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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》

白き棺に赤き龍の贄姫 02

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 暗闇を照らすような白い花の間からぬぅっと無数の腕が現れ、音寧を白い花が敷き詰められた箱のなかへ押し込もうとする。
 音寧は、逃げなくてはと身体をじたばたさせるが、箱のなかから更に飛び出してきた腕に両手首と足首を掴まれて、身動きを封じられてしまう。

「使い魔となった者たちのなれの果てだ。その石に灼かれたら消えてしまうだろうが、石だって無傷ではすまないだろうよ……さあ、宴の時間だ。十の腕たち、白き花の棺のなかで赤き龍の贄姫をかわいがっておやりなさい」
「っ、ひっ、いやぁぁっ……!」

 箱――いや、棺のなかから飛び出してきた四つの腕に身動きを封じられてしまった音寧は、残りの六つの腕にビリビリと翡翠色のワンピースを破られて、甲高い悲鳴をあげる。悪魔が棚から取り出した透明なガラス瓶の栓を空け、彼女の身体に振りかけると、胸元の守り石が急激に黒ずんでくる。守り石があるうちは魔薬を体内に吸収することはないとわかっていても、不気味な花の棺のなかで血の通わない冷たい腕に手足を拘束されたまま、服を剥ぎ取られ、ぬるぬるする液体を身体中に複数の手で塗りたくられるのは気持ち悪い。

 すでに布切れと化してしまったワンピースの成れの果てを悪魔が手に取り、満足そうに風を起こせば、白い花と一緒になって花びらのように散っていく。下着も脱がそうと腕たちが動いた瞬間、守り石がカッと発熱し、彼女を捕らえていた手の化け物を浄化していく。十本あった腕は手足を掴む四本を残して焼け落ちた。
 やはり綾音の守り石だけが自分の生命線のようだ。

「随分黒くなってきたか……腕たちよ、その石を壊せ」
「だめっ!」

 手足の拘束から逃れた音寧は自分の胸元にある守り石目がけて四つの腕が襲いかかってくるのを避けるべく、ひょいと身体を浮かせて棺のなかから飛び降りる。腕たちの追跡からは抜け出せたが、飛び降りた勢いで床に背中を打ち、痛みに呼吸が止まる。その隙をついて悪魔が音寧の身体を持ち上げ、壁へ投げ飛ばす。ガシャン、と棚のうえに並べられていたガラス瓶がその拍子に割れて床に落ちる。まるで蜂蜜の瓶を壊してしまったかのような、甘ったるい場違いな香りが部屋中に漂い、音寧の鼻孔へ侵入していく。くらくらする香りと身体中にまとわりつくぬるぬるした感触に、音寧はいつしか身体が熱くなっていることに気づく。まるで媚薬を資に塗られたときのように、身体が、あつい。
 ずるずる、と床を這って下着ひとつで抵抗する音寧を、悪魔が楽しそうに見つめている。

「ふぁっ」
「よかった。やっと石のちからが無効化してきたんだね。さすがにこれだけ魔薬を散布すれば、いやでも発情するだろう?」
「発情だなんて……いやっ!」
「追いかけっこも楽しいけれど、そろそろ小生の思い通りに貴女を愛でさせて欲しいなァ」
「ひっ……っ」
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