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第一部
陽光の中 2
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外から聞こえる小さな鳥の鳴き声に混じって、レフラの荒い呼吸音が聞こえていた。肩で息をする顔は紅く染まり目は潤んでいる。あわせて立ち上がる花の香りと相まって、纏う色香に唾を飲む。
(これが無自覚なのだから質が悪いな)
衝動をごまかすようにレフラの頬を指先で弄えば、紅く染まった頬を馬鹿にされたと思ったようだ。
「からかわないで下さい」
潤んだ目のまま睨み付けてくる姿が新鮮で楽しくなる。ギガイは喉奥で「ククッ」と笑った。黒族長であるギガイをにらみ付ける者など他にはいない。仮に居たとするならば、死の覚悟と引き換えだった。
だがその物珍しい経験が唯一ギガイが寵愛を向けるレフラからの視線である事に加えて、纏う気配で甘えからくるモノだと分かってしまえば、不快に感じようもなかった。
「からかった訳じゃ無い」
機嫌を取るように突いていた頬をスルリと掌で撫で上げる。宥めるような意図が伝わったのか、むくれたような表情のまま迷ったように二、三度レフラが目を瞬いた。それでも温もりには勝てなかったのだろう。しぶしぶと言いたそうな表情のくせに、しっかりと掌に擦り寄る様に相好が崩れそうになる。らしくない。そう思って、ギガイはとっさに咳をして誤魔化した。
「それで、欲しい物は決めたのか?」
穏やかな時間に満たされた気持ち。改めて尋ねる声も自然と甘くなっていく。窺うような目を見つめ返しながら促すようにフッと笑えば、花が綻ぶようにレフラの表情から固さが取れる。そしてそのままレフラがコクッと頷いた。
「何が欲しいんだ?」
それでも告げる事を躊躇っているのか、開閉を繰り返すだけのレフラの唇からは肝心な言葉が紡がれてこない。望むのなら、美しい紗も希少な宝石も珍しい書物も手に入る。そんな中で躊躇うほどの願いとは何なのか。
あまりに長い逡巡だった。さすがにギガイも訝しみ始めた頃、ようやく心を決めたのか、レフラの腕がスッと上がった。
「…外に出たいです」
しなやかな指先が指す先は、ガラス一枚を隔てた先に広がる外界。一瞬指先へ向けた視線を指を辿ってレフラへ戻す。不興を買う可能性は分かっての発言だったのか、レフラの目には縋るような色があった。
(御饌として与えたこの宮の外へなぜ出たがる?)
控え目ながらもハッキリと聞こえた言葉に、ギガイは自分でも急激に機嫌が悪くなるのを感じていた。あれほど散々教え込んだはずなのに、まだ離れたいというのだろうか。
「どういう事だ」
不機嫌さを隠していない声音は固い。その上、感情のままで垂れ流しにした威圧に躾の記憶が蘇るのか、レフラの身体がビクッと揺れた。
「毎日とは言いません。三日に一度、無理なら七日に一度でも構いません……」
最近躾らしい躾もなく甘い時間ばかりだったせいか、怯えの中でも必死に抗う様子を見せてくる。その必死さはそのまま外の自由を求める強さと言う事に他ならないはずだ。
(甘やかしすぎたようだな)
レフラが言葉を重ねれば重ねるほどに、ギガイの不興を煽っていく。それに一向に気が付いていないのか、言葉は止まらない。口を噤ませようと、ギガイが「黙れ」と言葉を発しかけた。
(これが無自覚なのだから質が悪いな)
衝動をごまかすようにレフラの頬を指先で弄えば、紅く染まった頬を馬鹿にされたと思ったようだ。
「からかわないで下さい」
潤んだ目のまま睨み付けてくる姿が新鮮で楽しくなる。ギガイは喉奥で「ククッ」と笑った。黒族長であるギガイをにらみ付ける者など他にはいない。仮に居たとするならば、死の覚悟と引き換えだった。
だがその物珍しい経験が唯一ギガイが寵愛を向けるレフラからの視線である事に加えて、纏う気配で甘えからくるモノだと分かってしまえば、不快に感じようもなかった。
「からかった訳じゃ無い」
機嫌を取るように突いていた頬をスルリと掌で撫で上げる。宥めるような意図が伝わったのか、むくれたような表情のまま迷ったように二、三度レフラが目を瞬いた。それでも温もりには勝てなかったのだろう。しぶしぶと言いたそうな表情のくせに、しっかりと掌に擦り寄る様に相好が崩れそうになる。らしくない。そう思って、ギガイはとっさに咳をして誤魔化した。
「それで、欲しい物は決めたのか?」
穏やかな時間に満たされた気持ち。改めて尋ねる声も自然と甘くなっていく。窺うような目を見つめ返しながら促すようにフッと笑えば、花が綻ぶようにレフラの表情から固さが取れる。そしてそのままレフラがコクッと頷いた。
「何が欲しいんだ?」
それでも告げる事を躊躇っているのか、開閉を繰り返すだけのレフラの唇からは肝心な言葉が紡がれてこない。望むのなら、美しい紗も希少な宝石も珍しい書物も手に入る。そんな中で躊躇うほどの願いとは何なのか。
あまりに長い逡巡だった。さすがにギガイも訝しみ始めた頃、ようやく心を決めたのか、レフラの腕がスッと上がった。
「…外に出たいです」
しなやかな指先が指す先は、ガラス一枚を隔てた先に広がる外界。一瞬指先へ向けた視線を指を辿ってレフラへ戻す。不興を買う可能性は分かっての発言だったのか、レフラの目には縋るような色があった。
(御饌として与えたこの宮の外へなぜ出たがる?)
控え目ながらもハッキリと聞こえた言葉に、ギガイは自分でも急激に機嫌が悪くなるのを感じていた。あれほど散々教え込んだはずなのに、まだ離れたいというのだろうか。
「どういう事だ」
不機嫌さを隠していない声音は固い。その上、感情のままで垂れ流しにした威圧に躾の記憶が蘇るのか、レフラの身体がビクッと揺れた。
「毎日とは言いません。三日に一度、無理なら七日に一度でも構いません……」
最近躾らしい躾もなく甘い時間ばかりだったせいか、怯えの中でも必死に抗う様子を見せてくる。その必死さはそのまま外の自由を求める強さと言う事に他ならないはずだ。
(甘やかしすぎたようだな)
レフラが言葉を重ねれば重ねるほどに、ギガイの不興を煽っていく。それに一向に気が付いていないのか、言葉は止まらない。口を噤ませようと、ギガイが「黙れ」と言葉を発しかけた。
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