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Episode 37
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* 若干ですが、人の死・暴力に関わる描写が含まれます。苦手な方はお気をつけ下さい。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽
「それがあんたの本当の姿なの?意外と若いんだ。」
「僕に歳などないよ。神なんだから。」
「神?悪魔の間違いじゃなくて?」
大神殿──。
ロウエルは耳にあるピアスを通じて、ずっと自分を操ってきた男の本当の姿と対峙していた。
真っ白な肩までの髪は神秘的ながら、血のような紅い瞳は妖しく光り、禍々しささえ感じる。
そして彼の足元には、『大神官ゼッド』だった男が冷たくなり転がっていた。
「一番大神官になっても不自然じゃなかったから、仕方なくこの男の魂を乗っ取ったけど、不快で仕方なかったよ。まったく。」
自らを神だと名乗る目の前の男は、一つの命を消してなお嫌悪の眼差しを向けている。
「神は名前を偽れないから、ゼッドって名乗るしかなくてさ。聖女を消したのに国王には加護が残っちゃってて……。大神官の任命式で『この男はゼッドではない!』なんて言い出すから、咄嗟に眠らせたけど。周りにいた人間達の記憶をいじったり……散々だった。」
まるで転移術のように突然姿を現し、思考に直接語りかけ、抗えない力で自分を脅し縛り付けてきたことを思えば、間違いなくこの男は人間ではない。
だがロウエルには、この愚痴をこぼす男が神だなどと針の先程にも思えなかった。
「セシルは?どこ?」
「ん?そんなに彼が大事かい?不思議だなぁ。彼は王族だよ?君が闇の魔力持ちだってそれだけの理由で、そんな呪いのピアスを無理矢理つけた側の人間だよ?」
「………セシルは?」
ゼッドの挑発に乗らず淡々と返すロウエルをつまらなそうに見遣ると、彼はふっと肩をすくめ指をパチンと鳴らす。
次の瞬間、二人のちょうど真ん中にセシルの体がドサリと落ちてきた。朦朧としている彼がその衝撃に低く呻く。
「セシルッ!?」
真っ青になり駆け寄ろうとしたロウエルの足元に光の魔法陣が現れ、彼はそこに閉じ込められてしまった。
「ロウエル、あの羊皮紙の禁術は習得出来たかい?」
石造りの神殿の中、ゼッドの靴音はやけに耳障りに響く。
彼は悦に入った様子で、ゆっくりとセシルに近付いて行った。
「あんたのこと信じてなかったから別に驚かなかったけど、よくこの僕にあんなものを渡して『セシルを助ける方法だ』なんて嘘を言えたね!あれは、光の柱の守護を無効にする術だろう!?」
「へぇ、今日は随分と強気じゃないか。」
「どっちにしたって、セシルを助ける気なんかないんだろ?」
「それがわかって、あんなに色々と自分なりに彼の体で実験してたのかい?何か成果はあった?……ああ、そうだね。こんな奴、僕は別にどうだっていいんだ。でもいいの?代々大神官が受け継ぐ魔力封じは、今、僕の手の中だ。君のそのピアスと、セシルの心臓に埋まったままのその片割れを、こうして壊せるんだよ?ほら。」
ゼッドの狂気を孕む冷笑。ロウエルの耳元で黒い石がまたしても軋み、セシルが苦しみに悶え出す。
「同じ死なら、楽に死なせてあげたら?君がもたもたしてると、この男は苦しみもがいて……死ぬよ?」
ロウエルの体が怒りに震え、魔法陣の中、漆黒の靄が満ちていく……。
「そうだよ、いい子だ!もっと闇に堕ちるんだ!セシルの苦しみをもっともっとあげるから!怒りで全ての光を消してしまえ!!………僕を認めなかった創造神の世界達を全部、この世界から壊すんだっ!」
ゼッドの歓喜の笑い声が響き渡る。
だがそれは、ロウエルが自身の耳からピアスを引きちぎったことで、パタリと途絶えた。
「悪いけど、僕は天才って言われてるんだ……。セシルだけは助ける!絶対に!!」
今まで黒い石の力で抑えられてきたロウエルの闇の魔力が、一気に溢れ出す。
「お前、一体何を!?」
魔法陣を埋め尽くしていた靄が、ロウエルの体を覆い、溢れ出すオーラと共に漆黒のマントとなった。
魔王の如き覇気で歩みだしたロウエルの足が、魔法陣を粉々に砕いていく。
余りの魔力の強さにジリジリと後退るゼッドに向けロウエルが手をかざすと、ゼッドの体は大きく弧を描いて飛ばされ鈍い音と共に壁に叩きつけられた。
「セシル。約束破ってゴメンね。でも僕が闇に堕ちないと……、この力がないと、君を助けられないんだ。」
「…………エ、ル…………。」
ロウエルはゼッドを視界にすら入れず、ゆっくりとセシルを抱き起こす。
「セシル、君が僕にもう一度誰かを信じる勇気をくれた。……ありがとう、僕の親友でいてくれて……。」
「エル……ダメだ……よ……。エ…ル……。」
セシルの掠れた必死な声。その瞬間彼が見たのは、ロウエルの柔らかく安らいだ瞳だった。
何かが爆発したように大神殿の中から空へと上がった漆黒の柱が次第に黒い雷雲となって渦を巻き、みる間に王都の上空を覆い尽くして光を消していく……。
──後は頼んだよ、シャーロット……。どうか、間に合って……。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽
「それがあんたの本当の姿なの?意外と若いんだ。」
「僕に歳などないよ。神なんだから。」
「神?悪魔の間違いじゃなくて?」
大神殿──。
ロウエルは耳にあるピアスを通じて、ずっと自分を操ってきた男の本当の姿と対峙していた。
真っ白な肩までの髪は神秘的ながら、血のような紅い瞳は妖しく光り、禍々しささえ感じる。
そして彼の足元には、『大神官ゼッド』だった男が冷たくなり転がっていた。
「一番大神官になっても不自然じゃなかったから、仕方なくこの男の魂を乗っ取ったけど、不快で仕方なかったよ。まったく。」
自らを神だと名乗る目の前の男は、一つの命を消してなお嫌悪の眼差しを向けている。
「神は名前を偽れないから、ゼッドって名乗るしかなくてさ。聖女を消したのに国王には加護が残っちゃってて……。大神官の任命式で『この男はゼッドではない!』なんて言い出すから、咄嗟に眠らせたけど。周りにいた人間達の記憶をいじったり……散々だった。」
まるで転移術のように突然姿を現し、思考に直接語りかけ、抗えない力で自分を脅し縛り付けてきたことを思えば、間違いなくこの男は人間ではない。
だがロウエルには、この愚痴をこぼす男が神だなどと針の先程にも思えなかった。
「セシルは?どこ?」
「ん?そんなに彼が大事かい?不思議だなぁ。彼は王族だよ?君が闇の魔力持ちだってそれだけの理由で、そんな呪いのピアスを無理矢理つけた側の人間だよ?」
「………セシルは?」
ゼッドの挑発に乗らず淡々と返すロウエルをつまらなそうに見遣ると、彼はふっと肩をすくめ指をパチンと鳴らす。
次の瞬間、二人のちょうど真ん中にセシルの体がドサリと落ちてきた。朦朧としている彼がその衝撃に低く呻く。
「セシルッ!?」
真っ青になり駆け寄ろうとしたロウエルの足元に光の魔法陣が現れ、彼はそこに閉じ込められてしまった。
「ロウエル、あの羊皮紙の禁術は習得出来たかい?」
石造りの神殿の中、ゼッドの靴音はやけに耳障りに響く。
彼は悦に入った様子で、ゆっくりとセシルに近付いて行った。
「あんたのこと信じてなかったから別に驚かなかったけど、よくこの僕にあんなものを渡して『セシルを助ける方法だ』なんて嘘を言えたね!あれは、光の柱の守護を無効にする術だろう!?」
「へぇ、今日は随分と強気じゃないか。」
「どっちにしたって、セシルを助ける気なんかないんだろ?」
「それがわかって、あんなに色々と自分なりに彼の体で実験してたのかい?何か成果はあった?……ああ、そうだね。こんな奴、僕は別にどうだっていいんだ。でもいいの?代々大神官が受け継ぐ魔力封じは、今、僕の手の中だ。君のそのピアスと、セシルの心臓に埋まったままのその片割れを、こうして壊せるんだよ?ほら。」
ゼッドの狂気を孕む冷笑。ロウエルの耳元で黒い石がまたしても軋み、セシルが苦しみに悶え出す。
「同じ死なら、楽に死なせてあげたら?君がもたもたしてると、この男は苦しみもがいて……死ぬよ?」
ロウエルの体が怒りに震え、魔法陣の中、漆黒の靄が満ちていく……。
「そうだよ、いい子だ!もっと闇に堕ちるんだ!セシルの苦しみをもっともっとあげるから!怒りで全ての光を消してしまえ!!………僕を認めなかった創造神の世界達を全部、この世界から壊すんだっ!」
ゼッドの歓喜の笑い声が響き渡る。
だがそれは、ロウエルが自身の耳からピアスを引きちぎったことで、パタリと途絶えた。
「悪いけど、僕は天才って言われてるんだ……。セシルだけは助ける!絶対に!!」
今まで黒い石の力で抑えられてきたロウエルの闇の魔力が、一気に溢れ出す。
「お前、一体何を!?」
魔法陣を埋め尽くしていた靄が、ロウエルの体を覆い、溢れ出すオーラと共に漆黒のマントとなった。
魔王の如き覇気で歩みだしたロウエルの足が、魔法陣を粉々に砕いていく。
余りの魔力の強さにジリジリと後退るゼッドに向けロウエルが手をかざすと、ゼッドの体は大きく弧を描いて飛ばされ鈍い音と共に壁に叩きつけられた。
「セシル。約束破ってゴメンね。でも僕が闇に堕ちないと……、この力がないと、君を助けられないんだ。」
「…………エ、ル…………。」
ロウエルはゼッドを視界にすら入れず、ゆっくりとセシルを抱き起こす。
「セシル、君が僕にもう一度誰かを信じる勇気をくれた。……ありがとう、僕の親友でいてくれて……。」
「エル……ダメだ……よ……。エ…ル……。」
セシルの掠れた必死な声。その瞬間彼が見たのは、ロウエルの柔らかく安らいだ瞳だった。
何かが爆発したように大神殿の中から空へと上がった漆黒の柱が次第に黒い雷雲となって渦を巻き、みる間に王都の上空を覆い尽くして光を消していく……。
──後は頼んだよ、シャーロット……。どうか、間に合って……。
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