虚実の時

神在琉葵(かみありるき)

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 「ミカエル…大丈夫?」

 「……心配かけてごめんね。
でも、もう大丈夫だよ。
 何年も旅をしてるんだったら、もう探しようがないよ……
バルバスにはあちこちから船が着く。
そのどれに乗って来たか…そこからして探すのは難しい。
しかも、その先にはまたいろんな分かれ道があるだろうし、つまりは僕がどこから来たかなんて探りようがないってことだ。
 僕の記憶が戻るまで、それはわからないってことなんだ。」

 「そうね……それで……け、結婚のことは……」

アニエスは恥ずかしそうに瞳を伏せ、しかし、肝心のことを真正面から切り出した。



 「アニエス…あの話はなかったことにしてくれ。」

 「えっ……
 ……そ、そう……わ、わかったわ。」

アニエスは懸命に平静を装ったが、その声は震え、瞳にはすでに涙が溜まっていた。



 「それでね…僕、アニエスにお願いしたいことがあるんだ。」

 「……何かしら?」

 「僕と結婚して下さい。」

 「……ミカエル……今、なんて?」

アニエスはわけがわからず、戸惑いと不安の入り混じった顔で、ミカエルに問いかけた。



 「だから……結婚してほしいって言ったんだよ。」

 「でも、あの話はなかったことにって……」

ミカエルは微笑み、アニエスの手にそっと自分の手を重ねた。



 「今までの僕は、自分の過去に怯えてばかりで、正直、自分の殻に閉じこもってるようなところがあったんだ。
だけど、こないだの君の話で、僕はこうして前に踏み出すことが出来た。
 君は僕のことを愛しているし、信じてるって言ってくれたよね。
 愛と信頼さえあれば、それで良いんだって……
あの言葉が、あの日から妙に心に残って……
そして、改めて気付いたんだ。
 僕も、君のことを愛しているし、心から信頼してる。
どこの誰ともわからない僕を助け、そしてずっと面倒をみてくれた。
 君以上に信頼出来る人はこの世にいないよ。」

 「でも…だったら、なぜ……」

ミカエルは子供のような無邪気な顔で小さく笑う。

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