桃太郎のエロ旅道中記

角野総和

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桃太郎、ホテルの中でお留守番

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桃太郎   「うっひょほほぃぃぃ。この間来た時は気づかなかったけど、この部屋結構仕掛けがあるぅぅ」

猿川    「お?桃ちゃん、気にいったんかいな?」

桃太郎   「へ~、これが猿さんの趣味かぁ。結構マニアック」

猿川    「ふえ?」

桃太郎   「だって、ホラ。ここのビデオのラインナップ」


ズラリ――――――――

『 人妻・寝取り15選 』
『 まだまだイケる!麗子・54歳 』
『 ご主人様にラブチュ~入♡メイドのご奉仕 』
『 兄貴と呼ばせて・温泉街で裸の付き合い 』


桃太郎   「特に4番目とかぁ………」

猿川    「ぐっは………濡れ衣やぁ」




*************************************



雰囲気にのまれて桃太郎が頷いてからはや数時間。

待つだけの桃太郎には時間が止まっているんじゃないかと疑いたくなるじれったさだ。立ったり座ったり、布団を広げたり畳んだり、美しく飾られた花瓶や額まで入れ替えたり戻したりしながら待った。
あらゆることをしつくして飽きてきた頃、ようやく猿川が帰ってきた。

歓喜の声を上げて飛びつく桃太郎。

「ぅおいぃぃ。えらい歓迎ぶりやな、桃ちゃん」

ふざける猿川に取り合わず、集めた情報を吐けとせっついた。

「早く早く。猿さんが帰って来るのを待ってたんだよ~。早く~~」
「う~ん。早くぅ~って、違う状況で言われたんやったら嬉しいんやけどなぁ」
「ブッブ~、エロ禁止。まじめに取り組んでよねっ!」

口をとがらせて文句を言えば、腰を落ち着けた猿川があれこれ聞き込んできたことを説明してくれた。


それによると今回の事はやはり七五三家の意向で、警備隊と一緒にいた貴族ふうの役人たちは七五三家の人間だったらしい。故に浦島家一行が連行されたのは警備隊詰め所ではなく七五三家のどこか。
そして当たり前だが、桃太郎や猿川があの場に駆け付けるより前に駕籠が来て、浦島家から三太郎を連れ出したらしい。

しかし七五三家は清信も実篤も不在のまま。
つまり、今回の一件で指揮を執っているのは八月一日の4男だという事だ。


「え~、4男ってあのひょろっとした人だよね?あの人って当主の爺ちゃんの付き人っぽい仕事してたって聞いてるよ。だったら爺ちゃんの指示かもよ?」

不在とはいえ当主の許可なく村の庄屋を捕まえるだろうか。

桃太郎がそう言えば、猿川はあっさり否定した。

「そりゃないやろ。詳しくはわからんけど、爺様当主は襲われて寝込んどんやろ。多少栄えとるとはいえ、こんな田舎の庄屋を罰する事くらい書面報告で片つくんやないか。しかも子飼いの、次期当主の側近候補が監禁されとったんや。踏み込んでも言い訳立つやろ」
「でもっ、それは……三太郎は鯉子ちゃんを誘拐したから……」
「あかんあかん。言っちゃなんだがたかが村娘ひとり、貴族が召し上げた位じゃ問題にならへんよ。届け出ても、貴族側に出される罰ははした金の賠償金位やろ。在住の領主が動いたら別やろけど、中央の貴族が裁定したら、んなもんや」
「酷い……」

聞いた桃太郎は益々焦ってしまう。早く鯉子を、太之助や乙や犬山をたすけないと飛んでもない事になりそうだ。

「猿さん、猿さん。早く救けに行こう。暗くなったし、こっそり忍び込んだら大丈夫なんじゃない?」

とにかく皆を救い出す事しか考えられない桃太郎だ。名案など思い付かない。ただただ直情的に提案する。

「あかんやろ、さすがに。そんなんしてみ~や。今度こそ脱獄罪で正真正銘の犯罪者になってまうで。庄屋の仕事どころかこの村に住むのも無理になってまうやんか」
「うぅ………」
「ま、なにか新しい事がわかったら連絡してもらえるよう頼んだ~るから、今は我慢や。大人しゅ~待つだけや」

猿川に言われ、桃太郎も渋々だが大人しく座り込んだ。



桃太郎は人が4人は寝れそうな巨大なベッドの上に体を丸めて座り、ぼうっと天井を眺めていた。何度もかきむしった髪はぐしゃぐしゃで、着物もシワシワになっている。食事も欲しくないし風呂に入る気にもなれない。
ただ、じっと待つしかできなかった。捕まった皆はどんな目にあっているのだろうか。無事だろうか。暴力をグルわれていないだろうか。そんな思いがぐるぐる渦巻いて、重い溜息を繰り返し吐きながら。

気がつけば、猿川が湯のみを手にして側に立っていた。

「桃ちゃん。食事は無理でも水分だけは取っとき。さもないといざという時に動かれへんで」

欲しいとは思えなかったが、猿川の言葉に背中を押されゆっくり飲む。
知らぬ間に体が乾いていたのか、喉を通った水分が胃の中に落ち、手足へ染み込んでいく感覚に小さく声が洩れる。
だが、そこでも頭の中を占めるのは皆はきちんとお水を飲んでいるだろうか、という心配だった。

「ねえ、猿さん。皆は――――」

言いかけた時だ、扉が叩かれた。

警備の手の者か、それとも猿川の知り合いか。
桃太郎が凍り付いたようになって見上げると、大丈夫だと言う風に頷く猿川。

「わいが出る。桃ちゃんは座っとき」

立ち上がろうとした桃太郎の肩に手を置き、猿川が扉に向かう。
部屋の真ん中から扉に向かう緊張の時間はほん1分にも満たない寸暇だが、心臓が爆発しそうに大きく鼓動を刻んだ。

「おっまたせ~~しましたぁ~。夜の夢の白菊でっす~。本日は御呼出し、ありがとうございまっす~」

扉が開いたのと同時に華やかな着物を纏った色っぽい美女が、甲高い声で歌うように挨拶しながら飛び込んできた。一瞬女性が部屋を間違えたのかと思ったが、すぐに違うと知れた。彼女が猿川の名を呼んだから。

「え……っと、猿さん?」

この非常事態に綺麗なお姉さんといちゃこらするつもりなのかとジト目で見れば、猿川は顔の前で両手を振りながら否定する。

「ちゃうっ!ちゃうで、桃ちゃん。これは繋ぎや。何か新しい情報があったら持ってきてもらうって言うたやろ。あれや」
「うふふ。怪しまれずにホテルの個室を訪ねれるのって娼婦位だものね~。でも出張料金は弾んでもらうからね」

笑うその人を良く見れば、幽霊騒ぎの時に顔を合わせた娼婦の白菊あの人で。遅ればせながら桃太郎も頭を下げた。

「さて、と冗談は置いといて。大変よ、猿川さんたち。店に来た七五三家の下っ端ひとから聞いたんだけど――――」


白菊の話によれば――――――拘束、連行された浦島家一行の罪は八月一日 三太郎への誘拐、障害、監禁容疑。ひとつ村を代表する庄屋とはいえただの庶民が貴族の子息を害したのだ。重罪に値する。
そのような大それた企みを弄する一家故、調べれば余罪が多々出る恐れがあるから、身柄を拘束しつつ厳しい取り調べを行う予定である―――――らしい。


「「は?」」

ポカンと阿呆面を晒したのは許して欲しい。

被害者と加害者が交代している。三太郎を誘拐監禁?いや、それ違うから。誘拐されたのも監禁されたのも鯉子だから。

「意味不明なんだけど?」

桃太郎が呟けば、あきれた声で猿川も応じてくれる。

「凄いでっち上げやなぁ。下手したら三太郎が東村の娘さんを弄んだんまでこっちの罪にされるんちゃう?自分らに都合悪い事はぜ~んぶわいらに押し付けたりしてな」

わははと嗤う猿川に違うと答えられない桃太郎だった。

「ど、どうするの~。これって益々危険な状況になってるよ~」

公平な立場の取り調べはあるだろうか。七五三家の手の者が調べるなら、形だけになるんじゃないか。そんな事になったら皆をたすけられなくなる。


顔色を悪くした3人は言葉もなく黙り込んだ。



だが、天は桃太郎たちを見放していなかった。

またもや扉がノックされ、転がるみたいに勢いよく白菊の同僚の楓が飛び込んできた。

「うわっ、今度は楓ちゃんかいな。って、大丈夫?売れっ子が2人も外にでて。店ん中、てんてこまいしとんちゃう?出張料、ぼられそうやん」

わざとらしく猿川が震えて見せるから、部屋の空気が少しだけ軽くなった。

「白菊姐さんが出た少し後に店におっきな男の人が来たのよ。何か熊みたいなでっかい人。禿たちがビビって泣き出しちゃったし用心棒は警戒して店先で怒鳴るし、大騒ぎになったんだから」

楓は男の背丈を教えようと腕を目いっぱい伸ばしている。

「大男ったって客でしょうに。女将さんが対応したんじゃないの?」
「もちろんよ。でもさ、姐さんは見てないから平気でいられるのよ。あたし、あんな恐ろし気な男を見たの、生まれて初めてだったわ~。体付きだけじゃないのよ。顔も恐いの。髪も髭も赤くてもじゃもじゃだし、見た事ない形の青い着物を着てるのよ。絶対普通じゃないと思ったわ」


ん?赤い髪ともじゃ髭?青い衣類?

知っているキーワードに首を傾げる桃太郎。記憶にあるそれは、蜘蛛の巣谷の男性と一致する。

「え……とぉ、それって………」

蜘蛛の巣谷からの連絡ですか?と聞こうと思ったのに、一瞬早く白菊が遮った。

「で?あんたはその恐ろしい客から逃げてきたとでも言うつもり?」
「違うわよ~。そりゃあんな恐ろしい男と寝たくはないけど、指名されたら客は客よ。お金と思って寝っ転がるわよ。でも違うの。そうじゃなくて、あの人は桃太郎ちゃんたちを訪ねてきたのよ。妹さんからだっていう手紙を届けてくれたのよ」

やはり、蜘蛛の巣谷の人間だった。実篤を探しに行ったアシニレラからの連絡だ。

「「手紙っ!!」」

喜びの余り楓に飛びつき、手紙を奪い取った2人は顔をくっ付けるようにして紙を覗き込む。


『 七五三 実篤殿を発見、捕獲した。急ぎ竜宮村まで連行する。 アシニレラ 』


え?捕獲したの?連行するの?え?え?えええ?



わかりやすい短文だし、2人が期待した通りの内容だ。しかしながら一抹の不安が残る内容だった。








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