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『はいっ』

 嬉しかった。

『・・・・・・ふつつかものですが・・・よろしくおねがいします・・・』

 だから、私も精一杯レディーとして振る舞って返事をした。今の私が思い返すと、全然レディーじゃないし、気恥ずかしい思い出だけれど、何度でも心が躍る思い出。

『・・・・・・』

 私は目を閉じて、少しだけ口を尖らせた。
 親戚の結婚式の時のように誓いのキスをすると思ったからだ。
 でも、しばらく何も起こらず・・・

『ナナリー?』

 待っていたのは、レオンの唇ではなく、口頭だった。
 私が目を開けると、優しい顔をしたレオンが耳まで真っ赤にした顔でいた。この時には気づかなかったけれど、もしかしたら、キスをしようとして、躊躇っていたのかもしれない。

『キスは結婚するまでお預けだよ』

 少しカッコつけたレオンのセリフ。
 私も子供だったから、欲しくてもらえると思った貰えなくて少し腹が立った。

『えー、お父様やお母様はしてるよ?』

『ええっ!?』

『ほっぺだけどね』

『・・・』

 レオンは「なんだ、ほっぺか」と少しホッとしながらも、何か言いたそうな顔でチラチラと私を見てきた。どうやら、カッコいいレオンはどこかへ行ってしまったようだ。

(でも・・・カッコ良かったよ? レオン)

『レオンは・・・ほっぺでも他の人がキスするのはいや?』

『・・・あぁ』

『お父様やお母様でも?』

『・・・・・・・・・うん』

 この頃は正直だったレオン。そんなところも可愛らしくて好きだった。

『じゃあ、私。キスしない』

『えっ』

 嬉しそうに目を輝かせるレオン。

『だから、素敵な王子様になって迎えに来てね』

『王子様は・・・無理だよ』

『えーー、じゃあせめて白馬に乗って迎えに来てよ』

『白馬かぁ・・・』

『そうよ、白馬』

『白馬って本当にいるのかな?』

『いるわよ、絶対』

『うーん』

『じゃあ・・・ペガサスにしよっかな?』

『いや、わかった。白馬で迎えに行くよ』

『約束ね』

『ああ・・・』

 私たちは子どもながら相手に惹かれ合い、自然と顔・・・そして唇がまるで磁石のようにお互いを引き寄せあって、

『『あっ』』

 と、キスは結婚式までしないことをさっき誓ったばかりなのを思い出して、どちらともなく大笑いした。

 あの日は、私にとって一番幸せな日。
 それからしばらく、白馬は見つかった? とレオンに尋ねるのが私の中でブームで、あまりにもしつこいからいつも優しいレオンもついにはぶちギレして、一時期口も利かない期間があった。そらからお互い成長して、なんとなく同性で遊ぶことが多くなり、レオンとは疎遠になったけれど、しばらくしてまた普通に話すようになった。ただ、その頃には昔とは違って、私は女らしい体つきに、レオンは男らしい体つきになっていたのもあって、異性という壁が二人にはっきりとできた。

 でも、あの時の想いとあの時の約束は変わらない、そう私は思っていたのだった。
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