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第一章2人の未来(みく)
泣き虫になった訳 -marineside
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夢の中の私が風邪を引いていて熱を出したのは、私の調子が悪かったからなのかな。
そう思うくらい、私はその日、気分が悪かった。だだ、特にその日は悪かったんだけど、実のところ今日ほどじゃなくても、その前からずっと調子は良くない。
だからと言って、お医者さんに行く気にはなれなかった。お医者さんに行くには健康保険証を提示しなければならない。私の健康保険証はまだ有効なのだろうか……そんなことも分からない状態で、迂闊にかかれないというのが本当のところだ。
だからって、市販薬を飲む気にもなれなかった。空腹時には気分が悪いんだけど、それでも何かをたべてしまうと結構何とかなっていたからだ。
でも、その日はさすがに朝から何も食べる気になれず、そのままバイト先の喫茶店『ドルチェ』に向かった。
それにしても……あの夢、どんどんとリアルさを増していく。ママのママ倉本のお祖母ちゃんまで出てくるなんて思わなかったし。
私はますます、あれが夢だなんて思えなくなっていた。なら……なんなんだろう。もしかしたら「もう一人の私」がいるのかもしれないなんて……馬鹿げた発想だとは思うんだけど。
そんなことを考えながら歩いて、私は『ドルチェ』のドアに手をかけた。
「おはようございます」
「おはよ、未来ちゃん」
私が挨拶すると、マスターの菊池さんは、アイスコーヒーの仕込みをしながら私に挨拶を返してくれた。
「未来ちゃん、大丈夫?」
そのあと、菊池さんにいきなりそう聞かれた。
「何か?」
「顔色悪いよ、今日」
「……そうですか?別に、普通ですよ。」
私はしらばっくれてそう答えた。少々気分が悪いからって休んではいられない。時給だから休めばそのままバイト料に影響するし、板倉さんたちにも申し訳ない。働かないと。
それに、この私の気分の悪さはここのコーヒーには反応していないみたいだいし……そう思いながらPOPを書く。日替わりランチならぬ日替わりモーニングの文字。
名古屋エリアではほかの地方ではおまけ程度しかないモーニングが、そうではないのだ。2品3品は当たり前、コーヒーとがっつりとした朝食を食べることができる店も多い。
『ドルチェ』もそんな店の一つだ。菊池さんは料理の腕も一級品。毎日通常のトーストにプラスして、ちょっとした朝のおかずが付く。それが日替わりモーニングの中身。だけど、
「喫茶店じゃなくて、レストランでも充分やってけるんじゃないんですか?」
って私が言った時、
「それじゃぁ、俺のこのおいしいコーヒーが脇役になる。俺はコーヒーで勝負したいんだよ。コーヒー飲まない奴には、飯は作んない」
と笑う。
そう、ここドルチェはそんなマスター菊池さんの大好きが詰まったお店。そういう空間はいるだけで心地いい。だから、なおさらいい加減な事をして辞めたくない。そのためにはできる限り迷惑をかけちゃいけない。
「未来ちゃん、一度も休んだことないでしょ」
「別に休むことないじゃないですか。ここにいるとホントに落ち着くんです」
「そんなこと言っても、何も出ないよ。まかないにプリンでも付けるくらいかな」
「やった! プリン付けてくれるんですね」
ガッツポーズをした私に、
「しまった! ま、良いよ。ああ、タケさんいらっしゃい」
菊池さんはそう言って苦笑いすると、折から入ってきたお客さんに挨拶した。
だけど、お昼前になって、今度はランチのためのご飯を炊飯器が湯気をあげて炊き始めた時、私はものすごい吐き気に襲われて、朝何も食べていないのに吐いてしまった。それを見た菊池さんは、口を結んで軽くため息をついた後、
「未来ちゃん、ホントに今日は帰んな」
と、言った。
「そんな、今からランチの時間なのに……」
一番忙しい時間に帰ってなんかいられない。
「だからだ。そんな時間に倒れられても、フォローもできないし、お客様にも迷惑がかかる。それに、今ならまだ午前中の診察に間に合う。帰り道に医者に寄って、今日はゆっくり休むんだ」
時間は11時をすこし過ぎたところ。今なら、近くのお医者さんで滑り込みで診てもらえるに違いない。
少しの押し問答の末、私はとりあえず『ドルチェ』を出た。そして、医者には寄らずそのままアパートに戻った。
アパートについた私は、膝を抱えて自分の部屋のラグに座り込んだ。
私……何か病気なんだろうか……涙がまた出てきた。私は本当に泣き虫になったみたいだ。
お昼過ぎ、ぼーっとしている私のところへ、午前の部を終えた加奈子さんが来てくれた。
「未来ちゃん、調子悪いんだってね」
「あ、今は何ともないです」
「そう?」
加奈子さんは私の返事に、疑わしそうに返事をしてから、
「でも、夕方には私と一緒にお医者さんに行こうね」
と強い調子で私に言った。
「えっ、でも『いたくら』は?」
「ランチタイム以外は大体修司だけで大丈夫だし、今日はマナに手伝うように言ってあるわ。定期試験が終わったばっかだから……」
「でも、マナちゃんは受験……」
「1日くらいは、息抜きでちょうどいいのよ。それに、マナは愛想人間だから、結構お客様のウケも良いしね。それより私は、未来ちゃんの身体が心配」
「あ、ありがとうございます……」
ただ店にふらりと現れただけの私にここまで優しくしてくれる加奈子さん。そんな加奈子さんを文句も言わずに送り出してくれた修司さんや瞳ちゃんの優しさに、私はまた涙が出た。
「そうなのよ、そういうとこが余計そうだと思うから……」
でも、その後加奈子さんはぼそっとそう、私に解らないことをつぶやいた。
「そうそう、それとコレ」
それから加奈子さんはおにぎりを取り出して、
「どうせ朝から何も食べてないんじゃないかと思って」
と笑った。ホントに何でもお見通しなんだなぁ……私はそう思いながら肯いて、そのおにぎりを半分に割った。中身は梅干しだった。たぶん、私の胃の調子を考えてそうしてくれたんだろうけど、実は私は梅干しが苦手。でも、そんなこと言っちゃ失礼だから、私は黙って口に入れた。
「美味しい……」
でも、予想に反してそれはすごく美味しく感じた。酸っぱさが却って心地よく感じた。
「良かったやっと笑ったわね」
そういうと、加奈子さんはマグボトルから味噌汁を取り出し、紙コップに入れて私の前に置いた。
そして、夕方私は加奈子さんに連れられて、近くの病院に向かった。
しかし、連れられたクリニックを前にして私は固まったまま立ち尽くした。
そこは……
そう思うくらい、私はその日、気分が悪かった。だだ、特にその日は悪かったんだけど、実のところ今日ほどじゃなくても、その前からずっと調子は良くない。
だからと言って、お医者さんに行く気にはなれなかった。お医者さんに行くには健康保険証を提示しなければならない。私の健康保険証はまだ有効なのだろうか……そんなことも分からない状態で、迂闊にかかれないというのが本当のところだ。
だからって、市販薬を飲む気にもなれなかった。空腹時には気分が悪いんだけど、それでも何かをたべてしまうと結構何とかなっていたからだ。
でも、その日はさすがに朝から何も食べる気になれず、そのままバイト先の喫茶店『ドルチェ』に向かった。
それにしても……あの夢、どんどんとリアルさを増していく。ママのママ倉本のお祖母ちゃんまで出てくるなんて思わなかったし。
私はますます、あれが夢だなんて思えなくなっていた。なら……なんなんだろう。もしかしたら「もう一人の私」がいるのかもしれないなんて……馬鹿げた発想だとは思うんだけど。
そんなことを考えながら歩いて、私は『ドルチェ』のドアに手をかけた。
「おはようございます」
「おはよ、未来ちゃん」
私が挨拶すると、マスターの菊池さんは、アイスコーヒーの仕込みをしながら私に挨拶を返してくれた。
「未来ちゃん、大丈夫?」
そのあと、菊池さんにいきなりそう聞かれた。
「何か?」
「顔色悪いよ、今日」
「……そうですか?別に、普通ですよ。」
私はしらばっくれてそう答えた。少々気分が悪いからって休んではいられない。時給だから休めばそのままバイト料に影響するし、板倉さんたちにも申し訳ない。働かないと。
それに、この私の気分の悪さはここのコーヒーには反応していないみたいだいし……そう思いながらPOPを書く。日替わりランチならぬ日替わりモーニングの文字。
名古屋エリアではほかの地方ではおまけ程度しかないモーニングが、そうではないのだ。2品3品は当たり前、コーヒーとがっつりとした朝食を食べることができる店も多い。
『ドルチェ』もそんな店の一つだ。菊池さんは料理の腕も一級品。毎日通常のトーストにプラスして、ちょっとした朝のおかずが付く。それが日替わりモーニングの中身。だけど、
「喫茶店じゃなくて、レストランでも充分やってけるんじゃないんですか?」
って私が言った時、
「それじゃぁ、俺のこのおいしいコーヒーが脇役になる。俺はコーヒーで勝負したいんだよ。コーヒー飲まない奴には、飯は作んない」
と笑う。
そう、ここドルチェはそんなマスター菊池さんの大好きが詰まったお店。そういう空間はいるだけで心地いい。だから、なおさらいい加減な事をして辞めたくない。そのためにはできる限り迷惑をかけちゃいけない。
「未来ちゃん、一度も休んだことないでしょ」
「別に休むことないじゃないですか。ここにいるとホントに落ち着くんです」
「そんなこと言っても、何も出ないよ。まかないにプリンでも付けるくらいかな」
「やった! プリン付けてくれるんですね」
ガッツポーズをした私に、
「しまった! ま、良いよ。ああ、タケさんいらっしゃい」
菊池さんはそう言って苦笑いすると、折から入ってきたお客さんに挨拶した。
だけど、お昼前になって、今度はランチのためのご飯を炊飯器が湯気をあげて炊き始めた時、私はものすごい吐き気に襲われて、朝何も食べていないのに吐いてしまった。それを見た菊池さんは、口を結んで軽くため息をついた後、
「未来ちゃん、ホントに今日は帰んな」
と、言った。
「そんな、今からランチの時間なのに……」
一番忙しい時間に帰ってなんかいられない。
「だからだ。そんな時間に倒れられても、フォローもできないし、お客様にも迷惑がかかる。それに、今ならまだ午前中の診察に間に合う。帰り道に医者に寄って、今日はゆっくり休むんだ」
時間は11時をすこし過ぎたところ。今なら、近くのお医者さんで滑り込みで診てもらえるに違いない。
少しの押し問答の末、私はとりあえず『ドルチェ』を出た。そして、医者には寄らずそのままアパートに戻った。
アパートについた私は、膝を抱えて自分の部屋のラグに座り込んだ。
私……何か病気なんだろうか……涙がまた出てきた。私は本当に泣き虫になったみたいだ。
お昼過ぎ、ぼーっとしている私のところへ、午前の部を終えた加奈子さんが来てくれた。
「未来ちゃん、調子悪いんだってね」
「あ、今は何ともないです」
「そう?」
加奈子さんは私の返事に、疑わしそうに返事をしてから、
「でも、夕方には私と一緒にお医者さんに行こうね」
と強い調子で私に言った。
「えっ、でも『いたくら』は?」
「ランチタイム以外は大体修司だけで大丈夫だし、今日はマナに手伝うように言ってあるわ。定期試験が終わったばっかだから……」
「でも、マナちゃんは受験……」
「1日くらいは、息抜きでちょうどいいのよ。それに、マナは愛想人間だから、結構お客様のウケも良いしね。それより私は、未来ちゃんの身体が心配」
「あ、ありがとうございます……」
ただ店にふらりと現れただけの私にここまで優しくしてくれる加奈子さん。そんな加奈子さんを文句も言わずに送り出してくれた修司さんや瞳ちゃんの優しさに、私はまた涙が出た。
「そうなのよ、そういうとこが余計そうだと思うから……」
でも、その後加奈子さんはぼそっとそう、私に解らないことをつぶやいた。
「そうそう、それとコレ」
それから加奈子さんはおにぎりを取り出して、
「どうせ朝から何も食べてないんじゃないかと思って」
と笑った。ホントに何でもお見通しなんだなぁ……私はそう思いながら肯いて、そのおにぎりを半分に割った。中身は梅干しだった。たぶん、私の胃の調子を考えてそうしてくれたんだろうけど、実は私は梅干しが苦手。でも、そんなこと言っちゃ失礼だから、私は黙って口に入れた。
「美味しい……」
でも、予想に反してそれはすごく美味しく感じた。酸っぱさが却って心地よく感じた。
「良かったやっと笑ったわね」
そういうと、加奈子さんはマグボトルから味噌汁を取り出し、紙コップに入れて私の前に置いた。
そして、夕方私は加奈子さんに連れられて、近くの病院に向かった。
しかし、連れられたクリニックを前にして私は固まったまま立ち尽くした。
そこは……
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