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竜司と子猫の変わる日々

僕の新しい一日が、驚いたけれどとても嬉しいことになった件

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 アラームが鳴って目が覚めた。
 目の前にグレーのカーディガンを着た少しブサイクな猫のぬいぐるみの顔がある。
 ぼーっとしながらもう一度スマホを手繰り寄せて、通信アプリを開く。

『おはよう』

 の、スタンプ。黒猫の、スタンプ。

「ねこ……」

 一つ前に、『おやすみ』のスタンプ。これも、黒猫。

「……ねこ、好き?」

 ぼーっとしながら、僕も『おはよう』のスタンプを返す。
 え……っと、顔、洗って。朝ごはん、準備して。
 大学に行く準備もして、午後はバイトだからエプロンとかも用意して。

 ベッドからのそりと出て、洗面所に向かった。
 顔を洗ったら少ししゃっきりする。

 ……なんか、すごくよく眠れた気がする。嫌な夢も見なかった。
 そうだ。
 竜司さんと眠ったときのような、そんな感じだった。

 不眠症とまで言わなくても、僕の眠りはいつも浅い。はっと目が覚めたらベッドに入って二時間後とかざら。それから暫く眠れなくなって、ウトウトし始めたらスマホのアラームで起こされる。
 少し長く眠れたなぁ…っていうときは、夢見が悪い。中身まで覚えてないけど、冷や汗をかくくらい嫌な夢を見てるらしくて、心臓もバクバクしているし、とにかく不快感が残っていた。
 ……あ、これはもしかして不眠症って言ってもいいのではないだろうか……。うーん……まあ、とりあえずいいや。

 でも、昨日の朝はぐっすり眠った。竜司さんの腕の中で。そして、今朝も。
 嫌な夢を見た感じもない。
 まだ眠りたいって思うほど。でもスッキリしてる、不思議な感じ。

 お湯を沸かす。
 トースターに食パンをセットする。
 カップに粉末のスープを入れて、マグカップにはアップルティーのティーバッグ。
 バターとイチゴのジャムをテーブルに出して、ベッドに寝たままの猫ぬいぐるみをテーブルのとこに座らせる。それからまた、スマホを開いた。

『よく眠れたか?』

「うん…。なんか、すごくよく眠れたよ……と」

 六時半。
 竜司さんからのメッセージに返信してる間に、お湯が沸いた。それから、トーストも終わる。
 バターを塗って、ジャムをつけて、一口噛る。

『朝食は?』

 その間にまたメッセージ。

「今食べてるとこ……と」

 返信して、また一口。

『俺の分は?』

「え」

 間髪入れずに返されるメッセージに、スープのカップに伸びてた手がとまった。

『のぞみ、俺のも用意して』

「え、えっ」

 これ、どう返せばいいの……ってフリーズしたとき、部屋の中にインターホンの音が鳴り響いた。

「え、うそ」

 まさか……って思いながら腰を上げたら、また、インターホンの音。
 こんな早朝にうちに来る人なんて誰もいない。いなかった。
 でもなんとなくなんだろうな……って思いながら、尋ねることなく玄関を開けた。

「おはよう、のぞみ」
「竜司、さん」

 やっぱりな人がいた。
 きっちりスーツを着込んで、髪も整えた社会人な竜司さんだ。

「おはよ……」
「入れてくれないのか?」

 竜司さんは笑いながら僕の耳元に口を寄せてきて…、べろりと舐めながらそう言ってきた。

「っ、どう、ぞっ」
「ん、ただいま?」
「お、おかえりなさい………って、それ、なんか変……っ」
「そうか?」

 竜司さんはずっと笑ってて、玄関が閉まると同時に僕をきつく抱きしめてきた。

「りゅ」
「のぞみ」

 重なる唇。
 キスなんて優しいものじゃなくて、竜司さんが大好きな貪る口付け。

「んん……っ、ん、ぅっ」

 嫌じゃない。
 多分僕が欲しかったもの。

「……甘い。イチゴジャム?」
「ん、うん」
「俺にも食べさせて」
「ん……っ」

 竜司さんに抱え上げられた。
 口付けはしたまま。
 スーツをビシッと着た竜司さんに、まだ寝間着のままの僕。なんか、変なの。
 玄関から居間に入った竜司さんの舌が止まった。
 じゅ…って吸って、溜まった唾液を飲み込んで、僕の濡れた唇を舐めながら、竜司さんが離れていった。

「随分と可愛いことしてるな」
「なに…?」
「もしかして俺の代わり?」

 笑う竜司さん。
 テーブルの上には、食べかけの朝食。
 それから、ちょこんと座る竜司さんカーディガンを着た猫ぬいぐるみ。

「はぅあ…っ」
「可愛すぎるだろ……」

 降ろされてすぐ、猫ぬいぐるみを抱き上げた。
 ……だって。
 どうしてか寂しかったし。

「のぞみ」
「なにっ」
「代理じゃなくて俺のことを抱きしめろ?」

 代理。うん。確かに代理。
 ……そんなことを真顔で言う竜司さんに、つい笑ってしまった。なんだか嬉しくて、手を広げられてるから竜司さんに抱きついた。





 竜司さん用にパンを追加でトーストする。カップスープと紅茶も。
 流石にそれだけじゃ竜司さんがお腹をすかせそうだから、卵三個分のプレーンオムレツも作った。チーズ入りで、とろとろの。
 野菜サラダは……なし。仕方なし。

「これも美味いな」
「チーズ嫌じゃない?」
「ああ」

 少し大きなお皿に、どんっとオムレツを乗せて、ケチャップを添えた。お皿にはスプーンを一本。
 竜司さんは、自分が食べたら次には僕の口にオムレツを運んでくれるから、だから、一本。

「大学は九時?」
「うん」
「送ってやる。だからそれまでのぞみの補充をさせろ」
「え、でも、会社」
「そんなの、どうとでもなる」

 いやいやいや、ならないでしょ!?

 っていう僕のツッコミは、竜司さんの口付けを受けて言葉にならなかった。






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