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幼馴染み二人と僕の15歳の試練

6 引越先

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 民族大移動。
 もとい、お引越し行列。
 行列を見た見習いさんや低位の神官さんたちが、ぎょっとした顔で見てくる。
 ……まあ、そうなるよねぇ。

 神殿の南館は、高位神官の居住区。
 神殿長さんのお部屋もこの区画だから、お風呂を借りに僕は毎日通ってたわけだけど。
 僕がこの区画にお部屋をもらうなんて考えてもなかったなぁ…。

「ラルフィンの部屋はここだよ」

 神殿長さんが扉を開けてくれたので、中に入った。
 ……うん、まあ、予想通りというか。
 部屋、広い…。
 僕としては今までの部屋くらいの大きさに、お風呂がついてるくらいで丁度良かったんだけど…。

「さ、荷物を入れたら一旦食堂に行こう。本当に朝食を食べられなくなってしまう」

 神殿長さんの言葉に、みんなで返事をしつつ、適当なところに荷物をおいていく。
 僕も一緒に?と思っていたら、早くおいでって促されてしまった。
 背負袋と教典と手紙の箱を机(これも大きくなった)の上に置いて、急いで皆さんのところに行った。

 そして再び民族大移動。
 食堂に入ったら、もう結構まばら。当然、キリル君の姿はなかった。

「カイトは今日の三の鐘担当だろ?さっさと食えよ」
「あ、忘れてた」

 高位神官のカイトさんは、慌てたように僕の頭を撫でてく。

「ごめんな。片付け手伝えないわ」
「大丈夫です。ありがとうございました!」
「おう」

 ってニコって笑って、大急ぎで朝食を食べ始めた。
 僕達もそれなりに急いで朝食にする。

 ふと思ったのは、他の人たちって、中位、高位の神官さんたちに、あまり話しかけないよね、ってこと。
 それが普通なのかな?
 僕は結構普通に話しかけたりしてたと思うんだけど…。外の奉仕活動とかに同行したりしてたからかなぁ?
 キリル君もそのあたりは何も教えてくれないから、距離感とか、どういう関係性でいたらいいかとか、正解がわからないんだよね…。
 みんな、話しやすいし…。偉そうじゃないし…。駄目なところは駄目って言ってくれるし……。
 よくわかんないなぁ。

 色々考えながら食べていたら、あまり味もわかんないまま朝食終わってた。それとほぼ同時に三の鐘が鳴った。
 でも僕は引き続き部屋の片付け。手の空いてる神官さんたちも、僕と一緒に部屋に戻った。

「ラルフィン、何かこだわりとかあったら教えて」
「あ、特にないです」
「じゃあ、本はなんとなく並べておくから」
「はい」
「台所、適当にいじっておくからね」
「はーい!」
「服は季節ごとにまとめておくから」
「ありがとうです!」

 やー………、早い早い。
 僕、ベッド整えたり、机の上に文具関係並べたりとか、そんなことしかしてないのに、荷物があっという間に収納されてく。

「こんなとこか」

 ディーリッヒさんが部屋の中を確認して息をついた。

「ありがとうございました!」

 結局、僕、ほとんど何もしてないや…。

「あの、お礼とか……」

 たくさんお金を持っているわけじゃないから、何かを買って贈ることは難しいんだけど。

「気持ちだけでいいんだよ」

 神殿長さんは笑いながら僕の頭を撫でた。
 他の神官さんたちも、笑いながら頷いてる。

「でも……」

 気持ち。
 気持ちだけ。

 ……気持ち、だけ。

 うん。
 気持ちなら、あふれるくらい贈れる。
 同じ神官さんだけど、いいよね。

 僕は胸の前で両手を組む。
 気持ち。
 感謝の、思い。
 嬉しい、思い。

 今この時と関係はないけど、ディーとエルへの想いも乗せて。

 皆に気持ちを伝えたくて、祈った。

 ふわり
 ふわり

 女神さま。
 僕にこの出会いを与えてくださってありがとうございます。

 そっと目を開いたら、皆の嬉しそうな顔が目に映った。

「いい祈りだった」

 破顔した神殿長さん。
 それからみんなに褒められて、頭を撫でられた。


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