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 思い出は涙と共に道端に捨ててきた私は町を一人歩いた。
 せっかく晴れ晴れとした気持ちで出かけたのに、今の気持ちは少し重い。
 でも、私は初恋と決別をしてきたのだ。

 もしかしたら、そんな昔のことをまだ覚えていたのかと嘲笑されるかもしれない。重い女だって思われたかもしれない。でも、心の中にいつもあった大切な思い出に決別しないと、私は先に進めないのだ。だから、これでようやくレオンを無視して前を向ける。

(・・・駄目だ、駄目だ、駄目だっ)

 でも、さっきレオンにぶつけた言葉をきっかけに、レオンが私に再度婚約を申し出ないか期待している自分もどこかでいた。ただ、今回は一番派手にレオンにアピールしたけれど、何度も何度も繰り返し、レオンに言わせようとしたけれど、レオンは一向に私に告白して来なかったのだ。

(だから、今回だって・・・・・・)

「・・・お嬢さん」

「・・・」

「ちょっと、そこのお綺麗なお嬢さん」

「・・・」

「パラソルを持った綺麗なお嬢さんっ」

 物思いにふけっていた私だったけれど、大きな声が誰かを呼んでいるのが気になって辺りを見渡すと、同い年くらいの男性と目が合った。

「やっと、気づいてくれた」

 男性はとてもよく通るいい声をしていた。

「あぁ、すいません。私のことだと思わなくて。なんでしょうか?」

「浮かない顔をしていて、心配になってしまって・・・。何かあったんでしょうか?」

「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。では・・・」

 私は人様に心配かけるような姿で町を歩いていたのを反省して、彼にお辞儀をして立ち去ろうとすると、

「待ってっ!!」

 そう言って、私の行く前で両手を広げた彼。
 顔は整っており、身なりも稼いでいる商人だと思われるけれど、商人の中には奴隷の売買で稼いでいる悪どい者もいると言う。だから、私は少し身構えて、いつでも叫べる体制になった。

「いや、警戒しないでください。怪しい者じゃないんです。あぁ、そうですよね、そうですよね。怪しい奴こそそう言いそうですよね」

 半笑いしながら、必死に手を振る男。一応、仲間が後ろから襲ってこないかも疑うけれど、背後は特に問題はなさそうだ。男は私の警戒が緩まないのを悟ったのか、しっかりと背筋を伸ばして、緩んだ表情も真剣な顔になった。

「率直に言います。私、ナダルはアナタに一目惚れしました。私と婚約していただけませんか?」

 急に地面に片膝をついたナダル。
 ナダルはうるっとした色っぽい瞳で私を見上げた。

「えっ」

 急に動いたのは襲ってくるかと思って警戒した私は、脅しのほぼ真逆の愛の懇願を受けて、動揺したせいか心臓が高鳴った。


 
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