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対決、ギルドマスター

58.テーマパークじゃないんだが

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開店前、ユアナがカウンターに売れ筋の薬を並べている。売れ筋と言っても所詮薬だ、毎日幾つも売れるようなものでもない。
「そこは・・・ダメ。」
「まぁそう言うなって。昨夜の続きなんだから。」
柔らかい白い肌の上を、先端の方へ指を運んでいく。
「それ以上は、無理・・・」
「ん?ここで止めていいのか?」
「ん・・・やだ。」
なかなか昨日より粘るじゃないか。だが、そろそろ限界だろう。
「ぐぅ、あははっ、無理!」
「よし、俺の勝ちだな。」
「もう、なんでリアちゃんは平気なのよ。」
「ふっ、ユアナと違って耐久度も人生経験も俺の方が豊富なんだよ。」
「いや、人生経験は私の方が上だけど。」
まぁ、身体の実年齢からすればそうだが、そんな事はどうでもいい。
「それより、窓から誰か覗いているわよ。」
何!?
犯罪だぞ。
そう思って、店の扉の横に設えられている丸窓に目を向けると、冷めた目をこっちに向けている奴が居た。生前なら問答無用で警察に連絡するところだが、生憎こっちにそんなものは無い。

「雁首揃えて何してやがる・・・」
店の扉を開けて、窓の前に立っていたディディとユーリウスに呆れた目を向ける。
「姫よ、姫。もうちょっと言葉の使い方を考えたら。」
と、ディディは自分を指差しながら言うが、そんな事を気にする俺じゃないのは知っている筈だ。突っ込んでやりたいところだが、かまってちゃんの相手をしてやるほど暇じゃない。
「ゼフトの件か?」
何かを期待しているディディを無視して、ユーリウスに確認した。
「うむ。熱も下がり、大分落ち着いたようだ。リア殿に渡された薬が効いたようでな、腹部の痛みも楽になったと言っておった。」
ほう、さすが俺。
当たって良かったぜ。これで恩を売れたわけだな。
「そうか。立ち話もなんだ、続きは中でどうだ?」
「うん、そうする。」
お前には聞いてねぇよ。
「では、お言葉に甘えるとしよう。」
マーレとエリサは朝から建設予定地に行っているから、多少騒がしくても問題ないだろう。ユーリウスだけであれば騒がしくなる可能性も無いんだが。

「で、何をいちゃついてたのよ?」
ダイニングに移動して座るなり、ディディが聞いてくる。おそらくユアナの事だろうが。
「バカ言ってんじゃねぇよ、あれは昼飯を賭けた真剣勝負だ。」
「は・・・?」
なんだその意味が分からねぇって反応は。別に分かってもらう必要も無いから相手にはしないが。
「それでリア殿。」
「ん?」
お茶の用意をしているところに、遠慮もなくユーリウスが話しかけてくる。
「渡された薬だが、予備も含めもう少し欲しいと思ってな。」
「あぁ、そうだな。」
昨日今日分くらいしか渡してなかったな。効果があるかどうかも不明な薬を、数日分渡しても無駄だなと思ったし。
「それを含め、薬代も用意してきたのだ。」
まぁ、それは後で要求しようと思っていたから丁度いい。
「分かった。もともと試してみないと何とも言えなかったから、効果があるならもう少し用意しよう。」
「それは助かる。」
「あたしにもアロマ売ってよ。」
うぜぇ。
「売らねぇって言っただろうが。」
「いや、そうじゃなくてね、普通の方。」
まぁ、それなら構わないが。
いや、待てよ・・・こいつ前に売った媚薬が余っていて、それを混ぜるとかしそうだな。そう考えるとやっぱ駄目だな。
「いや、売らない。」
「何でよ!」
「混ぜそうだから。」
「そ、そんな事しないわよ。」
あ、一瞬動揺しやがった。やっぱり考えてやがったんだな。

「しかしリア殿のお陰で、城の方も大事にならずに済んだ。」
今後の俺にとって、大事になられると損だと思ったからだが、そこは言う必要もない。
「それで、ゼフトからの提案でな、リア殿の薬店を王室御用達にしてはどうかと。」
何だと!?
それはそれで名が売れるから良いのだが、面倒くせぇな。
「お抱えの薬師とは別でな、王室でも使っているという証を渡すだけなのだ。」
あぁ、あれか、ロイヤルワラントみたいなものか。
「良いじゃない、店も大きくするんでしょ。あった方がいいんじゃない。」
まぁ、確かにそうなんだが。
いいのか?
毒物作っている薬屋がそれを持って。
「そうだな、受け取るだけなら良いか。」
良い事にしよう。
「良かった。ではゼフトには了承してもらったと伝えておこう。」
正直、ディディの居る王室の御用達になったからと言って、どれほどの効果があるかは不明だ。むしろ無いに等しいんじゃないかって気すらする。
「さて、用件も伝えた事だし、後は薬を頼む。」
「その前に、俺も頼みたい事があるんだ。」
恩を売ったからには、門前払いなんて事にはならないだろう。
「何だ?」
「1つは、ギルドが出している依頼を取り下げさせて欲しい。」
「それは無理よ。」

話しを聞いていたのだろう。真っ先に店内から声が聞こえると、客は居ないからなのかユアナがダイニングに姿を見せる。
「うむ、それは聞けぬ頼みだ。」
ユアナの言葉に、ユーリウスも険しい顔をして同意した。
「リア殿の頼みならばとも思ったが、私にしろ王室にしろ、出来ぬのだ。」
「どういう事だ?」
国はギルドに手を出せないだと?それだけギルドの力が大きいって事か?
「ギルドは1つの巨大組織であり、国に属しているわけじゃないの。言い換えればギルドそのものが1つの国と言えるわ。」
・・・
おいおい、マジかよ。
「治外法権か。」
「ちがいほうけんとはなんだ?」
ユーリウスを見て言ったわけではないが、疑問の声をあげる。言葉を向けたディディ本人は納得して頷いていたので、それが通じたなら問題ない。
「いや、気にしないでくれ。」
つまり、各地にあるギルドは大使館のようなものか。
となると、いよいよ面倒臭ぇな。これから相手にするのは、ギルドマスターという名の大使であって、派遣しているギルド本部という国に手を出すようなもの。
話しが大きくなってきた気がするな。
「ギルドに手を出したら、本部が黙ってないって事か?」
「うーん、それは違うかな。ギルドマスターは各々の都合でギルドを開いているの。何かあったからと言って、余程の自体じゃない限り本部は動かないわ。」
ややこしいな。
いや、むしろ単純か。だったらそこまで気にする事でもないな。
「分かった、これに関してはこっちで考えるから忘れてくれ。」

「うむ。して、1つ目と言っていたからにはまだあるのだろう?」
どちらかと言えば、こっちが本題だな。
「俺が郊外に畑や工場を持っているのは知っているよな?」
「うむ。マールも厄介になっているからな。」
「あれがないと煙草吸えないもんね。」
そうだろうよ。
「だろ?つまり国として保護してくれよ、あの場所を。」
「え?」
何故驚く、お前が吸っている煙草はそこでしか作ってねぇんだよ。
「え?じゃねぇ、嫌なら別の土地に引っ越してそっちで作るまでだ。」
「違う違う、そうじゃなくて。今だって別に誰かが手を出そうとしているわけじゃないでしょ?」
そうなんだが、当然それが何時までも続くわけじゃない。
「何かの理由で襲われたり、略奪されたりする可能性もあるだろう。」
「確かにな。私も出来ればその方が良いと思います。」
お、ユーリウスが後押ししてくれるなら、行けるんじゃないか?
「そうねぇ、帰って相談してみるわ。あたしは姫だから、一存でどうにか出来るほどの力はまだないし。」
そりゃそうだ。
ってか、まだって言ったか?この女、やはり滅びの道を歩もうとしているんじゃないだろうか。

「しかし、そこまでして護りたいものなのか?場所を移す選択肢は無いように聞こえるが。」
「あぁ。あの畑の先にある広い場所が必要でな。」
「そうなの?」
俺が強大な力を手に入れる場所になるわけだからな。
「あぁ。ドラゴンを置こうと思っている。」
「なんと!?」
「はぁっ!?」
うるせぇ。
二人揃ってデカい声を出しやがって。
「リアってファンタジーを口にするような人だったんだ・・・」
このクソ姫。
「お前は自分の現状を何だと思ってんだよ。」
「あ・・・」
「その、本当にドラゴンなのか?」
信じていないようだな。
「あぁ。もし可能なら迎えに行く事になっているんだ。」
「妄想じゃないよね?」
「しつけぇぞ!」
「だって、信じられないんだもん。実際にこの目で見たら納得できるけど。」
そう言われるとな。
俺も大分この世界に馴染んできたんだろう。大抵の、生前にあったモンスター系は見ても驚かない気がする。
「だから、保護してもらえれば連れて来るっての。」
「なるほど、それで先程話したギルドの内容になるのだな。」
さすがユーリウス、理解が早い。が、アホ姫は首を傾げているだけだ。

「そうだ。郊外に棲息しているという理由で危険視され、討伐隊とか出されても困るからな。」
「あ、そういう事ね。」
ディディもそれは理解してくれたようだ。
待てよ、ギルドが国の管轄外という組織ってのは、むしろ都合が良い気がして来たぞ。
「国が管理している土地に対し、ギルド側は勝手に手を出す事は可能か?」
「無理よ。」
やはり。
そこはお互いに関与出来ない部分なんだな。元本部勤めのユアナがきっぱりと言ったのだから、間違いはないだろう。
「となれば、あの土地を王室の管理下に置いてもらえれば、ギルドが手を出す事は出来ないよな。それに、王室の管理下であれば、ドラゴンが居ても住民の不安はそこまで高まらないだろう。」
「なるほど、管理下という点で考えれば、確かにそれは可能だな。」
なんか引っ掛かる言い方だな。
「あたしの土地にすればいいのね。」
・・・
「搾取か?」
「別にリアの土地でもないでしょ。」
そうだけどさ。
もっとも、誰のものかも分からないが。
「普通に考えてもらえば当たり前の事だが、個人所有でない土地、及び貴族管轄外は国有地なんだが。」
・・・
なんてこった。そんな当たり前の事に考えが至らなかったとは。それでさっき、引っ掛かる言い方をしたわけだな。
「今はその、リア殿やその友人が利用してはいるが、国で利用予定が無い場所については余程の事が無い限り関与はしない。そこまで人手を割く余裕もないのでな。」
なるほど。
つまり、今は放置状態なわけだ。そこで管理下という言葉が意味を持ってくるわけだな。
「その辺を明確に表示すれば良さそうだな。」

「じゃ、絶滅危惧種保護区とかにしようか。」
あのな。
「姫様、その絶滅きぐしゅというのは?」
「うん、その種の生物がこの世界で居なくなってしまう危険があるって事。」
そもそもこの世界には無い概念だろう。それに、ドラゴンまでが該当するかと言われるとどうなんだ?確かに数は少なそうだが。
「それは生物として当然の事では?」
「だな。」
これに関してはユーリウスに同意する。別世界に来てまでそんな事は考えたくない。生前にしたって、その手の事には関わった事がないのだから。
「えぇ、じゃぁどうするのよ。」
「普通に王室管理地とかで良いだろうが。」
「地味ね。」
地味かどうかは関係ねぇだろうが。それに絶滅危惧種保護区も大差ねぇからな。
「ま、とりあえずその方向で動いてみるね。」
「あぁ、頼む。」
「そうなったら、ドラゴンを見れるのよね?」
「そうなるな。」
「私も長年生きておるが、ドラゴンは目にした事がない。可能であれば一目見てみたいものだ。」
となると、やはり希少種なんだろうな。他にも居るか、リンデに聞いておけば良かったか。まぁ、聞いて居たところでどうなるものでもないが。
「じゃぁさ、ドラゴン見学とかする?」
「やめろ。」
何を言い出してんだこのアホ女。
「ぶぅ。」
「見世物じゃねぇんだよ。怒ったらどうすんだ。」
「見に行くくらいいいじゃない。」
「その程度にしておけよ。」
ツアーとか言い出しそうな勢いだったからな。畑はテーマパークじゃねぇからな、何かのアトラクションにされたら堪ったもんじゃねぇ。
「さて、長居してしまっておるが、そろそろ薬の方をお願いしたい。ゼフトの様子も気になるのでな。」
おぉ、すっかり忘れてたぜ。
「分かった、ちょっと待ってろ。」

それから薬を調合して、ユーリウスに渡すと二人は城に戻っていった。





-王都ミルスティ北部 ボーレヌグ男爵領 とある孤児の家-

遠目に見ると大きく立派な屋敷に見えるその建物は、近付けば継ぎ接ぎの多い屋根や壁が目立って来る。
その家の前には子供たちが元気に走り回っているが、それ以外の人間は見当たらない。街外れにあるこの屋敷の周囲には、他の建物は数える程しかなかった。

「アデル、概ね武器は揃ってきたぜ。」
子供たちが外で遊ぶ声が聞こえる家の中、とある部屋で金髪の青年が、ショートボブの女性に話し掛ける。アデルと呼ばれた女性は、温和な笑みで頷いた。
「建前という寄付しかない中、集めるのは大変だったね。」
「ギルドの依頼が無い時なんて、生活もままならないしな。」
金髪青年の言葉に、セミロングの黒髪を揺らしながら少女が反応する。金髪青年は苦笑いしながらそれに応えた。
「あなたたちが街の治安維持、子供たちが美化を行ってくれているお陰なのよ。」
「何を言っているんですが、アデルが精力的に街の人たちと話してくれているからではないですか。」
茶色で短髪の青年が、諭すように言うアデル対し、笑みを浮かべながら言った。
「そうそう。アデルが居なかったら私たち、こんな生活なんて出来てないから。それこそ盗みと暴力の世界に落ちていくだけだったんだよ。」
「そんな事は無いわ。あななたちは、ちゃんと自分と向き合う事が出来るもの。」
「それは違う、アリナの言う通りアデルが居なかったら、俺たちは間違いなく腐っていたさ。今の子供たちだってそうだ。良い事悪い事、アデルが教えているじゃないか。子供たちだって真面目に聞いているもんな。」
自分に対し良く言ってくれる言葉を、アデルは優しい笑みで聞きながら首を左右に振る。決してそれだけではないのだと。
「あの子たちはとても良い子なのよ。」
「かもしれいけど、アデルの教え方が良いんだよ。聞こうって気になっちゃうのよね。やんちゃなあいつらが黙って聞いているのが良い証拠。」
「そう言ってくれると嬉しいわ。」
アリナの言葉に、アデルは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「で、アデルの方はどうなの?」
セミロングの黒髪、アリナが他愛もない会話から話しを戻した。
「えぇ。街の方でも協力者は大分揃ったわ。」
「武器を揃えるために出資してくれる人も現れている。ここ最近、順調に集められたのはそれもあってだから、本当に感謝しているぜ。」
「僕の方も、ギルドで何人か当てが出来たんだ。」
「やるじゃねぇか、エンゼ。」
「あれだけの武器を集めたグリュンの方こそ。」
言いながら3人はそれぞれの顔を見て頷いた。そこからアデルに視線が集まる。
「蜂起の時は近いわ。」

「あぁ。1日の食費にも満たない形ばかりの毎月の寄付。それで周りには孤児に寄付をしていると上辺だけの評価を集めているブタの終わりも近いぜ。」

「自分の好みで税収を変えているから、街の不満が高まるのも必然よね。私たちは本当の意味で、街の人の為の掃除をするのよ。」

「ギルドも表立っては言えない立場だけど、フオルズの依頼には辟易しているんだ。一部の取り入っている奴だけが得をしている。」

「アリナ、エンゼ、グリュン。あなたたちはこの街の現状を誰よりも見て来たはず。ギルドの収入はあれ、私たちは街の人の厚意で生きていられるのが現実。無茶な徴収で私たちよりも苦しんでいる人、餓死してしまった人、自ら命を絶った人までいる。その現実に胡坐をかいているフオルズは、もはや貴族ではありません。」
アデルの言葉に3人は、思い起こすように頷くと、その瞳に憤怒の色を浮かべる。何かを口にする事も無く、3人はアデルの目を凝視して次の言葉を待った。

「もうじき、貴族の務めを捨て去り、醜く肥えた悪魔に鉄槌を下せます。この蜂起で、街の人のあるべき生活を取り戻すために。」

「あぁ、やってやるさ。」
「任せて。」
「僕たちが終わらせるんだ。」
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