涅槃に行けない僧侶サマと極楽浄土で戯れを

ささゆき細雪

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逢引

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 そして迎えた一週間後、マヒナはマキナとしてキヨミネと博物館デートに赴くことになった。パーティーで知り合ったお坊さんと展示会を見に行くと姉に報告すると、彼女は興味なさそうにマヒナを送り出してくれた。キヨミネはマキナのことを知っている風だったが、彼女は変わり者の妹と話があう異性に知り合いなぞいないと一蹴していたから、たぶん人違いだろう。それでもマヒナはマキナとしてキヨミネと会う約束をしたのだ、今日一日を無事に過ごせれば問題ないはず。

「あの、もしよろしければ結婚を前提にお付き合いしていただけませんか……?」

 そう思っていたのに、キヨミネは開口一番、マヒナが驚くようなことを伝えてきたのだ。


 ――うう、せっかくの特別展示だったのに、キヨミネさんの言葉がぐるぐるしていてゆっくり鑑賞できなかったよぉ。


 今日のキヨミネは和装ではなくベーシックな服装をしている。マヒナの方はすこしでも大人っぽくなりたいと姉から流行のロングカーディガンを借りていた。年相応の装いと呼ぶにはすこし背伸びをしている感じだが、キヨミネに「よく似合ってる」と言われると嬉しくなるのだから現金なものだ。

「なんだかごめんね、先日会ったばかりでこんなこと言って。困らせちゃったね。だけど俺はマキナさんの自然体なところに惹かれたんだ。一生を添い遂げるならこんな女性がいいな、って」
「でも、わたし――っ?」

 自分は姉のマキナではなく妹のマヒナなのだと言おうとしたところで、彼に唇を奪われてしまう。
 突然の行為に、マヒナは抵抗できるわけもなく、彼の背中にしがみつくことしかできない。

「ッ」
「――すきだ」
「キヨ、ミネ、さん……?」
「まさかあの場所に貴女が来るなんて思わなかった、けれどマキナさんは俺の前に現れた」
「あの、それ」
「マキナさん? 忘れてしまったのですか? 俺が――……」

 忘れるもなにも、自分はマキナではなくマヒナなのだと弁解しようとして。
 マヒナはハッとする。


「……もしかして、あのときの僧侶さま?」


   * * *


 田舎の寺の息子、というのは基本的にモテないものだとキヨミネは思っている。だから積極的に異性と付き合うこともなく、気づけば会得してから女性と恋愛することもなく、三十路を迎えていた。
 さすがにこの歳で独身は、と焦りだす両親に、まだ三十歳だろ、と言い返していたが、田舎の人間は基本的に結婚するのが早い。見かねた友人が地元で開催される婚カツパーティーのチケットを寄越してきたから、興味本意でパーティー会場に行ったのだ。
 そして彼は菩薩のような女性と出逢った。六年前。かつて自分の寺で興味深そうに寺院に奉られている仏像を模写していたセーラー服姿の少女がそのまま成長したかのような女性……マヒナと。

「気がつかない貴女が悪いんですよ」
「ご、ごめんなさ……」
「おまけに姉の名を騙って婚カツパーティーに来ていたなんて」
「騙したわけじゃない、の。姉の代役をしただけなの」
「もし俺以外の男に声をかけられていたらどうするの」
「あ、ありえないです、わたしが……」
「若い女の子は売れ残りの男たちからすればそれだけで魅力的なんですよ」
「そんなっ」
「俺は貴女にはじめから恋をしていました。因果が巡ってきたのだと、これが運命だと」
「キヨミネさ……」

 情熱的な告白に、マヒナはなにも言えなくなる。
 これは因果だとキヨミネは告げる。因果応報。善きことも悪しことも、行いは巡り巡って自分にかえってくる。あのときマヒナはキヨミネと会話をしていない。仏像模写に夢中になっていて、それどころじゃなかったのだ。彼は面白そうにマヒナをじっと見つめていた。そして無心に筆を動かしつづける彼女に緑茶のペットボトルを差し入れてくれた。

「マキナさんのいまの年齢は二十七歳って、あのプレートには書かれてましたが、貴女は六年前、高校生だった……そうですよね?」
「はい」

 ほんとうは二十三歳の、定職に就いていない木工作家でいまはまだ結婚するつもりもないのだと正直に告げれば、キヨミネは首を傾げる。

「どうして? 俺と結婚すれば寺の離れに貴女のためのアトリエを増設することなど容易いことです。定職に就いていない負い目があるのなら、寺のことを手伝ってくだされば問題ありませんよ」
「で、でもご迷惑じゃ」
「むしろ俺の両親は諸手をあげて歓迎するよ。早く結婚しろしろと檀家衆もうるさいし……」

 どこか遠い目をするキヨミネを見て、マヒナはああ、と苦笑する。村社会特有のしがらみに、彼もとらわれているのだろう。姉のマキナも口うるさい親戚によく言われている。早く結婚しろと。

「それに、もう俺は貴女しか見えませんから」
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