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あれは引き取られてすぐのときだったと思う。叔母さんと叔父さんの会話を偶然にも聞いてしまった。
ーねぇ…発情期っていつ頃来るのかしら?あさひくん遅くないかしら?
ーそうだなぁー、あさひくんは体も小さいから…まぁ20歳になっても来なかったら、そのときには病院に連れて行こう。
ー全く姉さんも私達に任せっきりで死んじゃうなんてねぇ…治療費だってかかったし…
ーそうだよな。でもオメガだし、見た目まだ幼いけどかわいい顔してるから発情期が来たら、金持ちのアルファに高く買い取ってもらって番にしてもらえるさ。そしたら今までの治療費と養育費、代わりに払ってもらわないと、面倒みてるのに割に合わないよな~
ーそんな人いるの?
ーいるさ。オメガがいいって言ってる人は…金持ちの知り合いならいるぞ。
ーでもあんた大丈夫なの?発情期を迎えた子に手なんか出さないでよ。問題になったら困るんだから。
ーわかってるって。お前だけだから。だいたい俺はベータなんだからオメガの匂いなんてわかるわけないだろう?だから心配するなって。
それを聞いた時、怖くて怖くて…どうしたらいいかわからなくて震えてしまった。僕は発情期がきたら売られるんだ。母さんの治療費を返すために…今だって、叔父さんの工場で働いてもらったお給料のほとんどを渡してるのに…まだ足りないの?あといくら返せば…でもどんなに働いても僕は発情期が来たら好きでもないアルファと番になる為に売られるんだ。
母さんみたいに番に捨てられるかもしれないけど…
発情期には薬で抑えて、苦しんで…でも結局、番がいない辛さを死ぬまで味わわないといけない…そんなの辛すぎる。僕には無理だ。
とりあえず発情期が来なければ売られないんじゃないかとネットの情報を次々と探した。そこに載っていた発情期を遅らせる薬は海外のものだった。とても高かったけど、高校の時から貯めてたバイト代で買ってみた。叔父さんと叔母さんにバレないように…結局その薬を今もずっと買って飲み続けてる。そのおかげなのか、いまだに僕は発情期は来ていない。最近は副作用の症状が酷くなってきたと感じる。吐き気や頭痛がしてかなり辛い時もあるけど、遅らせるためには仕方ないと我慢した。まだ大丈夫、大丈夫。と思っていたが、とうとうぼくは…明日で20歳を迎えてしまう。
今朝、叔母さんが「まだ来ないみたいよ。病院に連れて行くから明日は仕事お休みさせてね」と叔父さんと会話してるのを聞いてしまった。もうタイムリミットなのか…どうやってこの家から抜け出そうと考えながら仕事をしていたら、お昼過ぎに親戚に不幸があったから出かけてくると叔父さんと叔母さんから言われた。明日には一旦帰って来れると思うから戸締りだけは、ちゃんとしてね。と2人で出かけて行ってしまった。
いつも通り仕事が終わって僕は急いで薬や財布をかばんに入れて周りの人にわからないように遠回りして駅に行った。そしてこの街にやってきた。
僕は満天の星空を見ながら今までの人生を振り返った。今日で人生最後だと思うと…僕の人生ってなんだったんだろう。幸せと感じたのは母がまだ生きていた頃だったんじゃないかと…今度、生まれ変わったら、バース性のない世界に生まれたい。そしたら番を作ることもない。番に捨てられると怯えることもない。
だから生まれ変わったら、今度こそ、今度こそ好きな人を見つけて幸せになりたい。
手のひらにある2つの錠剤を口の中に入れて水で飲み込んだ。この薬はネットで見つけた。かなり高い薬だったけど《今すぐ楽に、安らかになれます》そんな謳い文句に釣られて買ってしまった。だって今日で何もかも終わる。そう信じて…
「おい?大丈夫か?しっかりしろ。今、病院に連れてくからな。頑張れ!」
暖かくて、力強い声を聞きながら僕は意識を手放した。
暖かい日差しの中、僕は母さんと2人、手を繋いで歩いている。
「あさひ、少し疲れたから一休みしましょう。あの大きい樹の下なら日陰があるわね」2人で樹の下まで歩いた。
2人で大きな樹の下に座って空を見上げると樹の間から木漏れ日が降り注いでいる。なんて穏やかなんだろう。こんなに穏やかで幸せな気分なのは久しぶりな気がする。そんなことを考えていると…
「ねぇあさひ、見える?あそこにトンネルがあるの…あのトンネルを抜けるとね、たくさんのお花が咲いてるのよ。あさひ、お花を見てきて。帰ってきたら母さんに教えてほしいの。お願い」
「え?あのトンネル?母さんも一緒に行こう?」
「ううん…母さんは疲れたから一休みしてるわ。あさひはまだ元気でしょ?」
「わかった。じゃあたくさんのお花を摘んでくるから。母さんはここで待っててね!」
「うん。あさひが来るのをずっと待ってるから。気をつけてね。たくさん…たくさん色んなものを見ておいで」そう言いながら母さんは温かい手で頭を撫でてくれた。
僕は母さんの言葉通りに歩き出した。トンネルの中を進んできたが、進んでも進んでも出口が遠くにしか見えなくて…だんだん僕は寂しくなってきた。母さんのところに戻ろうかと降り向こうとしたら向こうの出口の方から「しっかりしろ!大丈夫か!頑張れ!」と大きな声が聞こえてきた。その声には聞き覚えがあった。暖かくて、力強くて…その声を頼りに歩いて行くと…急に眩しい光が差し込んできて思わず目を瞑った。
ーねぇ…発情期っていつ頃来るのかしら?あさひくん遅くないかしら?
ーそうだなぁー、あさひくんは体も小さいから…まぁ20歳になっても来なかったら、そのときには病院に連れて行こう。
ー全く姉さんも私達に任せっきりで死んじゃうなんてねぇ…治療費だってかかったし…
ーそうだよな。でもオメガだし、見た目まだ幼いけどかわいい顔してるから発情期が来たら、金持ちのアルファに高く買い取ってもらって番にしてもらえるさ。そしたら今までの治療費と養育費、代わりに払ってもらわないと、面倒みてるのに割に合わないよな~
ーそんな人いるの?
ーいるさ。オメガがいいって言ってる人は…金持ちの知り合いならいるぞ。
ーでもあんた大丈夫なの?発情期を迎えた子に手なんか出さないでよ。問題になったら困るんだから。
ーわかってるって。お前だけだから。だいたい俺はベータなんだからオメガの匂いなんてわかるわけないだろう?だから心配するなって。
それを聞いた時、怖くて怖くて…どうしたらいいかわからなくて震えてしまった。僕は発情期がきたら売られるんだ。母さんの治療費を返すために…今だって、叔父さんの工場で働いてもらったお給料のほとんどを渡してるのに…まだ足りないの?あといくら返せば…でもどんなに働いても僕は発情期が来たら好きでもないアルファと番になる為に売られるんだ。
母さんみたいに番に捨てられるかもしれないけど…
発情期には薬で抑えて、苦しんで…でも結局、番がいない辛さを死ぬまで味わわないといけない…そんなの辛すぎる。僕には無理だ。
とりあえず発情期が来なければ売られないんじゃないかとネットの情報を次々と探した。そこに載っていた発情期を遅らせる薬は海外のものだった。とても高かったけど、高校の時から貯めてたバイト代で買ってみた。叔父さんと叔母さんにバレないように…結局その薬を今もずっと買って飲み続けてる。そのおかげなのか、いまだに僕は発情期は来ていない。最近は副作用の症状が酷くなってきたと感じる。吐き気や頭痛がしてかなり辛い時もあるけど、遅らせるためには仕方ないと我慢した。まだ大丈夫、大丈夫。と思っていたが、とうとうぼくは…明日で20歳を迎えてしまう。
今朝、叔母さんが「まだ来ないみたいよ。病院に連れて行くから明日は仕事お休みさせてね」と叔父さんと会話してるのを聞いてしまった。もうタイムリミットなのか…どうやってこの家から抜け出そうと考えながら仕事をしていたら、お昼過ぎに親戚に不幸があったから出かけてくると叔父さんと叔母さんから言われた。明日には一旦帰って来れると思うから戸締りだけは、ちゃんとしてね。と2人で出かけて行ってしまった。
いつも通り仕事が終わって僕は急いで薬や財布をかばんに入れて周りの人にわからないように遠回りして駅に行った。そしてこの街にやってきた。
僕は満天の星空を見ながら今までの人生を振り返った。今日で人生最後だと思うと…僕の人生ってなんだったんだろう。幸せと感じたのは母がまだ生きていた頃だったんじゃないかと…今度、生まれ変わったら、バース性のない世界に生まれたい。そしたら番を作ることもない。番に捨てられると怯えることもない。
だから生まれ変わったら、今度こそ、今度こそ好きな人を見つけて幸せになりたい。
手のひらにある2つの錠剤を口の中に入れて水で飲み込んだ。この薬はネットで見つけた。かなり高い薬だったけど《今すぐ楽に、安らかになれます》そんな謳い文句に釣られて買ってしまった。だって今日で何もかも終わる。そう信じて…
「おい?大丈夫か?しっかりしろ。今、病院に連れてくからな。頑張れ!」
暖かくて、力強い声を聞きながら僕は意識を手放した。
暖かい日差しの中、僕は母さんと2人、手を繋いで歩いている。
「あさひ、少し疲れたから一休みしましょう。あの大きい樹の下なら日陰があるわね」2人で樹の下まで歩いた。
2人で大きな樹の下に座って空を見上げると樹の間から木漏れ日が降り注いでいる。なんて穏やかなんだろう。こんなに穏やかで幸せな気分なのは久しぶりな気がする。そんなことを考えていると…
「ねぇあさひ、見える?あそこにトンネルがあるの…あのトンネルを抜けるとね、たくさんのお花が咲いてるのよ。あさひ、お花を見てきて。帰ってきたら母さんに教えてほしいの。お願い」
「え?あのトンネル?母さんも一緒に行こう?」
「ううん…母さんは疲れたから一休みしてるわ。あさひはまだ元気でしょ?」
「わかった。じゃあたくさんのお花を摘んでくるから。母さんはここで待っててね!」
「うん。あさひが来るのをずっと待ってるから。気をつけてね。たくさん…たくさん色んなものを見ておいで」そう言いながら母さんは温かい手で頭を撫でてくれた。
僕は母さんの言葉通りに歩き出した。トンネルの中を進んできたが、進んでも進んでも出口が遠くにしか見えなくて…だんだん僕は寂しくなってきた。母さんのところに戻ろうかと降り向こうとしたら向こうの出口の方から「しっかりしろ!大丈夫か!頑張れ!」と大きな声が聞こえてきた。その声には聞き覚えがあった。暖かくて、力強くて…その声を頼りに歩いて行くと…急に眩しい光が差し込んできて思わず目を瞑った。
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