泡沫のゆりかご 一部・番外編 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

文字の大きさ
178 / 229
第一部

誤りを正して 11

しおりを挟む
思わず漏れたうめき声にレフラの顔が青ざめる。

「ギ、ギガイ様!? そう言えば、これ、ど、どうしよう…」

右往左往するレフラに落ち着けとギガイが苦笑を浮かべて見せた。そのまま腰に付けた小袋の中から青色の玉を1つ取り出し火を点ける。途端に立ち上がる一条の青い煙にレフラが目を瞬かせた。

「どうせ近くにやつが居るだろう」

ギガイの推測通り、数分も経たない内にリュクトワスと3人が駆け寄ってくる。

「ギガイ様、おケガは!?」

「お前はケガをしていることを前提に、この私に聞くのか」

ギガイの言葉にリュクトワスの顔に一瞬、あっといった表情が浮かぶ。

日頃から聡く状況認識に優れた側近は、何となく事態を把握していたのだろう。こうやって駆けつける早さに加えて折れた短剣から見ても、水面下で策を張り巡らせていたことが見て取れる。

その分そんな飄々とした策士が最後の最後で掘った墓穴がおかしかった。クククッと痛みに眉を顰めながらも笑う姿にリュクトワスもわずかに苦笑した。

「私は丈夫な剣を誂えろと言ったはずだが」

「それではギガイ様のお身体がそれを上回る丈夫さだったということでしょう」

あえて折れるように加工された短剣を渡しておいてうそぶく男の図太さはなかなかのものだ。

ギガイの側近として共に先代の長を葬った男だ。黒族長が御饌を失うことの危うさを知るリュクトワスには、ギガイが短剣を求めた意味もギガイがここにレフラと向かう意味も分かっていたということだろう。

「まぁ、そのおかげで傷が深くなく、出血も抑えられており良かったです」

確かに短剣とは言えども柄まで刺し込んでしまっていれば内臓を傷付ける可能性はあった。そのうえ抜いてしまえば大量出血で危なくなるのだから、リュクトワスとしてはリスク回避をしたかったのだろう。

だがギガイは何も今日レフラへ殺せと言っているわけではないのだ。だから当然急所も避けている。ただその時の話をしただけだった。

「今日予定していたわけではないのだがな」

「今日だけではなく、今後とも回避をお願い致します」

リュクトワスとしてはこんな騒動はもう2度と願い下げなのだろう。ハッキリと苦笑を浮かべた姿にギガイが口角を引き上げてニヤッと笑った。

「なに、私が亡き後はお前が一族を率いれば良い。私を手玉にしようとするぐらいだ、お前なら可能だろう」

「とんでもございません。以前も申し上げた通り、細く長く生き長らえるのが目標でございます。そうして穏やかな老後を過ごさせて頂きます」

「おや、細く長く生き長らえて私に仕えるのではなかったのか?」

「おや、そうでしたでしょうか?最近心労が重なりまして、眠れない日々を過ごしていたため少し物覚えが悪くなったようでございます」

「……お前も言うようになっているな。本当に私が亡き後はお前に任せることにしよう」

何を言っても平然と言い返すその姿に、呆れたようにギガイが言った瞬間だった。

「ギガイ様!!」

レフラの怒った声が耳に届いて、ギガイが驚きに目を見開いた。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...