輩だな。」
犬は序列に入らん。
「あはは、そだね。」
だが、楽しそうに笑うサーラを見たら、突っ込む気も失せた。
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