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しおりを挟む『好きだよ、……君!』
『ん、大好きなんだから、――君!』
沢山呼んで“彼”の名前、沢山沢山呼んで!
『今でも好き、ずっとずっと好きだった、ショーゴ君!』
* * *
「真昼間に生れたから、正午……」
反芻する。
彼の思い出が強すぎたから、彼の名前を忘れていた。
彼を思いたかったから、その可能性を否定していた。
彼は、あたしをずっと見ていた。
彼は……
「貴方は、あたしの?」
彼は、ぎゅっと抱き締めてくれた。
茫然自失のあたし。
白いホイップクリーム、ほっぺについてるよ、まつこちゃん。
ほっぺ?
届かないなら僕が取ってあげる。ハイ。
ありがとう。
まつこちゃんのほっぺ、すごく柔らかいね。
ショーゴ君だって、美味しそうな肌してるよ。
いつか、まつこちゃんのほっぺ落とせるような、そんな美味しい甘いもの、作るんだ。
「「そしたら僕の、お嫁さんになってくれる?」」
あたしは。
貴方の。
アナタノモトメルモノヲモッテイルトデモイウノデスカ?
「ショーゴ……君」
あたしは死んだ魚のように濁った瞳で彼を見ている。
桜色したディスプレーの中に置かれている小さな苺大福。
白い膨らみは、母親の、乳房。
そっか。
彼は、求めていたんだ。
だから、あたしは……
* * *
ネェ、キスシテヨ、今ココデキスシテ、オ願イ、アタシヲ壊シテ!
あたしの頭の中で何かが弾ける。
ぎゅっと掴まれた腕に身体を擡げ、あたしは彼の口唇を思いきり吸う。
コレハ夢ジャナイ、コレハ罰ナノカモシレナイ、アタシタチニ背負ワサレタ……
何度も何度も舌を入れてかき混ぜて甘いだけのキス。
甘い甘い甘すぎる!
乱れる呼吸高ぶる鼓動。
正午君の大きな身体があたしに被さる。
二つの身体が畳に転がる。
仏壇の前で、激しく身体を求め合う。
言葉なんかいらない。ただ、衝動のまま。
兄妹? そんな真実信じない。
こんなにも、貴方を思っていたあたしと、
あたしを想っていた貴方だから。
姉弟? こんな真実信じない。
誰にも知らせない。
彼はブラウスをたくし上げてあたしの乳房を取りだす。
あたしは彼のズボンから勃起したペニスを奪う。
誰にも渡せない。わかるわけない。腹違い? 何それ?
否定する自分拒絶する自分。
あんなにマジメな彼が、あたしの殻を剥くことで狂い出す。
狂っても構わない。
「苺大福を作ってよ。あたしの乳房で」
捻りあげられる桜色の乳首、正午君の汗。
愛撫でほどけた蜜口に串刺し団子のように彼が貫いていく。
声にならない絶叫とともに、あたしと彼はひとつになる。
処女と童貞の慣れない交尾はいつまでもつづく。
* * *
ティッシュペーパーをくしゃくしゃと丸めて、ふたりで慣れない事後処理。
破瓜の痛みはあった。血もそれなりに出た。けれど“彼”に奪ってもらえたことが嬉しくて。
顔を真っ赤に染めて彼の裸の胸に顔を寄せるあたし。
悪いことをしたなんて思ってない。
愛してる人とすることは悪いことなんかじゃない。
それも、ずっと昔から思いを寄せていた人、大好きな“彼”。
目の前であたしの乳首を吸って満足そうにしてる“彼”。
あたしと貴方は、いつまでも一緒。
だって、その当事者ふたりは、あたしたちを置いて、死んでしまったのだから。
* * *
帰り道。
交差点の前で起こった突然の空白。
大きなクラクション。
ずっと貴方を抱き締めていたと思ったのに。
突き放されてしまうなんて、なんて。
「待子!」
それは罪なのですか?
だからこうして裁かれるのですか?
あたしは、ここで死んでしまうのですか?
ねぇ、誰か、答えてよ!
* * *
モシモアナタトアタシガ犯シタ罪ガ許サレナイモノデアルノナラ……
敵は、どこにいる?
真っ白。
それは、浄化を表す色。
あたしと貴方はまだ、汚れきっていない。
「待子!」
「……お兄ちゃん」
そこにいたのは将兄ぃだった。
今までのは全て夢?
どこからどこまでがあたしの夢?
白すぎて思い出せない。
もう、そんなの頭のすみずみに霞がかかってて、わからずじまい。
「お前、あとちょっとずれてたら死んでたぞ」
どうやら交通事故のことを言っているみたいだ。
あたしは、車に轢かれたのだろうか?
傍にいた、彼は?
「ねえ、ショーゴ君は?」
* * *
面会謝絶。
白いうすっぺらい紙にそれだけ書かれている病室の扉。
あの中で彼は戦っている。
生と死の狭間を夢見ている。
もし、神様がいるのなら……こんな悲劇をどう対処するのだろう?
あたしはその時、人目憚らずただ、泣いた。
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