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「……ふむ。初期投資費用、食費、教育費、および二十年間の維持管理コストを算定した結果、このプロジェクトの期待収益率は……計測不能(プライスレス)ね」
王立ローウェル銀行の最上階、総裁室に隣接したプライベートラウンジ。
私は、金色の装飾が施された特注の揺りかご(耐震・防魔法仕様)を見つめ、真剣な面持ちで算盤を弾いていました。
揺りかごの中で眠っているのは、先日誕生したばかりの私とゼクスの第一子、アレクです。
「ヒーナ様。我が子を『プロジェクト』と呼ぶ母親は、この大陸広しと言えども貴女くらいですよ。……まあ、私も先ほど彼の将来の納税予測額をグラフ化したばかりですが」
隣に立つゼクスが、慣れた手つきでミルクの温度を「コンマ一度単位」で調整しながら言いました。
「失礼ねゼクス。これは最大限の愛よ。この子が将来、無能な王子に婚約破棄されるような『不良債権』にならないよう、今から徹底的なリスクマネジメントを行っているんですもの」
私は、アレクのぷにぷにとした頬を指先でつつきました。
「見て、この肌の弾力。これは将来、高機能化粧品の宣伝モデル(広告塔)としての資産価値も高いわね。……あ、ゼクス。彼の離乳食、我が社で開発中の『完全栄養食・ジュニア版』の試作を兼ねてもよろしくて?」
「許可できません。彼の味覚教育は、将来の『美食市場』への投資として非常に重要です。安易なコストカットは、将来的な感性(リテラシー)の欠如を招きますよ」
「……それもそうね。投資判断を誤るところだったわ。流石は私のパートナー(夫)ね」
私たちがそんな「高度な親バカ会話」を繰り広げていると、執務室の窓の外から、けたたましい騒音が聞こえてきました。
タワーの下、銀行の通用口付近で、ボロボロの作業着を着た男女が言い争いをしています。
「ちょっとカイル! 貴方の仕分けが遅いから、私の今日のボーナス(パンの耳)が減らされたじゃない! どうしてくれるのよ!」
「うるさいミア! お前こそ、掃除の途中でマシュマロの空き袋を拾って食べていただろう! その分の労働時間のロスを私になすりつけるな!」
かつての第一王子と自称ヒロインは、今や銀行の最底辺労働者として、一ルクを巡って醜い争いを続けています。
「……賑やかね。ゼクス、彼らの今日の生産性スコアは?」
「相変わらずの赤字(デッドストック)ですね。ですが、彼らをこうして『反面教師』として展示しておくことで、当行の若手行員たちの士気が十五パーセント向上しています。福利厚生費として計上すれば、十分にペイできていますよ」
「素晴らしいわ。無能な者にも、無能なりの『使い道(バリュー)』がある。これこそが真の効率化ね」
私は窓を閉め、静かになった部屋で再びアレクの寝顔を見つめました。
この子が成長する頃には、この国の通貨は大陸全土を支配し、愛や魔法ではなく「数字」が全ての平和を担保する世界になっているはずです。
「ヒーナ様。……そろそろ、本日の業務委託料……ではなく、『夫婦の夕食』の時間ですが。予約したレストランの株価が今日、三ポイント上昇しました。お祝いに、最高級のワインを開けましょうか?」
「ええ、いいわね。ただし、そのワインの時価が、明日の朝までに上昇する見通しがないか確認してからにしてちょうだい」
「……フッ。心得ておりますよ、我がオーナー」
私はゼクスの差し出した手を取り、優雅に立ち上がりました。
婚約破棄されたあの日、私の手元には何もありませんでした。
けれど今、私の指にはプラチナの指輪が光り、隣には最強の右腕がいて、揺りかごには無限の可能性(将来の純利益)が眠っている。
「……ゼクス。私、今が一番、投資対効果(コスパ)がいい人生を送っている気がするわ」
「ええ。ですが、私の愛(リターン)は、今後も複利で増え続けますから。覚悟しておいてくださいね」
「……っ。……その高い利息、一生かけて支払わせてもらうわよ」
私は少しだけ顔を赤らめ、彼の胸に寄り添いました。
悪役令嬢と呼ばれた私の物語。
それは、終わりのない「増収増益」の未来へと、これからも続いていくのです。
(さて、明日はどの市場を買い叩きに行きましょうか、ゼクス!)
夜空に浮かぶ月は、今日も変わらず金貨のように丸く、そして美しく輝いていました。
王立ローウェル銀行の最上階、総裁室に隣接したプライベートラウンジ。
私は、金色の装飾が施された特注の揺りかご(耐震・防魔法仕様)を見つめ、真剣な面持ちで算盤を弾いていました。
揺りかごの中で眠っているのは、先日誕生したばかりの私とゼクスの第一子、アレクです。
「ヒーナ様。我が子を『プロジェクト』と呼ぶ母親は、この大陸広しと言えども貴女くらいですよ。……まあ、私も先ほど彼の将来の納税予測額をグラフ化したばかりですが」
隣に立つゼクスが、慣れた手つきでミルクの温度を「コンマ一度単位」で調整しながら言いました。
「失礼ねゼクス。これは最大限の愛よ。この子が将来、無能な王子に婚約破棄されるような『不良債権』にならないよう、今から徹底的なリスクマネジメントを行っているんですもの」
私は、アレクのぷにぷにとした頬を指先でつつきました。
「見て、この肌の弾力。これは将来、高機能化粧品の宣伝モデル(広告塔)としての資産価値も高いわね。……あ、ゼクス。彼の離乳食、我が社で開発中の『完全栄養食・ジュニア版』の試作を兼ねてもよろしくて?」
「許可できません。彼の味覚教育は、将来の『美食市場』への投資として非常に重要です。安易なコストカットは、将来的な感性(リテラシー)の欠如を招きますよ」
「……それもそうね。投資判断を誤るところだったわ。流石は私のパートナー(夫)ね」
私たちがそんな「高度な親バカ会話」を繰り広げていると、執務室の窓の外から、けたたましい騒音が聞こえてきました。
タワーの下、銀行の通用口付近で、ボロボロの作業着を着た男女が言い争いをしています。
「ちょっとカイル! 貴方の仕分けが遅いから、私の今日のボーナス(パンの耳)が減らされたじゃない! どうしてくれるのよ!」
「うるさいミア! お前こそ、掃除の途中でマシュマロの空き袋を拾って食べていただろう! その分の労働時間のロスを私になすりつけるな!」
かつての第一王子と自称ヒロインは、今や銀行の最底辺労働者として、一ルクを巡って醜い争いを続けています。
「……賑やかね。ゼクス、彼らの今日の生産性スコアは?」
「相変わらずの赤字(デッドストック)ですね。ですが、彼らをこうして『反面教師』として展示しておくことで、当行の若手行員たちの士気が十五パーセント向上しています。福利厚生費として計上すれば、十分にペイできていますよ」
「素晴らしいわ。無能な者にも、無能なりの『使い道(バリュー)』がある。これこそが真の効率化ね」
私は窓を閉め、静かになった部屋で再びアレクの寝顔を見つめました。
この子が成長する頃には、この国の通貨は大陸全土を支配し、愛や魔法ではなく「数字」が全ての平和を担保する世界になっているはずです。
「ヒーナ様。……そろそろ、本日の業務委託料……ではなく、『夫婦の夕食』の時間ですが。予約したレストランの株価が今日、三ポイント上昇しました。お祝いに、最高級のワインを開けましょうか?」
「ええ、いいわね。ただし、そのワインの時価が、明日の朝までに上昇する見通しがないか確認してからにしてちょうだい」
「……フッ。心得ておりますよ、我がオーナー」
私はゼクスの差し出した手を取り、優雅に立ち上がりました。
婚約破棄されたあの日、私の手元には何もありませんでした。
けれど今、私の指にはプラチナの指輪が光り、隣には最強の右腕がいて、揺りかごには無限の可能性(将来の純利益)が眠っている。
「……ゼクス。私、今が一番、投資対効果(コスパ)がいい人生を送っている気がするわ」
「ええ。ですが、私の愛(リターン)は、今後も複利で増え続けますから。覚悟しておいてくださいね」
「……っ。……その高い利息、一生かけて支払わせてもらうわよ」
私は少しだけ顔を赤らめ、彼の胸に寄り添いました。
悪役令嬢と呼ばれた私の物語。
それは、終わりのない「増収増益」の未来へと、これからも続いていくのです。
(さて、明日はどの市場を買い叩きに行きましょうか、ゼクス!)
夜空に浮かぶ月は、今日も変わらず金貨のように丸く、そして美しく輝いていました。
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