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 クラリスの謹慎が明けた。

 その日、母からアンリに会いに行っていいと言われた彼女は、屋敷の裏手にある鍛錬場へと真っ直ぐに駆け出した。
 そして父の目の前で、ぐっしょりと汗をかいているアンリに抱きつき、父だけでなくアンリまでもを絶句させたのだった。


「旦那様、お茶がはいりましたわ。そろそろ休憩なさっては?」
「はぁ、アリッサ。俺は酒が飲みたい気分だよ。思いきり強いやつを……。」
「ふふふ。娘を持つ父親は大変ですわね?」
「……君の父上は、よく俺を殴らなかったな……。」
「母が止めましたから。」
「そうか……。どこも同じか……。」
「ええ。あの二人も、いずれは……。」
「そうだな。」


 愛娘に背を向けて仲睦まじく歩いて行く伯爵夫妻の後ろでは、クラリスとアンリが会えなかった時間を埋めるように、夢中で唇を重ねていた……。

 だがそのあと、王太子が視察から戻ったこともあり、アンリは仕事に忙殺される日々を送ることになってしまった。
 それはアンリが溺愛する婚約者へ手紙を書く時間すら取れない程で……。
 気付けば謹慎が明けてから、更に一ヶ月の時が過ぎていたのだった……。



「アンリ様、お顔の色が悪いです。やっぱり少し休まれては?」
「大丈夫。正直、多少の疲れはあるけど、私にはクラリスが何よりの癒やしだから。」
「……嬉しい……です。」


 久しぶりの逢瀬。
 二人はシャリエ家自慢の薔薇園を散策していた。
 アンリの差し出した腕に嬉しそうに添えられたクラリスの小さな手。
 彼は恥じらいながらも気持ちを言葉にしてくれるようになった婚約者にたまらなくなり、その絹のような手にそっと触れると、頭のてっぺんに口づける。
 上から見下ろす彼女の真っ赤な耳がとても愛らしかった。


「我が家の茶会はどうだった?」
「はい。カミーユお義姉様のお友達が、私より一つ上の妹さんを紹介してくださって。お友達になれました。」
「そうか。どちらのご令嬢だい?」


 クラリスの無邪気な笑顔を見て、その令嬢に嫉妬してしまった自分の狭量さに内心苦笑しながら、アンリは彼女に気付かれないよう穏やかに尋ねる。


「プルニエ伯爵家のマノン様です。」
「ああ、レノー伯爵令息の夫人の……。」
「はい、妹さんです。ちょうど、私と同じ頃にご結婚の予定で……それで、色々お話しできて……。」
「へぇ。どんなことを話したの?」
「え?……えっと……その……。マノン様の婚約者の方は留学でずっと隣国に行っていたそうで……。」
「ふーん、それで?」


 クラリスが今言い淀んでいるのは、言えないことがあるからではなく、何か恥じらっているからというのは彼にもよくわかっていた。
 わかっている上で、つい困らせたくていじわるな聞き方をしてしまうアンリ。
 だが今回は無自覚なクラリスの方が上手だった。


「私もアンリ様がお忙しいってお話しして……その……。」


 彼女が上目遣いで消え入りそうに言う。


「結婚する前に、デートをいっぱいしたいですよねって……マノン様と……。き、貴重な……恋人の……時間ですよねって……。」
「……………。」


 ──として、デートがしたい?はぁぁ……何だそれ。可愛すぎるだろう?


「アンリ様?」
「………クラリスは、私と恋人としてどんなことがしたいの?」
「え?」
「デートで行きたい場所とか、したいこととか。結婚まであと半年もないけど、今まで遠回りした分も二人で大切に過ごそう。」
「アンリ様……。」
「私はクラリスの我が儘が聞きたいな。何でも言って。」
「本当に、何でも?」
「もちろん。」


 それを聞いて、クラリスがそっと立ち止まった。


「じゃあ、あの……。アンリ様と一緒にお芝居を観に行きたいです。」
「芝居?」
「今、国立劇場でかかっているお芝居が素敵だったって、マノン様やカミーユお義姉様も薦めて下さって……。私も観てみたいなって……。恋物語、なんですって……。」


 ──あぁ、ダメだ。全然我が儘になってないのに、そんなドキドキしながら聞いてきて……。私のクラリスは、どこまで可愛いんだ……。頭痛がしてきた……。


「そうか。それじゃ、チケットを手配してみるよ。」
「嬉しいっ。ありがとうございます、アンリ様!」
「他には何かない?」
「……………。」
「クラリス?」


 フッとさっきまでと違う真剣な表情になった彼女が、手首に下げていた巾着袋から細長い箱を取り出しアンリに差し出す。

「アンリ様、これを……。」
「これ、クラリスから、私に?」
「はい。やっと出来上がって……。」
「開けていいかい?」
「どうぞ。」


 スルリとリボンを解き箱の中身を見たアンリは、珍しく驚きをそのまま表情に出してクラリスを見つめた。


「クラリス、これは……。」
「お母様にちゃんと教えてもらいました。アンリ様のこのメガネのこと。」
「クラリス……。」
「男性が魔力封じの魔導具を使うということは、ひどい副作用に耐えることだって。アンリ様も頭痛やめまいがひどかったはずだって……。」
「そんなこと、君は気にしなくていいんだ……。」
「気にします!」


 彼女はアンリの言葉に被せるようにきっぱりとそう言い、手を伸ばして彼のメガネを外す。
 そしてクラリスはそれを巾着にしまうと、彼の頬をその手で柔らかく包み、親指で僅かにそこを撫でた。


「私はアンリ様の婚約者なんですから……。こんなメガネをかけて耐えないで……。」
「クラリス?じゃあ、今君がくれたこのメガネは?」


 クラリスがアンリに贈ったのは、魔導具にそっくりな伊達メガネだった。


「だって、アンリ様のメガネを外したお顔を、他の人に見せたくなくて……。アンリ様、素敵過ぎるから、またご令嬢たちが色目を使うもの……。」
「……もしかして、クラリス。やきもちを焼いてくれたのかい?」


 ちょっぴり頬を膨らませて頷く彼女に、メガネを外された彼は限界点を軽く突破してしまう。


「クラリス?こんな可愛いことされたら、私も我慢出来なくなっちゃうよ?いいの?」
「………、たしも………。」
「ん?なんだい?」
「……私もって言ったら……。キスしたいなって言ったら……はしたない、ですか……?」
「っ!?……あぁ……、もう、クラリス……それは反則だよ。」


 彼女の上目遣いにとどめを刺され、黒い双眸が熱を帯び、アンリはクラリスの手を力強く引き足早に進み出す。
 彼女も無言でその手を握り返し、二人は薔薇園の奥にある温室コンサバトリーへと消えて行った。



「ん、んんっ……あ、そこ……あぁ……んぅっ。」
「ほら、クラリス。ちゃんと脚を閉じてて。」
「あ、ん、アンリ様っ、アンリさまぁ……。」
「気持ちいいね、クラリス?」


 瑞々しい緑に囲まれたベンチの背に掴まって立つクラリスは、デイドレスのスカートをたくし上げられ、そのなまめかしい内腿で荒々しい熱杭を受け入れている。
 唇が腫れるほどのキスで十分に秘部を濡らされてしまった彼女は、アンリの長い指であっという間に一度達してしまっていた。
 気を抜けば脚の力が抜けそうなほど身体中がとろけた状態で、彼の熱杭の張り出した先端は容赦なく敏感になった蜜口や花芯を刮げていく。
 はだけたドレスの胸元から差し入れられた手は、味わうようにまろい果実をまさぐっては指先で種を転がし、耳元ではアンリの熱に浮かされた吐息が鼓膜を直接震わせた。


「んぅ、ん、気持ちいい……あっ、……アンリ様もっ、ちゃんと……いい?……あんっ。」
「ああ。もちろん!クラリス、ゴメンね、ちょっと激しくするよ?」
「ひゃっ!あ、あ、すごいのっ、はぁ、んぁっ!」


 アンリは両手で目の前の細い腰を掴み、大きな抽送で自身の熱を蜜の溢れる秘裂に擦り付ける。
 やがてギリギリのところでそれを引き抜いた彼は、クラリスの腰を白い欲で濡らしていた……。


 ──芝居は昼公演マチネにしよう。夜公演ソワレじゃ、その後の時間が足りなそうだ……。


「アンリ様?もう、平気?」


 健気にそんなことを聞いてくる彼女を前に、またすぐ昂りそうな熱をグッと堪え、彼は彼女の身体を清めながら蠱惑的に微笑んだ。


「今日はね。続きはまた今度、ちゃんとベッドで。ね?クラリス?」
「………はい………。」









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