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「……ふふ、ふふふふ。ゼクス、見てちょうだい。この今期の国家決算書。ついに、ついに純利益が建国以来最高額を更新したわ!」
王都の中心にそびえ立つ、かつての王宮よりも豪華で機能的な『ローウェル・セントラル・タワー』の最上階。
私は、金貨の重みでたわむこともない頑丈なマホガニーのデスクを叩き、歓喜の声を上げました。
「おめでとうございます、ヒーナ様。……いえ、今は『総裁閣下』とお呼びすべきでしょうか。貴女の徹底した効率化政策により、この国の国民一人当たりのGDPは、隣国の三倍に達しましたよ」
隣に立つゼクスが、相変わらず隙のない執事服(最高級の防弾・防汚仕様)を纏い、優雅に一礼しました。
「素晴らしいわ。……でも、まだ満足はしていないの。次は隣国の『不良債権化している港湾都市』を買い叩く計画(TOB)を立てなければならないわね」
私は窓の外を見下ろしました。
かつては泥だらけだった路地は石畳で舗装され、そこには私が設立した銀行の看板と、機能性ドレスを着た活気ある人々が溢れています。
「ところで、ゼクス。例の『不良在庫』たちの近況はどうなっているかしら?」
「……ああ、彼らですか。報告書によりますと、カイル氏は現在、王立銀行の地下倉庫で『硬貨の仕分け作業』を担当しています。毎日、一ルクの誤差も許されないプレッシャーに耐えきれず、『数字が……数字が私を笑っているんだ!』と独り言を言っているそうですよ」
私は紅茶を啜りながら、満足げに頷きました。
「いい薬ね。数字に無頓着だった報いだわ。……では、ミア様は?」
「彼女は『格安石鹸の広報モデル』として、国境付近の村々を回っています。かつての『聖女のような笑顔』を貼り付けて、一日中冷水で洗濯物のデモンストレーションをさせられる日々だとか。……先日、『もうバラの香りは嫌、泥の匂いの方が落ち着く……』と涙ながらに漏らしていたそうです」
「まあ、ようやく彼女も『生産性』という言葉の意味を理解し始めたようね。完済まであと六十年ほどかかるけれど、せいぜい頑張ってもらいましょう」
私は手元の貯金通帳を開きました。
そこには、婚約破棄されたあの日には想像もできなかった、天文学的な数字が並んでいます。
「……ねえ、ゼクス。私、あの時カイル様に捨てられて、本当によかったと思っているの」
「おや。……それは、愛を知ったからですか?」
ゼクスが、眼鏡の奥の瞳を少しだけ和らげて私を見つめました。
「いいえ。……愛なんて、市場の変動で価値が変わる不安定な資産だもの。そうじゃなくて、あの婚約破棄が、私の『真の資産価値』を市場に知らしめる絶好のプロモーションになったからよ」
私は立ち上がり、ゼクスの胸元に手を置きました。
「悪役令嬢と呼ばれ、全てを奪われた。……けれど、数字(現実)から逃げなかった。だからこそ、私は今、この国で一番の『富』と、そして……貴方という、最高の『無形資産』を手に入れられたのよ」
「……光栄です。私の評価額を、今後も維持できるよう、精一杯努めさせていただきますよ。……オーナー」
ゼクスが私の腰を引き寄せ、私たちは誰もいないオフィスで、静かに唇を重ねました。
その甘い時間は、金銭換算すれば一秒につき金貨百枚以上の機会損失(ロス)かもしれませんが……今の私には、それくらいの「贅沢(コスト)」を支払う余裕は、十二分にあるのです。
「さて、ゼクス。休憩は終わりよ。……次のプロジェクトは、大陸全土の通貨統一ね!」
「……承知しました。どこまでも貴女についていきましょう。私の人生の全権委任先(パートナー)は、貴女しかいませんから」
私の高笑いが、夕日に輝く王都の空へと響き渡りました。
悪役令嬢? 結構。
婚約破棄? 大歓迎。
どん底から算盤一つで這い上がり、世界を買い叩く。
これこそが、最強の「効率主義ヒロイン」の、最も華麗な復讐劇(ビジネス)なのですから!
(さあ、明日も元気に金貨を数えましょうか!)
私の瞳は、沈みゆく太陽よりも激しく、黄金の輝きを放ち続けていたのでした。
王都の中心にそびえ立つ、かつての王宮よりも豪華で機能的な『ローウェル・セントラル・タワー』の最上階。
私は、金貨の重みでたわむこともない頑丈なマホガニーのデスクを叩き、歓喜の声を上げました。
「おめでとうございます、ヒーナ様。……いえ、今は『総裁閣下』とお呼びすべきでしょうか。貴女の徹底した効率化政策により、この国の国民一人当たりのGDPは、隣国の三倍に達しましたよ」
隣に立つゼクスが、相変わらず隙のない執事服(最高級の防弾・防汚仕様)を纏い、優雅に一礼しました。
「素晴らしいわ。……でも、まだ満足はしていないの。次は隣国の『不良債権化している港湾都市』を買い叩く計画(TOB)を立てなければならないわね」
私は窓の外を見下ろしました。
かつては泥だらけだった路地は石畳で舗装され、そこには私が設立した銀行の看板と、機能性ドレスを着た活気ある人々が溢れています。
「ところで、ゼクス。例の『不良在庫』たちの近況はどうなっているかしら?」
「……ああ、彼らですか。報告書によりますと、カイル氏は現在、王立銀行の地下倉庫で『硬貨の仕分け作業』を担当しています。毎日、一ルクの誤差も許されないプレッシャーに耐えきれず、『数字が……数字が私を笑っているんだ!』と独り言を言っているそうですよ」
私は紅茶を啜りながら、満足げに頷きました。
「いい薬ね。数字に無頓着だった報いだわ。……では、ミア様は?」
「彼女は『格安石鹸の広報モデル』として、国境付近の村々を回っています。かつての『聖女のような笑顔』を貼り付けて、一日中冷水で洗濯物のデモンストレーションをさせられる日々だとか。……先日、『もうバラの香りは嫌、泥の匂いの方が落ち着く……』と涙ながらに漏らしていたそうです」
「まあ、ようやく彼女も『生産性』という言葉の意味を理解し始めたようね。完済まであと六十年ほどかかるけれど、せいぜい頑張ってもらいましょう」
私は手元の貯金通帳を開きました。
そこには、婚約破棄されたあの日には想像もできなかった、天文学的な数字が並んでいます。
「……ねえ、ゼクス。私、あの時カイル様に捨てられて、本当によかったと思っているの」
「おや。……それは、愛を知ったからですか?」
ゼクスが、眼鏡の奥の瞳を少しだけ和らげて私を見つめました。
「いいえ。……愛なんて、市場の変動で価値が変わる不安定な資産だもの。そうじゃなくて、あの婚約破棄が、私の『真の資産価値』を市場に知らしめる絶好のプロモーションになったからよ」
私は立ち上がり、ゼクスの胸元に手を置きました。
「悪役令嬢と呼ばれ、全てを奪われた。……けれど、数字(現実)から逃げなかった。だからこそ、私は今、この国で一番の『富』と、そして……貴方という、最高の『無形資産』を手に入れられたのよ」
「……光栄です。私の評価額を、今後も維持できるよう、精一杯努めさせていただきますよ。……オーナー」
ゼクスが私の腰を引き寄せ、私たちは誰もいないオフィスで、静かに唇を重ねました。
その甘い時間は、金銭換算すれば一秒につき金貨百枚以上の機会損失(ロス)かもしれませんが……今の私には、それくらいの「贅沢(コスト)」を支払う余裕は、十二分にあるのです。
「さて、ゼクス。休憩は終わりよ。……次のプロジェクトは、大陸全土の通貨統一ね!」
「……承知しました。どこまでも貴女についていきましょう。私の人生の全権委任先(パートナー)は、貴女しかいませんから」
私の高笑いが、夕日に輝く王都の空へと響き渡りました。
悪役令嬢? 結構。
婚約破棄? 大歓迎。
どん底から算盤一つで這い上がり、世界を買い叩く。
これこそが、最強の「効率主義ヒロイン」の、最も華麗な復讐劇(ビジネス)なのですから!
(さあ、明日も元気に金貨を数えましょうか!)
私の瞳は、沈みゆく太陽よりも激しく、黄金の輝きを放ち続けていたのでした。
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